発電所、工場、建設現場などでよく見かける「指差呼称」
対象物を指で指しながら「ヨシ!」と声に出して確認する安全活動です。
毎日行っていると、
本当に効果があるのか
単なる儀式ではないのか
声を出すだけで何が変わるのか
と思うこともあります。
今回は、指差呼称の効果について鉄道総合技術研究所の実験結果や人間の行動特性から考えてみます。
指差呼称とは
指差呼称とは、確認すべき対象を指差しながら、
「バルブ閉ヨシ!」
「スイッチOFFヨシ!」
などと声に出して確認する方法です。
もともとは旧国鉄で生まれた日本独自の安全確認手法であり、現在では鉄道だけでなく製造業、プラント、建設現場など幅広い分野で活用されています。

鉄道総合技術研究所の実験結果
では、指差呼称の効果はあるのでしょうか。
鉄道総合技術研究所が行った実験では、
何もしない
呼称だけ
指差しだけ
指差呼称
を比較しています。
その結果、誤操作の発生率は下図のとおりです。指差呼称を行った場合の誤り発生率は、何もしない場合のおよそ6分の1まで低下しています。

興味深いのは、指差呼称を行っても大きな時間ロスは確認されなかった点。安全性を高めながら作業効率への影響は小さいという結果です。
なぜ効果があるのか
人間は決して完璧ではありません。
人間には次のような特性があると説明されています。
不注意
どんなベテランでもボンヤリしたり、注意が散漫になったりします。
指差呼称には、その瞬間だけ意識を対象へ集中させる効果がある。
錯覚と思い込み
人間は見たものを常に正しく認識しているわけではありません。
類似したバルブやスイッチを見間違えることもある。
そのため、対象を指差しながら声に出して確認することで、思い込みによるミスを減らすことができます。
省略行為と近道行動
事故調査報告を見ると、
保護具を着けなかった
確認を省略した
急いでいた
といったケースは少なくありません。
人間には面倒な手順を飛ばしたくなる性質があるのです。
指差呼称は、その省略行為に歯止めをかける仕組みともいえます。

指差呼称の本質は「意識のギアチェンジ」
普段の作業中、人間はリラックスした状態で仕事をしています。
これ自体は悪いことではないのですが、その状態では見落としや思い込みが発生しやすい。
そこで、
対象を見る
指差す
声を出す
自分の声を聞く
という一連の動作を行うことで、意識をクリアな状態へ切り替えるのです。

正しい指差呼称
指差呼称は単に「ヨシ!」と唱えるものではありません。
作業の流れを一瞬止め、
「本当に大丈夫か」
を自分自身に問いかける行動なのです。
また、指差呼称はただ注意する対象に指を向ければよいわけではありません。
基本動作は次の4ステップ
対象をしっかり見る
指を差す
耳元まで振り上げる
「ヨシ!」と呼称して振り下ろす

また、
「温度ヨシ!」
よりも
「温度120℃ヨシ!」
「圧力0.98MPaヨシ!」
のように、具体的な数値を含めた方がより効果的です。

職場での形骸化(マンネリ化)を防ぐ運用のコツ
「なぜやるのか」の定期的な周知
ヒューマンエラー防止の仕組み(エラー率を1/6に減らす効果や、意識レベルの切り替え)を安全教育などで定期的に共有しましょう。
相互注意とフィードバック
声が出ていない、動作が雑(ポーズだけ)になっている仲間がいたら「今のヨシ!いいね」「もう少し具体的に唱えよう」と声を掛け合える風土をつくりましょう。
指差呼称項目(呼称対象)の見直し
ヒヤリハット事例や設備変更に合わせて、呼称する対象や数値の項目を定期的にブラッシュアップしましょう。
まとめ
指差呼称の本質は「意識のギアチェンジ」。単なるポーズではなく、KY活動で気づいた危険を現場の瞬間的な動作で回避するための「最後の安全装置」。ゼロ災害を実現するために、良いと思われることは何でもやろう。
<執筆者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業 出身 の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
材料から設備を診る! 技術経営コンサルタント

