クリープ損傷

クリープ損傷のイメージ図

クリープ損傷とは

設備の寿命を左右する代表的な損傷のひとつが「クリープ損傷」です。
この「クリープ(creep)」という言葉、「這うように進む」「じわじわ動く」という意味があります。
たとえばオートマチック車では、アクセルを踏まなくても車がゆっくり前に進みます。
あの現象も「クリープ現象」と呼ばれています。
このように、「時間とともにじわじわ進む」
――それがクリープの本質です。

クリープ損傷の3条件

高温で作動する火力発電プラントやジェットエンジン(ガスタービン)でも、この損傷が生じます。
ボイラの蒸気配管は、高温の状態で、長時間にわたって内部圧力を受け続けています。また、ジェットエンジンのタービンブレードは高温の燃焼ガスにさらされながら回転による遠心力が作用します。

つまり、
• 高い温度(Temperature)
• 一定の力(応力;Stress)
• 長い時間(Time)
という条件にさらされています。

この条件にさらされると、材料がすぐには壊れるというわけではありません。
ただ、アクセルを踏まない車が動き続けるように、徐々に変形が進んでいきます。
これが「クリープ変形」であり、これが蓄積して「クリープ損傷」となります。

クリープ損傷のやっかいな特徴

クリープ損傷の怖いところは、「気づきにくさ」にあります。

① 見た目に変化が出にくい
 通常、肉眼ではほとんど変化(伸びていること)がわかりません。
② 比較的低い力でも損傷する
 設計上は破壊することのない力(応力)でも、破壊に至ります。
③ 最後は一気に壊れる
 長い間じわじわ進んだ後、あるところで急激に破断に至ります。

つまり、「今は大丈夫」に見えても、確実に材料の寿命が削られているタイプの損傷です。

なぜ寿命が評価できるのか

ここが、人と設備の違いです。
人の老化は予測が難しいですが、クリープ損傷は比較的シンプルな原理に従っています。

• 温度が高いほど壊れやすい

• 応力が大きいほど壊れやすい
• 時間が長いほど壊れやすい

つまり、これらの条件を把握すれば、
「どれくらい損傷が進んでいるか」
「あとどれくらい使えるか」
を評価することができます。

クリープ損傷の寿命は「予測できる」

では、実際にクリープ損傷の寿命はどうやって評価しているのでしょうか。
ここで出てくるのが、Time–Temperature Parameter(TTP)という考え方です。
少し難しそうな名前ですが、本質はシンプルです。

クリープ損傷は、
• 温度が高いほど早く進む
• 長時間ほど進む
という特徴があります。

言い換えると、「温度」と「時間」はトレードでき、
「高温で短時間」「低温で長時間」は、同じようなダメージになることがあります。
この関係をうまく整理したものが、TTP曲線です。

TTP曲線は、とてもざっくり言うと
「ある温度で、あと何時間で壊れるか」
をまとめた設計用の地図のようなものです。
実験で
• 温度を変える
• 応力を変える
• 破断するまでの時間を測る
こうして得られたデータを整理すると、
温度・応力・寿命(時間)の関係が一本の曲線として表せます。

応力ラーソンミラーパラメータ曲線

この図のLMP(ラーソン・ミラー・パラメータ)は温度(T)と時間(t)の関数です。Cは材料ごとに決まる定数です。応力がわかれば青色のLMP曲線と交わる点のLMPの値がわかります。温度(T)とLMPの値から時間(tr)を求めることだできます。簡易評価として、この計算で求めた時間(tr)から設備の運転時間(t0)を差し引くことで寿命L(=tr-t0)が計算できます。

実務ではどう使うか

現場では、この関係をこう使います。
1. 設備の運転条件を把握する
 (温度と圧力 → 応力が分かる)
2. 材料ごとのTTPデータを使う
3. 「その条件なら何時間もつか」を読み取る

すると、「この設備はあとどれくらい使えるか」が計算で求められるようになります。

詳細に寿命評価する場合は、設備から何本か試験片を採取し、このLMP曲線を作成します。未使用材と設備から採取した材料のLMP曲線のLMPの差から、余寿命(L)を評価します。通常は、材料のばらつきなどを考慮して、計算で求めた余寿命の半分の値を『評価余寿命(LR=L/2)』として評価します。

応力ラーソンミラーパラメータ曲線

 

ここが “人との違い”

ここが導入部で書いた話につながります。
人の寿命は、

• 食生活

• 運動習慣
• 体質
• ストレス

など様々な要因が絡み、正確には予測できません。

一方で設備は、
• 温度
• 応力
• 使用時間
という比較的シンプルな要因で整理できます。
ですから、運転温度と作用応力が分かれば、寿命(時間)を推定できるわけです

クリープ余寿命の評価事例

クリープ損傷の余寿命評価事例として論文を紹介します。2番目の論文は余寿命を評価できれば、温度を下げることでさらに余寿命を延ばせることも記載した内容となっています。大型発電プラントの計画外停止を回避できた功績を評価していただき、火力原子力発電協会殿から苅田記念賞を受賞いたしました。

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ボイラ管寄せ管台溶接部から採取した使用材のクリープ余寿命評価

 

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<著者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業 出身 の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
USC・PFBC ボイラの基本設計・材料評価・損傷解析を担当。 現在は火力発電設備の材料選定・余寿命評価等を得意分野とする技術経営コンサルタント