業務経歴

石川島播磨重工業株式会社(IHI)時代:技術の基礎とビジネスの本質を叩き込まれた日々

1991年に石川島播磨重工業株式会社(現IHI)に入社し、技術研究所の構造材料研究部に配属されたところから私のキャリアが始まりました。希望していた部署とは異なりましたが、ここで加圧流動層複合発電(PFBC)プラント用伝熱管の摩耗(エロージョン)損傷というテーマと向き合うことになります。実機環境を模擬した試験装置を導入し、粒子衝突速度の影響や酸化スケールによる保護効果のメカニズムを解明。この研究で得た知見は、後にIHIの電力事業部へ異動してからのPFBCボイラの設計や材料仕様決定のベースとなりました。

電力事業部では研究者の枠を超え、実機のクリープ、腐食、摩耗といった多様なトラブル対応に勤しみました。客先である電力会社やベンダー、社内の工場やサービス部門と直接渡り合う中で、「製造性と経済性を両立させる材料選定」「実機における損傷メカニズムの看破」「トラブルの影響を最小化する実務」を叩き込まれました。この時期の経験がビジネスパーソンとしての土台となり、技術士(金属部門)および中小企業診断士の一発合格にもつながりました。

耐高温腐食・耐摩耗溶射材のボイラへの適用

ボイラの予防保全に関する最近の取組み

 

コンサルティングと東京大学TLOでの異分野への挑戦

事業部での業務に行き詰まり感を感じ、中小企業診断士の資格を活かしてコンサルタント業界へと身を投じました。デロイト トーマツにてISO9001の導入支援業務を担当し、経営者と直接向き合いながら組織の課題を洗い出し、仕組み化していくコンサルティングの実践知を学びました。

 

さらに、東京大学TLOへと移り、大学の優れた研究シーズや特許を企業へライセンスする産学連携・技術移転の最前線に立ちました。理工学だけでなく医・歯・薬・農学にわたる幅広い研究者の発明に触れ、光触媒研究の世界的権威である藤島昭先生、橋本和仁先生らの案件も担当。藤島先生とは小中学生向けの本を共著するという貴重な経験も得ました。知財化だけでなく、マーケティングや事業化を見据えた俯瞰的な視野をここで徹底的に磨き上げました。

くらべるシリーズ〈1〉さびる?さびない?金と鉄
身近なものを「くらべる」と、物事の「おなじ」と「ちがい」が垣間見えてくる。普段、何気なく使っているものでも「くらべる」と意外な事実が見えてくる。「不思議だな」という感性の輪を広げると、そこには、まだ知られていない自然法則や最先端の科学技術が...

 

電源開発(J-POWER)での実績:プラント保全の死闘

日経新聞の経験者募集をきっかけに、電源開発株式会社(J-POWER)へ金属材料工学のエキスパートとして迎え入れられました。当時、電力業界全体を揺るがす深刻な経営課題となっていたのが、超々臨界圧ボイラ(USC)の主要部材における「高クロム鋼のクリープ強度低下問題」でした。茅ヶ崎研究所や磯子火力発電所の現場業務を通じて、実機使用材の詳細調査から損傷状況を解明。定量的なクリープ余寿命評価法を確立し、計画外停止の回避に貢献しました。トラブルが顕在化する前の予防保全であったため社内では光が当たりませんでしたが、この成果を論文として世に問うたことで、火力原子力発電技術協会 九州支部より「苅田記念賞」をいただくことができました。

ボイラ管寄せ管台溶接部から採取した使用材のクリープ余寿命評価

月刊技術士 2014年6月号 抜粋

USCボイラで使用された主蒸気管廃却材のクリープ寿命評価

高クロム鋼溶接部のサブグレインサイズ測定による非破壊的クリープ損傷評価法

また、磯子火力発電所では、製作メーカーであるIHIに依存せず、ユーザーの立場からベンダーと共に火炉壁管の摩耗対策を主導しました。IHIで溶射の弱点を熟知していたからこそ、より厚肉施工が可能で下地と冶金的に結合して剥離しにくく、安価にで高品質に現場施工できる「溶接肉盛」への転換を決断。最新鋭プラントの磯子火力発電所でその圧倒的な耐摩耗性を実証し、火力原子力発電技術協会誌の「論文賞」を受賞する栄誉に浴しました。メーカーとユーザー、双方の立場を経験したからこそ成し得た仕事だと自負しています。

微粉炭焚きボイラ ウォールデスラガ廻り火炉壁管への耐摩耗肉盛溶接の適用

ユーザー(電力会社)としての視点を確認するためのエネルギー管理士資格や、現場の安全を確保するための労働安全コンサルタント資格は電源開発に入社してから取得しました。グローバルな知見、さらには経営・財務の視点を網羅するためにTOEIC A class、簿記2級などの資格も取得しました。

電源開発(J-POWER)での実績:未踏の化学領域への挑戦

いくつかの部門を経て研究部門に復帰した際、与えられた新たなテーマは「カーボンリサイクル(CR)」でした。これまで歩んできた「金属」という専門領域を離れ、まったく知見のない「化学」の世界への挑戦です。短期間で成果を出すため、大学との共同研究というオープンイノベーションを選択しました。

研究にあたり、私は一つの絶対的な要件を掲げました。それは「微粉炭火力発電の排ガスをそのままCO₂源とすること」です。分離回収に巨大なエネルギーを費やせば、かえってCO₂排出量を増やしてしまうという本末転倒な事態を避けるためでした。

  • 横浜国立大学 本倉先生との共同研究廃棄太陽光パネル由来のシリコンを用いて、排ガスのままCO₂を還元しギ酸を生成するCR技術を開発

火力原子力発電技術協会誌に論文が掲載
火力原子力発電技術協会誌(Vol.76 No.11)に最新の研究成果が掲載されました。本研究は、微粉炭火力発電所の排ガスと廃棄太陽光パネル由来のシリコンを原料として温和な条件でギ酸を生成するカーボンリサイクル技術に関するものです。横浜国立大...
  • 東京都立大学 天野先生との共同研究: 排ガス中のCO₂をアルカリ水溶液に選択的に溶解させ、その溶解液を電解してギ酸塩を生成するカーボンネガティブなCR技術を開発

【火力原子力発電技術協会誌にアクセプト】カーボンネガティブと経済性を両立したカーボンリサイクル技術の研究論文
2026年7月16日 カーボンリサイクル技術に関する最新の研究論文が火力原子力発電技術協会誌にアクセプト2026年3月17日に投稿した共同研究論文が、3回の査読と編集部会の審議を経て、火力原子力発電技術協会誌にアクセプトされました。東京都立...

専門外の学問領域であっても、大学の先端技術を咀嚼し、自らのオリジナリティを乗せて論文として発信する。このパフォーマンスを体現できたことは、研究者としての大きな自信となりました。

現在とこれからのサバイバル

現在は国の研究開発支援機関に出向し、さらなる技術研鑽に励んでいます。 定年退職まであと数年。組織に依存すれば安定した給与は得られますが、仕事を選ぶことはできません。だからこそ、これまでの金属材料、プラント保全、コンサルティング、産学連携そしてカーボンリサイクルという独自の専門性とスキルを武器に、定年後も社会でサバイバルできる能力を磨き続ける。それが、現在進行形である私のテーマです。