工場や建設現場などでは、安全衛生活動の一環として安全パトロールが行われています。
現場を巡回し、不安全な設備や作業方法を確認する。そして問題があれば指摘し、改善につなげる。
一見すると、とても単純な活動です。
しかし、安全パトロールで本当に難しいのは、パトロールを実施することではなく、それを継続し、現場の改善につなげることではないでしょうか。
毎月同じような場所を回る。
同じようなチェック項目を見る。
同じような指摘をする。
そして、いつの間にか、
「今月も安全パトロールを実施しました」
という実施そのものが目的になってしまう。
これが、安全パトロールの「形骸化」です。
今回は、安全パトロールを継続する意味と、形骸化させないために何が必要なのかを、現場の視点から考えてみたいと思います。
安全パトロールの目的は「指摘すること」ではない
安全パトロールというと、
「危険なところを見つける」
「ルール違反を指摘する」
というイメージが強いかもしれません。
もちろん、問題点を発見することは重要です。
しかし、そこで終わってしまえば、パトロールは単なる「間違い探し」になってしまいます。
本来の目的は、問題点を発見し、その問題を改善することです。
そして、一度改善した状態を維持し、さらに次の改善へつなげていく。
この繰り返しによって、現場の安全レベルを少しずつ高めていくことに意味があります。
元資料でも、安全パトロールについて「問題点の発見」と「問題点の改善」を繰り返し、現場の安全性を向上させていく活動として整理されています。

なぜ安全パトロールは形骸化するのか
安全パトロールを始めたばかりの現場では、さまざまな問題が目につきます。
設備の安全対策
通路や作業場所の整理
安全表示
保護具
作業方法
最初のうちは指摘するところがたくさんあります。
そして、それらが改善されれば、
「安全パトロールをやった効果があった」
ということも実感しやすい。
ところが、これを半年、1年と繰り返していくと状況が変わってきます。
大きな問題は徐々に改善され、以前ほど目立った指摘事項が見つからなくなります。
すると、
「毎回同じところを見ている」
「特に問題なし」
「今回も異常なし」
となりやすい。
ここに形骸化の入り口があるように思います。
しかし、指摘件数が減ったことと、安全パトロールの意味がなくなったことは同じではありません。
むしろ、現場が次の段階に進んだ可能性があります。

最初の半年――まず重大な問題から改善する
パトロールを開始した当初は、多くの問題が見つかることがあります。
すべてを一度に改善することが難しい場合もあります。
その場合には、優先順位をつけます。
例えば、
① 法令違反
② 放置すると死亡災害など重大な事故につながる可能性があるもの
③ その他
という優先順位
安全パトロールは、細かな不備をたくさん見つけた人が優秀なのではありません。
事故が起きたときに重大な結果につながる危険を見逃さないこと。
まず、ここに重点を置く必要があります。

半年から1年――少しずつ現場が変わってくる
安全パトロールを継続すると、現場にも変化が現れます。
例えば、
機械周辺の開口部や扉が閉じられる
通路に障害物がはみ出さなくなる
注意表示や安全掲示が増える
保護具などが新しくなる
といった変化です。
半年から1年ほど継続することで、作業者もパトロールに慣れ、指摘事項に対する対応方法を検討し、実行するようになってきます。
ただし、一つ一つの変化は小さいものです。
毎月見ていると、その変化に気づかないことさえあります。
だからこそ、パトロールは「今月何件指摘したか」だけで評価しない方がよいと思います。
半年前と比べて現場がどう変わったのか。
1年前と比べて同じ指摘が減ったのか。
こうした時間軸で見ることも重要です。

2年目以降――「指摘されて直す」から「自分で気づく」へ
さらに継続すると、もっと重要な変化が現れます。
それは設備ではなく、人の変化です。
2年目以降になると、作業者とパトロール員とのコミュニケーションが増え、会社側から主体的な提案が出てくることがあるとしています。
さらに、繰り返し指摘を受けることで、
「どのようなところが問題になるのか」
を現場自身が学び、自ら問題点を発見するようになっていくという変化も示されています。
これは安全活動にとって大きな変化です。
最初は、
「パトロールで指摘されたから直す」
だったものが、
「指摘される前に自分たちで気づいて直す」
へ変わる。
安全パトロールの成果は、指摘件数だけでは測れないということです。

パトロール員は「悪いところを探す人」になってはいけない
もう一つ、形骸化を防ぐうえで重要なのが、現場との関係です。
安全パトロールでは、どうしても「できていないところ」に目が向きます。
しかし、そればかりでは、現場の人から見れば、
「また何か文句を言いに来た」
となってしまいます。
作業者の意見を聞き、問題点があれば話し合い、一緒に改善していく。
そして、良いところがあれば褒める。
こうした積み重ねによって、パトロールする側とされる側の信頼関係を築いていくという考え方です。
私はここが、安全パトロールを継続するうえで非常に大切だと思います。
安全パトロールは「監視」ではありません。
現場と一緒に安全な作業環境を作っていく活動です。

安全パトロールを続ける意味
安全活動は、一度実施すれば完成するものではありません。
人が変わります。
作業が変わります。
設備が変わります。
生産量が変われば、現場の動線も変わるかもしれません。
だから安全パトロールも継続する必要があります。
一方で、継続すればするほど、活動そのものがルーティンになり、形だけになってしまう危険もあります。
そこで大切なのは、
「今日、何件指摘したか」ではなく、「この現場は以前と比べてどう変わったか」
を見ることではないでしょうか。
元資料では、安全衛生の改善をダイエットになぞらえています。
急激に変えようとすると大きな負荷がかかる。
それよりも、時間をかけて生活習慣そのものを変えていくように、安全活動も定着させていく必要があるという考え方です。
安全も同じだと思います。
一回のパトロールで現場を変えるのではない。
パトロールを繰り返すことで、現場が自ら危険に気づき、改善する習慣を作る。
これは、トヨタ生産方式でいう「自働化」の考え方にも通じるものがあります。
安全パトロールの理想は、外部から指摘され続けることではありません。現場自身が「いつもと違う」「これは危ない」と異常に気づき、必要な対応を取れるようになることです。
そこまでいけば、安全パトロールは「指摘活動」から「安全文化を育てる活動」へ変わっていきます。

まとめ――安全パトロールは「続け方」が大切
安全パトロールが形骸化する原因の一つは、パトロールすること自体が目的になってしまうことです。
「今月も実施した」
「チェックリストを埋めた」
それだけでは、現場はなかなか変わりません。
問題を見つける。
改善する。
その後を確認する。
現場の人と話す。
良くなったところを評価する。
そして、また次の問題を探す。
この繰り返しです。
安全パトロールの成果は、指摘件数ではなく、
「現場が自分たちで危険に気づけるようになったか」
というところに現れるのかもしれません。
安全パトロールは、一度で結果を出す活動ではありません。
継続して初めて見えてくる変化があります。
そして、その小さな変化を見逃さないことが、安全パトロールを形骸化させない第一歩だと考えます。

安全くんのひとこと
「今日も異常なし」で終わっていませんか?
半年前の現場と比べてみよう。
良くなったところも、安全パトロールの大切な成果です。
継続改善、よし!

<執筆者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業 出身 の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
材料から設備を診る! 技術経営コンサルタント

