【重工系労働安全アーカイブ#11】危険源とは何か|事故のもとになるエネルギーを見る

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リスクアセスメント基礎編 第2回 危険源とは何か

リスクアセスメントについて話をしていると、

「この設備にはリスクがある」

「フォークリフトがリスクだ」

「高所作業がリスクだ」

という言い方を耳にすることがあります。

日常会話としては意味が通じます。

しかし、リスクアセスメントをきちんと理解するためには、まず「危険源」と「リスク」を分けて考えることが重要です。

例えば、

  • 機械の回転部
  • 高圧蒸気
  • 電気
  • フォークリフト
  • 高所
  • 重量物
  • 高温物
  • 化学物質

などがあります。

これらは、それ自体が「リスク」なのではありません。

人にけがや疾病を与える可能性を持つ危険源です。

では、危険源とは何なのでしょうか。

危険源とは

危険源とは、簡単に言えば、

人にけがや疾病を与える可能性を持った「事故のもと」

です。

英語ではHazard(ハザード)と呼ばれます。

ただ、「事故のもとを探してください」と言われても、慣れていない人には少し抽象的です。

そこで役に立つのが、

エネルギーを見る

という考え方です。

現場で起きる重大な事故の多くは、何らかのエネルギーが制御されない状態で人に作用することで発生します。

例えば、

  • 回転する機械
  • 走行する車両
  • 高い場所にある物
  • 高圧の蒸気
  • 電気
  • 高温物

などです。

これらには、すべて人に危害を与えるだけのエネルギーがあります。

危険源とは

危険源を「エネルギー」で見る

例えばフォークリフト

フォークリフトは走行することで運動エネルギーを持っています。

人と衝突すれば、そのエネルギーが人に作用します。

機械の回転軸も同じです。

高速で回転している軸には運動エネルギーがあります。

袖や手袋が巻き込まれれば、そのエネルギーが人体へ伝わります。

高所の場合はどうでしょうか。

高い位置にいる人や物体は、位置エネルギーを持っています。

足場から墜落したり、上から物が落下したりすれば、その位置エネルギーが運動エネルギーへ変わり、人に大きな危害を与えます。

電気設備には電気エネルギーがあります。

高温設備には熱エネルギーがあります。

高圧配管や圧力容器には、内部に蓄えられた圧力エネルギーがあります。

バネや油圧・空圧機器などには、解放される可能性のある蓄積エネルギーがあります。

このように考えると、

危険源とは、制御を失ったときに人へ危害を与えるエネルギーを持ったもの

と捉えることができます。

危険源はエネルギーで見る

現場にはどんなエネルギーがあるのか

安全パトロールで設備を見るとき、

「危ないところはありませんか?」

と漠然と見るだけでは、危険源を見落とすことがあります。

そこで、

「ここにはどんなエネルギーがあるか」

と考えてみます。

例えば、

運動エネルギー

  • 回転
  • 往復運動
  • 移動
  • 挟圧
  • 切断
  • 飛来

位置エネルギー

  • 高所
  • 吊り荷
  • 積み荷
  • 落下する可能性のある物体

電気エネルギー

  • 充電部
  • 高電圧設備
  • 電源盤
  • 損傷した電線

熱エネルギー

  • 高温配管
  • 炉
  • 溶融物
  • 蒸気
  • 高温製品

圧力エネルギー

  • 蒸気
  • 圧縮空気
  • 油圧
  • ガス
  • 圧力容器

蓄積された機械エネルギー

  • バネ
  • 張力のかかったワイヤ
  • 油圧シリンダ
  • 空圧シリンダ

こうして設備を見ると、今まで「ただそこにある機械」にしか見えなかったものが、

エネルギーを持った危険源

として見えるようになります。

現場にはどんなエネルギーがある?

危険源はエネルギーだけではない

一方で、すべての危険源をエネルギーだけで説明できるわけではありません。

例えば、

  • 有毒な化学物質
  • 発がん性物質
  • 酸欠雰囲気
  • 有害な粉じん
  • 微生物

などです。

これらは必ずしも「大きなエネルギー」が人体へ作用して事故になるものではありません。

したがって実務では、

危険源とは「エネルギーを持つもの、または人に有害な作用を与えるもの」

と考えておくとよいでしょう。

危険源はエネルギーだけではない

危険源とリスクは違う

例えば工場の中に、高速で回転しているローラーがあるとします。

ローラーは機械的エネルギーを持っています。

したがって、

回転ローラーは危険源

です。

しかし、そのローラーが完全に囲われ、人が触れることのできない構造になっていれば、巻き込まれる可能性は低くなります。

一方、

  • カバーがない
  • 作業者が近づく
  • 清掃時に手を入れる
  • 回転したまま点検する

という状態であれば、巻き込まれる可能性は高くなります。

つまり、

危険源が存在していること

と、

その危険源によって実際に人が危害を受けるリスク

は別です。

大まかに考えれば、

リスク = 危害の大きさ × 発生する可能性

です。

同じ危険源でも、人との距離や設備対策、作業方法によってリスクは変わります。

危険源だけでは事故にならない

もう一つ重要なのは、

危険源が存在するだけでは、人身事故にはならない

ということです。

例えばフォークリフト

フォークリフトは大きな運動エネルギーを持つ危険源ですが、誰もいない場所を走っているだけなら、人身災害は起きません。

そこへ人が入ってくると、

人と危険源の接点

が生まれます。

安全を考えるときは、この接点から事故までの流れを見ることが重要です。

私は、次のように整理すると分かりやすいと考えています。

人
↓
危険源
↓
インシデント
↓
事故
↓
障害・疾病

フォークリフトで考えると、

作業者が工場内を歩いている。
そこへフォークリフトが走行してくる。
交差点で両者が接近する。
衝突する。
骨折や挫傷、場合によっては死亡に至る。

という流れです。

事故が起きた後だけを見ると、

「フォークリフトにひかれた」

という結果しか見えません。

しかし安全対策で大切なのは、その前です。

人と危険源は、どこで、なぜ接近したのか。

ここまでさかのぼって考えることで、事故を防ぐために本当に対策すべき場所が見えてきます。

「事故」を探すのではなく「事故のもと」を探す

リスクアセスメントでありがちなのが、

「どんな事故がありますか?」

と最初から事故を探してしまうことです。

もちろん事故を想像することも重要です。

しかし、その前に、

「どんなエネルギーがあるか」

と考えてみます。

回っている。

動いている。

高いところにある。

熱い。

圧力がかかっている。

電気が流れている。

張力がかかっている。

重い。

こうしたものを探していけば、危険源が見えてきます。

そのうえで、

「人はその危険源にどう近づくのか」

を考えます。

すると事故のシナリオが見えてきます。

危険源をなくすことが最も強い

危険源を「エネルギー」として考えると、安全対策も分かりやすくなります。

事故を防ぐ基本は、

そのエネルギーを人に作用させないこと

です。

例えば、

  • 電源を遮断する
  • 圧力を抜く
  • 高温部を冷却する
  • 回転部を停止する
  • 残留エネルギーを解放する
  • 回転部を囲う
  • 人とフォークリフトを分離する
  • 高所作業そのものをなくす

といった対策です。

「注意してください」

という対策より、

人と危険源を物理的に切り離す方が強い。

さらに言えば、

危険源そのものをなくせれば、もっと強い。

安全対策は、事故の直前で人に頑張らせるのではなく、できるだけ上流で止めることが基本です。

まとめ 危険源を探すなら、まずエネルギーを見よう

危険源とリスクは同じものではありません。

危険源とは、

人に負傷や疾病を与える可能性を持った「事故のもと」

です。

製造業や建設業の現場で危険源を探すときには、

「ここには、どんなエネルギーがあるか」

と考えると分かりやすくなります。

回っている。
動いている。
高い。
重い。
熱い。
圧力がかかっている。
電気が流れている。
張力がかかっている。

こうしたものは、人に危害を与える可能性を持っています。

そして安全を考えるときは、

人
→ 危険源
→ インシデント
→ 事故
→ 障害・疾病

という流れで見ていきます。

重要なのは、事故が起きた後だけを見ることではありません。

人と危険源は、どこで接近するのか。
危険源のエネルギーは、どのように人へ作用するのか。

ここを事故の前に見つけることが、リスクアセスメントの出発点です。

事故を探す前に、事故のもとを探す。

そして、

事故のもとを探すなら、まずエネルギーを見る。

これが危険源を見つける第一歩です。

安全くんからの一言

「危険源を探すなら、まず“どんなエネルギーがあるか”を見てみよう!」

安全くん

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<執筆者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業 出身 の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
材料から設備を診る! 技術経営コンサルタント

やくも技術士事務所|重工系技術士(金属部門)・労働安全コンサルタント・中小企業診断士 難波 一夫|材料から設備を診る 損傷解析から設備マネジメント・労働安全・経営まで総合支援
中小企業診断士・労働安全コンサルタントの資格を持つ重工系技術士(金属部門)が、発電設備の損傷解析、材料劣化評価、保全最適化、安全対策を総合的に支援。実務経験に基づく技術コンサルティングを提供します。
重工系技術士|材料・設備・安全・経営をつなぐ技術コンサルティング|やくも技術士事務所
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