ジェットエンジンやガスタービンでは、燃焼によって高温のガスが発生します。
この高温の燃焼ガスをタービンに導き、そのエネルギーを回転エネルギーとして取り出します。
一般に、ガスタービンはタービン入口温度を高くするほど、より高い性能や熱効率を目指すことができます。
しかし、温度を高くするほど大きな課題が生じます。
タービン翼などの材料が、高温に耐えなければならない。
高温になると、金属は単に軟らかくなるだけではありません。
高温で長時間にわたって荷重を受けると、時間とともに少しずつ変形が進むクリープが起こります。
さらに、高温酸化や高温腐食が進み、材料内部の組織そのものも徐々に変化していきます。
つまり、高温で使用される材料には、
強度だけでなく、クリープ特性、耐酸化性、耐食性、そして組織の安定性
まで求められます。
こうした厳しい高温環境で使用するために開発されてきた材料が、
超合金(Superalloy)
です。
今回は、超合金とはどのような材料なのか。
そして、なぜ非常に高い温度でも強度を保つことができるのかを見ていきます。
超合金とは
超合金とは一般に、
高温環境において高い強度、クリープ強度、耐酸化性、耐食性などを維持できるよう設計された耐熱合金
です。
代表的なものには、
- Ni基超合金
- Co基超合金
- Fe-Ni基超合金
などがあります。
航空機用ジェットエンジンや発電用ガスタービンのタービン翼など、極めて厳しい環境で使用されている主要な高温部材がNi基超合金です。
しかし、
「ニッケルは融点が高いから使われている」
と考えるだけでは、超合金の本質は見えてきません。
重要なのは、
高温になっても組織が安定し、変形しにくいよう材料の内部構造を設計していること
です。

高温で金属に何が起こるか
常温で高い強度を持つ材料でも、温度が上昇すると同じ強度を維持できるとは限りません。
高温になると原子が動きやすくなります。
その結果、
- 転位が動きやすくなる
- 原子の拡散が速くなる
- 析出物が粗大化する
- 結晶粒界が変形しやすくなる
といった現象が起こります。
特に重要なのがクリープです。
クリープとは、
高温で一定の荷重を受け続けることで、時間とともに徐々に変形が進む現象
です。
タービン翼には、高温だけでなく高速回転による大きな遠心力も作用しています。
したがって、
「その瞬間に壊れない」
だけでは不十分です。
数千時間、数万時間という長時間にわたって、
変形しにくいこと
が要求されます。
これが高温材料の難しさです。

Ni基超合金の基本となるγ相
Ni基超合金の母相となるのが、
γ(ガンマ)相
です。
γ相はNiを主体とするFCC構造を持った固溶体です。
このγ相に、
Cr、Co、Mo、W、Reなどさまざまな合金元素を加えます。
これらの元素がNiの結晶格子に入り込むことで、格子にひずみが生じます。
すると転位が移動しにくくなります。
これは以前の記事で紹介した、
固溶強化
です。
つまり超合金でも、
「転位を動きにくくする」
という金属強化の基本原理が使われています。

超合金の強さを支えるγ′相
Ni基超合金を理解するうえで、特に重要なのが、
γ′(ガンマプライム)相
です。
代表的なγ′相は、
Ni₃(Al,Ti)
を主体とする金属間化合物です。
γ相の中に非常に細かいγ′相を析出させることで、転位の移動を妨げます。
これが、
析出強化
です。
γ′相の大きな特徴は、高温になっても比較的安定していることです。
そのため、高温環境でも転位に対する障害物として働き続けることができます。
Ni基超合金では、
γ相という母相の中に、微細なγ′相を分散させる。
これが高温強度をつくる重要な材料設計となっています。

元素を添加して性能をつくり込む
超合金には多くの元素が加えられます。
それぞれに役割があります。
Crは高温で保護性のある酸化皮膜を形成し、
耐酸化性や耐食性
を向上させます。
Alはγ′相を形成する重要な元素です。
さらに、条件によっては表面にAl₂O₃を主体とする保護性の高い酸化皮膜を形成し、耐酸化性にも寄与します。
Tiもγ′相形成に寄与し、析出強化に利用されます。
MoやWはγ相に固溶し、
固溶強化によって高温強度を向上
させます。
より高性能なNi基超合金では、TaやReなどの元素も利用されます。
これらを組み合わせ、
高温強度、クリープ強度、耐酸化性、組織安定性などをバランスさせる。
これが超合金の材料設計です。
ただし、合金元素は多く入れればよいわけではありません。
添加量が多すぎれば、好ましくない相が析出したり、密度が増加したり、製造性が悪化したりすることがあります。
材料設計とは、
目的とする性能のために、必要な元素を必要な量だけ組み合わせる技術
でもあります。

結晶粒界も高温では弱点になる
高温では、結晶粒そのものだけでなく、
結晶粒界
の挙動も重要になります。
低温では結晶粒界は転位の動きを妨げるため、結晶粒を細かくすると材料を強くできます。
これが結晶粒微細化強化です。
しかし、高温で長時間使用する場合には事情が変わります。
結晶粒界では原子の拡散やすべりが起こりやすく、クリープ変形や損傷の起点になることがあります。
そこでタービン翼では、
結晶粒界そのものを減らす
という考え方が使われます。
一方向凝固から単結晶へ
初期のタービン翼には、通常の多結晶材料が使用されていました。
しかし、より高い温度で使用するため、
一方向凝固材
が開発されました。
一方向凝固では、結晶粒を特定の方向へ成長させることで、負荷に対して問題となりやすい横方向の結晶粒界を減らします。
さらに進んだものが、
単結晶超合金
です。
名前のとおり、タービン翼全体をほぼ一つの結晶としてつくります。
結晶粒界そのものをなくすことで、粒界に起因する高温クリープ損傷を抑えることができます。
つまり、
材料の成分だけでなく、結晶そのもののつくり方まで設計している。
ここまで来ると、超合金が単なる「特殊な合金」ではないことが分かります。

材料だけで高温に耐えているわけではない
ここでもう一つ重要なことがあります。
現在のガスタービンやジェットエンジンでは、材料だけの力で高温に耐えているわけではありません。
タービン翼内部には複雑な冷却通路が設けられています。
そこへ冷却空気を流し、翼そのものの温度上昇を抑えています。
さらに表面には、
遮熱コーティング(TBC:Thermal Barrier Coating)
が施工されることもあります。
つまり、高温化を実現しているのは、
超合金
+ 冷却技術
+ コーティング技術
の組み合わせです。
材料、設計、製造、表面技術。
それぞれの技術を組み合わせることで、厳しい高温環境での使用を可能にしています。

超合金は「強化機構の集大成」
ここまで重工系材料学で見てきた内容を思い出してみましょう。
金属を強くするためには、
転位を動きにくくする
ことが基本でした。
超合金でも同じです。
合金元素を固溶させる。
微細な析出物をつくる。
安定した組織をつくる。
そして高温では、結晶粒界の影響まで考える。
つまり超合金には、
これまで見てきた
固溶強化
析出強化
結晶粒の制御
合金元素による組織制御
といった材料学の考え方が凝縮されています。
超合金とは、
単に「高価で特殊な金属」なのではありません。
高温で材料がどのように変形し、劣化するのかを考え、それを一つずつ抑え込むよう設計された材料
なのです。

まとめ 超合金とは「高温でも組織を崩さないための材料設計」
今回は、超合金が高温に耐えるしくみについて見てきました。
超合金は、単に融点の高い元素を集めた材料ではありません。
Ni基超合金では、Niを主体とするγ相を基本として、さまざまな合金元素を固溶させます。
さらに微細なγ′相などを析出させ、転位の移動を妨げます。
そして高温で問題となるクリープを抑えるため、一方向凝固や単結晶化によって結晶粒界まで制御します。
さらに実際のタービンでは、冷却技術や遮熱コーティングも組み合わせます。
つまり、
高温に耐えるという性能は、一つの元素や一つの強化機構によって生まれるものではありません。
原子
転位
析出物
結晶粒
表面
そして部品全体の構造。
それらを総合的に設計することで、初めて高温で使える材料になります。
これまで重工系材料学では、炭素鋼から始まり、組織、熱処理、合金元素、ステンレス鋼、そして金属の強化機構について見てきました。
超合金は、その先にある材料の一つです。
そして超合金を理解すると、これまで学んできた材料学の知識が、
実際の機械の性能へどのようにつながっているのか
が見えてきます。
材料が変われば、機械の限界も変わる。
材料技術の進歩は、機械の性能そのものを押し上げてきたのです。

くろがねくんの一言
「材料が機械の性能を決める!」

<執筆者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業 出身 の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
材料から設備を診る! 技術経営コンサルタント





