リスクアセスメントでは、最初に危険源を洗い出します。
その後、
- リスクを見積もる
- 優先順位を決める
- 対策を検討する
という流れに進みます。
しかし実際には、この最初の
「危険源を洗い出す」
という作業が最も難しいところです。
なぜなら、
見つけられなかった危険源は、その後どれだけ丁寧にリスク評価をしても対象にならない
からです。
点数の付け方を細かくすることよりも、まず重要なのは、
危険源を漏らさず拾うこと
です。
今回は、現場で危険源をどのように洗い出せばよいのかを考えてみます。
危険源をいきなり探そうとしない
「この作業には、どんな危険源がありますか?」
こう聞かれると、意外と答えるのは難しいものです。
例えば、
「旋盤作業の危険源を挙げてください」
と言われた場合、
回転体
切粉
チャック
加工物
といったものは比較的すぐに思い浮かびます。
しかし、それだけで十分でしょうか。
材料を運ぶ。
加工物を取り付ける。
工具を交換する。
寸法を測る。
切粉を除去する。
清掃する。
異常が起きたときに確認する。
こうした一連の作業まで考えると、危険源はさらに増えてきます。
そこで大切なのが、
最初に危険源を探すのではなく、まず作業を分解する
という考え方です。

まず作業の流れを書き出す
例えば、ある機械加工を考えてみます。
作業の流れを簡単に分解すると、
材料を運ぶ。
↓
材料を機械にセットする。
↓
機械を運転する。
↓
加工状態を確認する。
↓
加工物を取り外す。
↓
測定する。
↓
清掃する。
といった形になります。
ここまで分けると、
「作業全体では見えなかった危険」
が見えやすくなります。
例えば材料を運ぶ工程では、
重量物による腰痛
手指の挟まれ
落下
があります。
材料をセットするときには、
チャックへの挟まれ
不安定な姿勢
加工物の落下
があります。
清掃時には、
切粉による切創
回転部への接近
エアブローによる飛散
などが考えられます。
つまり、
作業を細かく分けるほど、危険源を見つけやすくなる
ということです。

「設備」ではなく「作業」で見る
リスクアセスメントを行うとき、
設備単位で考えてしまうことがあります。
「この旋盤の危険は何か」
「このプレス機の危険は何か」
「このコンベヤの危険は何か」
もちろん、設備を見ることは重要です。
しかし、それだけでは十分ではありません。
なぜなら、同じ設備でも、
誰が
いつ
どのような作業をするか。
によって危険は変わるからです。
例えばコンベヤ
通常運転中は人が近づかない。
しかし清掃時には近づく。
詰まりが発生すると手を入れる。
点検時にはカバーを外す。
このように、
設備そのものよりも、人が何をするか
を見ることが重要です。

定常作業と非定常作業を分けて考える
危険源を洗い出すときに、特に重要なのが
非定常作業
です。
通常の運転だけを見ていると、安全に見える設備でも、
清掃
点検
調整
段取り替え
修理
詰まり除去
故障対応
となると状況が一変することがあります。
通常運転中は閉じているカバーを開ける。
普段は触れない場所に手を入れる。
設備の下に入る。
高い場所に登る。
こうした作業は、通常運転時とは異なる危険を伴います。
したがって、作業を洗い出すときには、
「通常はどうするか」だけでなく、「うまくいかないときに何をするか」
まで考える必要があります。

人の動作まで分解する
作業名だけではまだ粗い場合があります。
例えば、
「設備を点検する」
という作業
これをさらに細かくすると、
近づく
かがむ
のぞき込む
手を伸ばす
触る
カバーを開ける
設備の下に入る
といった動作があります。
こうした
人の動き
まで追っていくと、
どこで危険源と接触する可能性があるのかが見えてきます。
危険源を洗い出すときには、
作業名だけを見るのではなく、
人が実際にどう動くのか
を見ることが大切です。

「手」「足」「頭」「体」がどこへ行くかを見る
現場で作業を観察するときには、
人の体の動きを追う方法も有効です。
手はどこへ行くのか。
足はどこへ置くのか。
頭はどこまで近づくのか。
体はどこへ入るのか。
例えば、
手が回転体へ近づく。
足が開口部の近くへ行く。
頭が吊り荷の下へ入る。
体が設備内部へ入る。
こうした動きを見ることで、
危険源と人との接点が具体的に見えてきます。

「いつもと違うとき」を考える
危険源は、普段どおりに作業しているときだけに存在するわけではありません。
例えば、
設備が故障したとき
材料が詰まったとき
生産量が急に増えたとき
新人が作業するとき
応援者が入ったとき
夜勤になったとき
工事業者が入ったとき
いつもとは違う状況になると、人の行動も変わります。
だからこそ、
「いつもと違うとき、人は何をするか」
を考えることが重要です。

現場の人に「危ないところ」を聞くだけでは足りない
危険源の洗い出しでは、実際に作業している人の話を聞くことも重要です。
ただし、
「どこが危ないですか?」
と聞くだけでは、
「特にありません」
で終わることがあります。
そこで質問の仕方を変えます。
例えば、
「この設備は、どんなときに止まりますか?」
「材料が詰まったらどうしていますか?」
「手順どおりにできないことはありますか?」
「作業しにくいところはどこですか?」
「ヒヤッとしたことはありますか?」
「清掃するときはどこまで手を入れますか?」
こう聞くと、
普段の作業の中に隠れていた危険が見えてくることがあります。

実際の作業と手順書は一致しているか
手順書には、
「設備を停止して清掃する」
と書いてある。
しかし実際には、
「少し動かした方が掃除しやすい」
という理由で設備を動かしながら清掃している。
こうしたことが現場では起こり得ます。
リスクアセスメントでは、
手順書に書かれている作業ではなく、実際に行われている作業を見る
必要があります。
手順書と現場が違っていれば、
現場が悪い。
作業者が悪い。
とすぐに考えるのではなく、
なぜそのやり方になっているのか
を確認することが大切です。
設備が使いにくいのかもしれません。
作業時間が足りないのかもしれません。
手順そのものに無理があるのかもしれません。
そこに、改善すべき本当の問題が隠れている場合があります。

過去の災害やヒヤリハットも使う
目の前の作業を見るだけでは、危険源をすべて見つけることはできません。
そこで役に立つのが、
過去の災害
ヒヤリハット
設備トラブル
他職場の事故
同種設備で発生した事故
などです。
過去の事例を見ることで、
「自分たちの職場でも同じことが起きないか」
と考えることができます。
特に、
自職場ではまだ起きていない事故
を想像するためには、他職場の事例が有効です。

危険源は一人で洗い出さない
同じ現場を見ても、人によって見えるものは違います。
作業者は、
日々の作業の細かな変化を知っています。
職長は、
作業全体の流れを知っています。
設備担当者は、
設備の構造や故障の特徴を知っています。
安全担当者は、
過去の災害や法令の視点を持っています。
さらに、初めて現場を見る人は、
「なぜここに人が入れるのだろう」
「なぜこの作業をこうしているのだろう」
という素朴な疑問を持つことができます。
だからこそ、
危険源の洗い出しは複数の目で行う
ことが大切です。

洗い出しの段階で「大したことない」と判断しない
危険源を見つけたときに、
「これは事故になる可能性が低い」
「これくらいなら大丈夫」
と判断してしまうことがあります。
しかし、それは
リスク評価の段階で行うこと
です。
洗い出しの段階では、
まず候補として挙げる。
その後で、
発生する可能性
災害の重大性
作業頻度
などを評価します。
危険源を洗い出す段階と、
リスクを評価する段階を混ぜないことも重要です。

危険源を洗い出すときの7つの問い
現場では、次のように考えると整理しやすくなります。
① 作業はどのような順番で行われるか。
② 人は具体的にどのような動きをするか。
③ 定常作業以外にどんな作業があるか。
④ 異常が起きたときに何をするか。
⑤ 実際の作業は手順書どおりか。
⑥ 過去にどんなヒヤリハットやトラブルがあったか。
⑦ 他の人が見ると何に気づくか。
この7つを追っていけば、
漠然と
「危ないところを探す」
よりも、危険源を見つけやすくなります。

まとめ 危険源を探す前に、作業を分解する
危険源を洗い出すとき、
いきなり
「危険なものは何か」
と考えると、見落としが生じやすくなります。
まず、
作業の流れを分解する。
そして、
人の動きを追う。
さらに、
定常作業だけでなく、非定常作業や異常時まで考える。
そこに、
過去の災害
ヒヤリハット
作業者の話
第三者の目
を重ねていきます。
こうすることで、危険源の洗い出しはかなり具体的になります。
リスクアセスメントは、
評価表に数字を書くところから始まるのではありません。
現場で実際に何が行われているのかを、一つひとつ分解するところから始まります。
危険源を探す前に、
まず作業を分解してみましょう。

安全くんからの一言
「危険源を探す前に、まず作業を分けて見てみよう!」

