リスクアセスメントについて話をしていると、
「この設備にはリスクがある」
「フォークリフトがリスクだ」
「高所作業がリスクだ」
という言い方を耳にすることがあります。
日常会話としては意味が通じます。
しかし、リスクアセスメントをきちんと理解するためには、まず「危険源」と「リスク」を分けて考えることが重要です。
例えば、
- 機械の回転部
- 高圧蒸気
- 電気
- フォークリフト
- 高所
- 重量物
- 高温物
- 化学物質
などがあります。
これらは、それ自体が「リスク」なのではありません。
人にけがや疾病を与える可能性を持つ危険源です。
では、危険源とは何なのでしょうか。
危険源とは
危険源とは、簡単に言えば、
人にけがや疾病を与える可能性を持った「事故のもと」
です。
英語ではHazard(ハザード)と呼ばれます。
ただ、「事故のもとを探してください」と言われても、慣れていない人には少し抽象的です。
そこで役に立つのが、
エネルギーを見る
という考え方です。
現場で起きる重大な事故の多くは、何らかのエネルギーが制御されない状態で人に作用することで発生します。
例えば、
- 回転する機械
- 走行する車両
- 高い場所にある物
- 高圧の蒸気
- 電気
- 高温物
などです。
これらには、すべて人に危害を与えるだけのエネルギーがあります。

危険源を「エネルギー」で見る
例えばフォークリフト
フォークリフトは走行することで運動エネルギーを持っています。
人と衝突すれば、そのエネルギーが人に作用します。
機械の回転軸も同じです。
高速で回転している軸には運動エネルギーがあります。
袖や手袋が巻き込まれれば、そのエネルギーが人体へ伝わります。
高所の場合はどうでしょうか。
高い位置にいる人や物体は、位置エネルギーを持っています。
足場から墜落したり、上から物が落下したりすれば、その位置エネルギーが運動エネルギーへ変わり、人に大きな危害を与えます。
電気設備には電気エネルギーがあります。
高温設備には熱エネルギーがあります。
高圧配管や圧力容器には、内部に蓄えられた圧力エネルギーがあります。
バネや油圧・空圧機器などには、解放される可能性のある蓄積エネルギーがあります。
このように考えると、
危険源とは、制御を失ったときに人へ危害を与えるエネルギーを持ったもの
と捉えることができます。

現場にはどんなエネルギーがあるのか
安全パトロールで設備を見るとき、
「危ないところはありませんか?」
と漠然と見るだけでは、危険源を見落とすことがあります。
そこで、
「ここにはどんなエネルギーがあるか」
と考えてみます。
例えば、
運動エネルギー
- 回転
- 往復運動
- 移動
- 挟圧
- 切断
- 飛来
位置エネルギー
- 高所
- 吊り荷
- 積み荷
- 落下する可能性のある物体
電気エネルギー
- 充電部
- 高電圧設備
- 電源盤
- 損傷した電線
熱エネルギー
- 高温配管
- 炉
- 溶融物
- 蒸気
- 高温製品
圧力エネルギー
- 蒸気
- 圧縮空気
- 油圧
- ガス
- 圧力容器
蓄積された機械エネルギー
- バネ
- 張力のかかったワイヤ
- 油圧シリンダ
- 空圧シリンダ
こうして設備を見ると、今まで「ただそこにある機械」にしか見えなかったものが、
エネルギーを持った危険源
として見えるようになります。

危険源はエネルギーだけではない
一方で、すべての危険源をエネルギーだけで説明できるわけではありません。
例えば、
- 有毒な化学物質
- 発がん性物質
- 酸欠雰囲気
- 有害な粉じん
- 微生物
などです。
これらは必ずしも「大きなエネルギー」が人体へ作用して事故になるものではありません。
したがって実務では、
危険源とは「エネルギーを持つもの、または人に有害な作用を与えるもの」
と考えておくとよいでしょう。
危険源とリスクは違う
例えば工場の中に、高速で回転しているローラーがあるとします。
ローラーは機械的エネルギーを持っています。
したがって、
回転ローラーは危険源
です。
しかし、そのローラーが完全に囲われ、人が触れることのできない構造になっていれば、巻き込まれる可能性は低くなります。
一方、
- カバーがない
- 作業者が近づく
- 清掃時に手を入れる
- 回転したまま点検する
という状態であれば、巻き込まれる可能性は高くなります。
つまり、
危険源が存在していること
と、
その危険源によって実際に人が危害を受けるリスク
は別です。
大まかに考えれば、
リスク = 危害の大きさ × 発生する可能性
です。
同じ危険源でも、人との距離や設備対策、作業方法によってリスクは変わります。

危険源だけでは事故にならない
もう一つ重要なのは、
危険源が存在するだけでは、人身事故にはならない
ということです。
例えばフォークリフト
フォークリフトは大きな運動エネルギーを持つ危険源ですが、誰もいない場所を走っているだけなら、人身災害は起きません。
そこへ人が入ってくると、
人と危険源の接点
が生まれます。
安全を考えるときは、この接点から事故までの流れを見ることが重要です。
私は、次のように整理すると分かりやすいと考えています。
人
↓
危険源
↓
インシデント
↓
事故
↓
障害・疾病
フォークリフトで考えると、
作業者が工場内を歩いている。
そこへフォークリフトが走行してくる。
交差点で両者が接近する。
衝突する。
骨折や挫傷、場合によっては死亡に至る。
という流れです。
事故が起きた後だけを見ると、
「フォークリフトにひかれた」
という結果しか見えません。
しかし安全対策で大切なのは、その前です。
人と危険源は、どこで、なぜ接近したのか。
ここまでさかのぼって考えることで、事故を防ぐために本当に対策すべき場所が見えてきます。

「事故」を探すのではなく「事故のもと」を探す
リスクアセスメントでありがちなのが、
「どんな事故がありますか?」
と最初から事故を探してしまうことです。
もちろん事故を想像することも重要です。
しかし、その前に、
「どんなエネルギーがあるか」
と考えてみます。
回っている。
動いている。
高いところにある。
熱い。
圧力がかかっている。
電気が流れている。
張力がかかっている。
重い。
こうしたものを探していけば、危険源が見えてきます。
そのうえで、
「人はその危険源にどう近づくのか」
を考えます。
すると事故のシナリオが見えてきます。

危険源をなくすことが最も強い
危険源を「エネルギー」として考えると、安全対策も分かりやすくなります。
事故を防ぐ基本は、
そのエネルギーを人に作用させないこと
です。
例えば、
- 電源を遮断する
- 圧力を抜く
- 高温部を冷却する
- 回転部を停止する
- 残留エネルギーを解放する
- 回転部を囲う
- 人とフォークリフトを分離する
- 高所作業そのものをなくす
といった対策です。
「注意してください」
という対策より、
人と危険源を物理的に切り離す方が強い。
さらに言えば、
危険源そのものをなくせれば、もっと強い。
安全対策は、事故の直前で人に頑張らせるのではなく、できるだけ上流で止めることが基本です。

まとめ 危険源を探すなら、まずエネルギーを見よう
危険源とリスクは同じものではありません。
危険源とは、
人に負傷や疾病を与える可能性を持った「事故のもと」
です。
製造業や建設業の現場で危険源を探すときには、
「ここには、どんなエネルギーがあるか」
と考えると分かりやすくなります。
回っている。
動いている。
高い。
重い。
熱い。
圧力がかかっている。
電気が流れている。
張力がかかっている。
こうしたものは、人に危害を与える可能性を持っています。
そして安全を考えるときは、
人
→ 危険源
→ インシデント
→ 事故
→ 障害・疾病
という流れで見ていきます。
重要なのは、事故が起きた後だけを見ることではありません。
人と危険源は、どこで接近するのか。
危険源のエネルギーは、どのように人へ作用するのか。
ここを事故の前に見つけることが、リスクアセスメントの出発点です。
事故を探す前に、事故のもとを探す。
そして、
事故のもとを探すなら、まずエネルギーを見る。
これが危険源を見つける第一歩です。

安全くんからの一言
「危険源を探すなら、まず“どんなエネルギーがあるか”を見てみよう!」


