工場の安全パトロールで、必ず確認することになるのが工作機械や生産設備です。
旋盤、ボール盤、研削盤、プレス、コンベヤ、ローラー、ベルト、ファン――
工場にはさまざまな「動くもの」があります。
こうした設備を見るとき、
「安全カバーは付いているか」
「非常停止装置はあるか」
と設備だけを確認して終わってはいないでしょうか。
もちろん、それらも重要です。
しかし私が安全パトロールで大切だと思うのは、
機械そのものを見るだけではなく、「人がその機械とどう関わっているか」を見ることです。
機械による災害は、機械だけで起こるわけではありません。
そこに人が近づき、触れ、操作することで、災害につながる可能性が生まれます。
今回は「動くもの」という視点から、工作機械・設備の安全パトロールについて考えてみます。

まず見るのは「動くところ」と「人」の距離
機械設備を見るとき、最初に確認したいのは、
どこが動くのか。
です。
回転する
往復する
上下する
送り込む
巻き取る
切る
押す
機械にはさまざまな動きがあります。
そして次に見るのが、
その動く部分に、人の身体が近づく可能性があるか。
ということです。
正常に運転している機械を少し離れたところから眺めて、
「特に問題なし」
としてしまうのではなく、
「この機械が動いているとき、人の手や身体はどこにあるのか」
を考えてみます。
すると、設備だけを見ていたときとは違った危険が見えてきます。

回転体 「巻き込まれるもの」はないか
回転する機械で怖いのが巻き込まれです。
回転軸、チャック、ローラー、ベルト、プーリーなどを見るときには、その回転部分だけでなく、周囲の作業者にも目を向けます。
例えば、
袖口はどうなっているか。
手袋を使用していないか。
長い髪などが回転部分に近づく可能性はないか。
ウエスなどを持って近づくことはないか。
つまり、
「回転しているもの」+「巻き込まれる可能性のあるもの」
をセットで見るわけです。
カバーが付いているから安全、と単純には判断できません。
そのカバーが実際の作業中にも使われているのか。
作業の邪魔になるから開けたままになっていないか。
そこまで見る必要があります。

挟まれ・巻き込まれ 「手を入れる理由」を見る
設備には、ローラーや搬送装置など、身体の一部を挟み込む可能性のある場所があります。
もちろん安全パトロールでは、カバーや囲いの状態を確認します。
しかし、もう一歩踏み込んで考えてみます。
「作業者がここに手を入れることはないだろうか」
そして、
「手を入れるとしたら、なぜ入れるのだろうか」
です。
例えば材料が詰まる。
位置がずれる。
製品を取り除く。
切粉を掃除する。
調整する。
日常作業では問題がなくても、異常が起きたときに人が危険源へ近づくことがあります。
安全パトロールでは正常運転だけを見るのではなく、
「詰まったらどうする?」
「止まったらどうする?」
「掃除するときはどうする?」
と考えてみる。
ここから見えてくる危険はかなり多いと思います。

「止めたつもり」で触っていないか
設備の清掃、点検、調整、修理などでは、通常運転とは違う危険が生まれます。
ここで重要なのは、
機械が停止していることと、安全な状態になっていることは同じではない
という視点です。
操作スイッチをOFFにした。
機械が止まった。
それだけで作業者が内部へ手を入れてよいのか。
別の人がスイッチを入れる可能性はないか。
自動運転が再開する可能性はないか。
残圧や重力などによって設備が動く可能性はないか。
安全パトロールでは、
「止まっているか」ではなく「動かない状態が確保されているか」
を見ることが大切になります。
これは設備の外観だけを眺めていても、なかなか分かりません。
実際に作業する人へ、
「掃除するときはどうしていますか?」
「詰まったときはどうしていますか?」
と聞いてみることで見えてくるものがあります。

安全装置は「あるか」ではなく「使えるか」
安全カバー
インターロック
非常停止装置
光線式安全装置
こうした安全装置が設けられている設備もあります。
パトロールでは「付いているから○」で終わらせたくありません。
例えば非常停止ボタンなら、
作業者がすぐ操作できる位置にあるか。
物に隠れていないか。
どのボタンを押せばよいか分かるか。
安全カバーなら、
きちんと閉じられているか。
破損していないか。
簡単に無効化されていないか。
安全装置は、
「存在すること」と「安全機能として働いていること」は別です。
ここも設備パトロールの重要なポイントでしょう。

「原風景」になった設備ほど注意する
前回の記事では、職長は現場の「原風景」を知っている、という話をしました。

設備パトロールでも、この考え方が使えます。
例えば、
「このカバーは昔から外して使っている」
「ここは昔から材料を置く場所だ」
「この機械は昔から少し振動する」
「このセンサーは誤作動するから使っていない」
こうした状態が何年も続けば、それ自体が現場の「原風景」になってしまいます。
すると、
異常なのに、異常として認識されなくなる。
これが怖いところです。
だからこそ、ときどき、
「この設備の『いつもの状態』は、本当に正常なのか」
と疑ってみる必要があります。
これは外部専門家の「原風景そのものを疑う目」が生きる場面でもあります。

機械を見るだけではなく、作業を見よう
ここまで考えてくると、設備の安全パトロールで本当に見るべきものが分かってきます。
設備だけではありません。
設備 × 人 × 作業
です。
同じ設備でも、作業方法が違えば危険は変わります。
通常運転
段取り替え
清掃
点検
調整
トラブル対応
設備が同じでも、人と機械との関わり方はまったく違います。
むしろ事故につながる危険は、通常とは違う作業(非定常作業)のときに顔を出すことがあります。
「機械を見る」から、
「人が機械をどう使っているかを見る」
へ。
これだけでも安全パトロールの見え方はかなり変わると思います。

安全くんなら「もし○○したら?」と考える
安全パトロールで使いやすいのが、
「もし○○したら?」
という問いかけです。
「もし材料が詰まったら?」
「もし製品が落ちたら?」
「もし清掃するなら?」
「もしセンサーが反応しなかったら?」
「もし別の人が機械を動かしたら?」
正常な状態だけを見ると問題がない設備でも、「もし」を入れると危険が見えてきます。
これはリスクアセスメントやKYにもつながる考え方です。
パトロールで気づいた危険をその場の指摘だけで終わらせず、必要に応じてリスクアセスメントや作業手順の見直しにつなげる。
そうすることで、安全パトロールが日常の安全活動とつながっていきます。

まとめ 「動くもの」だけでなく「近づく人」を見る
工作機械や設備の安全パトロールでは、
カバーがある。
非常停止装置がある。
通路が確保されている。
といった設備の状態を確認することはもちろん重要です。
しかし、それだけでは十分ではありません。
どこが動くのか。
人はどこまで近づくのか。
なぜそこへ近づくのか。
異常時にはどうするのか。
清掃や点検ではどうするのか。
こうして「人と機械の接点」を追っていくことで、設備を眺めているだけでは分からなかった危険が見えてきます。
安全パトロールは、設備の間違い探しではありません。
人が機械とどう関わっているのかを観察し、事故につながる接点を見つけて改善する活動です。
工作機械・設備を見るときには、
「この機械のどこが動く?」
「そこに人が近づくのは、どんなとき?」
この二つを問いかけてみる。
それだけでも、今までとは違う「目」で現場を見ることができるのではないでしょうか。

安全くんのひとこと
「機械だけを見て『よし!』にしない!」
動くところを見る。
人の動きを見る。
そして、人と機械が接するところを見る。
人と機械の接点、よし!

<執筆者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業 出身 の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
材料から設備を診る! 技術経営コンサルタント
