大容量USCプラントの安定運転を確保せよ!
USCボイラの高温耐圧部材は、長年の運転で確実にクリープ損傷が蓄積していきます。ボイラのチューブや配管はのべ数百kmに及びます。1カ所でも穴が空ているとプラントを停止せざるを得ません。そのため、最も劣化が進行した箇所を見極め、その部位が次の定期点検まで安定して運転できる寿命を有するか否かを見極める必要があります。
今回対象となったのは、T発電所の3次過熱器出口管寄せのスタブ管溶接管台です。

『管台(スタブ管)』とは、大径・厚肉の管寄せ(胴)に、小径のボイラ管を溶接するための接続用の短管(胴と溶接される根元のボイラチューブ)のことです。
材質は管寄せ、スタブ管ともGrade92(NF616)。いわゆる高クロム鋼です。

累積運転時間108,987時間に達した定期定検時の磁粉探傷試験(MT)により、スタブ管管台溶接部の一部に指示模様(き裂)が認められました。
この3次過熱器出口管寄せの一部はクリープ損傷により新替えいたしましたが、諸般の制約により、全数取り換えすることがかなわず、半数の管寄せは、そのまま残置せざるを得なくなりました。
次の定期点検まで残置管寄せは耐えられるのか?

この管寄せには図に示すように40本の管台がセットイン溶接されています。
管寄せ溶接部の上止端部から採取したレプリカ観察により、定性的に、それぞれボイドの発生量が異なることが確認されました。すなわち、各スタブ管台でクリープ損傷の程度が異なるこが予想されました。
製作メーカーはレプリカ観察結果や各管寄せの温度分布をもとに残存寿命を評価しましたが、精度は低い。このスタブ管を含む管寄せが劣化していることは承知していて、今回、一部は更新したけど、全数取替は想定外。プラントが次の定期点検まで耐えられなくても責任はないスタンス。
現地では、年後の定期点検までどうして運転したらよいか不安がのこるまま。関西、中国、四国、九州に電力を供給する広域電源のため、予期せぬトラブルで発電所を止めることは絶対避けたいのです。
茅ヶ崎研究所の元同僚で現地発電所のボイラ担当のYさんは、残置したスタブ管溶接管台を余寿命評価するための試験費用を発電所予算から工面し、私(やくも)にクリープ余寿命評価をお願いしたのでした。
非破壊よりも破壊試験
製作メーカーの評価を上回る精度で評価するためには、破壊試験しかありません。

破壊試験による既存の余寿命評価には、『パラメータ法』と『アイソストレス法』があります。
『パラメータ法』は、所定の温度で、応力を変動させ、それぞれの破断時間を求め、温度と破断時間のパラメータ曲線として回帰します。
『アイソストレス法』は、応力一定で、実機温度より高い温度条件で破断時間を測定し、プロットを直線近似します。
いずれも試験データから得られた回帰線をもとに使用材の余寿命を精度よく求めることができ、余寿命診断法として確立された技術です。
しかしながら、パラメータ法では4本以上、アイソストレス法では3本以上のクリープ破断試験が必要です。複数本のサンプル採取が困難なであり、スタブ管ごとにボイド量が異なることから、同じスタブ管でもクリープ損傷の進み方は均一ではない。
そのため、複数本のサンプルが必要な既存手法を適用するのは難しいと考えました。
寿命比則で1本勝負
まさにスタブ管は「評価が最も難しい場所」です。破壊試験するにしても試験片を採取することができない。
しかし、1本でも試験片が採取できれば、かつて主蒸気管実機使用材の余寿命評価で適用した寿命比則により評価できる。

寿命比則の考え方を応力・パラメータ線図をもとに説明します。

使用材は実機で運転温度T1、運転時間t1、作用応力σ1の条件で使用されます。
その後、実験室において 試験温度T2、試験応力σ2の加速条件でクリープ破断試験を実施し、破断時間trを求めます。

破断時間trが求まると、これを同一試験条件における未使用材のクリープ破断時間tv2で割ることにより、試験寿命消費率φ2が求まります。
1からφ2を差し引くことで、実機寿命消費率φ1を求めることができます。
よって、余寿命は、 実機使用条件における未使用材のクリープ破断時間tv1 に 試験寿命消費率 φ2 を乗ずることで求めることができます。
なお、余寿命LRは、破断確率50%の平均式ベースの評価であることから、安全側評価として評価余寿命LREを 余寿命LRの半分 と定義します。
これなら1本勝負で寿命を評価できます。
ピンポイント試験片のミニチュアクリープ試験
肉厚7mmの小さなチューブから標準試験片を採取することはできない。
そこで選んだ手法がミニチュアクリープ試験(MC試験)

標準試験片のうちφ6㎜の試験片は比較的小型のサイズですが、MC試験片は、この標準試験片の平行部からでも採取可能なほど小さいことがわかります。
形状は、標準試験片とほぼ相似しており、単軸方向に引張応力を作用させるため、破壊モードは同一です。
MC試験片が小さいことを最大限に活かし、日鉄テクノロジーの仲庭さんと神戸工業試験場に勤務する大学の後輩である厚見さんの協力を得て、MC試験片の採取とMC試験を実施しました。
現場の材料をそのまま“真実の語り部”として扱う実践的なアプローチです。

MC試験機は通常のクリープ試験機と同じシングル・レバー式であり、最大荷重は1.5kNです。
通常のクリープ破断試験は大気中で実施しますが、MC破断試験では、試験片の酸化減肉を防止するため、純度99.99%のアルゴンガス気流中で実施しました。
MC破断試験条件を表に示します。試験応力は 実機作用応力と同一の100MPaとしました。
ミニチュアクリープ試験で見えてきた事実
当初、ボイド量が多いサンプルほど破断時間が短くなると予想しましたが、650℃、610℃の試験とも破断時間に有意差は認められませんでした。

実機寿命消費率は、いずれの試験片も90%を超過しており、クリープ寿命の末期段階にあることが確認できました。

実機寿命消費率φ1の最大値が94.0%であることから、最も安全側で評価するため、残存する寿命消費率φ2を6.0%として余寿命を評価することにしました。
実機作用応力σ1を100MPa一定とし、実機運転温度T1をパラメータとして、残存する寿命消費率6.0%における評価余寿命LREを求めました。
残置した管寄せが、一定期点検期間すなわち、評価余寿命16,000時間 にわたりプラントを安定運転するためには、当該管寄せ温度の上限を556℃として運転する必要があることがわかりました。

アイソストレス法は、本来、試験温度が3条件以上で評価すべき手法ですが、610℃および650℃における各2本のクリープ破断時間で評価を試みました。
これら合計4点のデータを直線近似により低温側に外挿した結果、一定期点検期間 すなわち、評価余寿命16,000時間 運転するためには、当該管寄せを562℃以下で運転する必要があると判断されました。
これは先ほどの寿命比則による評価結果と概ね整合します。
アイソストレス法よりも寿命比則による評価温度の方が低いため、556℃を運転上限温度として設定することといたしました。
ボイド量と寿命は相関しなかった——その理由
各管台について、MC試験による実機寿命消費率とボイド評価結果を直接比較してみました。

実機寿命消費率は、いずれの管台も90~94%で評価されました。
一方、右のボイド個数密度は1平方ミリメートルあたり65~670個であり、その最小値と最大値で1オーダーの幅があります。
破壊試験による評価精度が比較的高いことを考慮すると、本事例では、ボイドの量とクリープ寿命消費率が相関しているとはいえないことがわかりました。

管台溶接部(コイルNo.25 17番管)の断面ボイド分布を示します。
ボイドはHAZ細粒域すなわち、母材近傍側のHAZで発生が顕著であり、深さ方向でみると外表面よりも肉厚内部での個数が多い傾向を示しました。
したがって、本管台の事例では、定性的に、外表面にボイドが発生した段階で、寿命末期相当のクリープ損傷が進行していると解すべきもの判断します。
この評価がプラント運転にもたらしたもの
MC試験による余寿命評価をもとに、T発電所は556℃を運転上限温度として運転管理しました。その結果、
✔ 残置管寄せは次回定期点検までトラブルなし
✔ 計画外停止を回避
まさに、ユーザー技術でプラントを守った好事例となりました。
その後、茅ヶ崎研究所から九州の現業部門に配属することになり、この成果を7年間封印していました。しかしながら、若松研究所に配属されたことを機に、この成果を電力業界に共有すべく、論文として残すことにいたしました。
ボイラ管寄せ管台溶接部から採取した使用材のクリープ余寿命評価
この取り組みは予防保全であり、社内で評価されることはありませんでした。しかしながら、火力原子力発電技術協会 九州支部殿から苅田記念賞をいただくことができました。ユーザーの安定運転を確保する矜持を評価していただけ大変嬉しいです。

<著者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業 出身 の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
USC・PFBC ボイラの基本設計・材料評価・損傷解析を担当。 現在は火力発電設備の材料選定・余寿命評価等を得意分野とする技術経営コンサルタント

