【重工系材料学】焼ならしと焼なましとは|鋼を加熱してゆっくり冷やすのはなぜ?

焼きならしと焼きなまし Technology

鋼の熱処理というと、「焼入れ」と「焼戻し」を思い浮かべる人が多いかもしれません。

しかし、鋼の熱処理にはもう二つ、重要な処理があります。

焼ならし(Normalizing)と焼なまし(Annealing)です。

焼入れでは、鋼を加熱した後に比較的速く冷却し、マルテンサイトなどの硬い組織を得ます。

一方、焼ならしや焼なましでは、焼入れほど急速には冷却しません。

では、なぜわざわざ鋼を加熱して、その後ゆっくり冷やすのでしょうか。

今回は、

焼ならしと焼なましは何のために行うのか。

そして、

冷却速度の違いによって鋼の組織と性質がどう変わるのか。

という視点から考えてみましょう。

鋼の性質は「過去の履歴」に影響される

鋼材は、最初から均一で理想的な組織を持っているわけではありません。

鋳造、鍛造、圧延、溶接、機械加工など、さまざまな製造工程を経験します。

その過程で、

  • 結晶粒が粗大化する
  • 組織が不均一になる
  • 加工によるひずみが残る
  • 残留応力が生じる
  • 硬くなって加工しにくくなる

といった状態になることがあります。

そこで、鋼をもう一度加熱し、適切な方法で冷却することによって、組織や機械的性質を目的に応じた状態へ整えることがあります。

その代表が焼ならしと焼なましです。

履歴

焼ならしとは

焼ならしとは、鋼を所定の温度まで加熱してオーステナイト化した後、一般に空気中で冷却する熱処理です。

英語ではNormalizingと呼ばれます。

その名前のとおり、製造工程などによって乱れた鋼の組織を、より標準的で均一な状態へ「ならす」と考えるとイメージしやすいでしょう。

焼ならしの主な目的には、

組織の均一化、結晶粒の微細化、機械的性質の改善

などがあります。

例えば鍛造や熱間加工などによって結晶粒が粗大化した鋼を適切に焼ならすことで、より微細で均一な組織を得ることができます。

焼きならし

なぜ焼ならしで組織が細かくなるのか

鋼を適切な温度まで加熱すると、組織はオーステナイトになります。

そこから空冷すると、冷却途中でフェライトやパーライトなどへ変態していきます。

ここで重要なのが冷却速度です。

焼ならしでは一般に炉冷より速い空冷を行うため、変態が進む温度域も変化し、比較的細かな組織を得やすくなります。

組織が微細化すると、強度や靭性などの機械的性質も変化します。

つまり焼ならしは、

加熱 → オーステナイト化 → 空冷 → 組織を整える

という熱処理です。

ただし、得られる組織は鋼の化学成分や部材寸法、冷却条件などによって異なります。

焼きならし

高クロム鋼は焼ならしが必須

ここで少し、発電プラントで使われる材料の話をしてみましょう。

発電プラントの高温配管やボイラ部材などに使用されるGrade 91(9Cr-1Mo-V-Nb系鋼;改良9Cr-1Mo鋼)に代表される9Cr系耐熱鋼でも、焼ならしは非常に重要な熱処理です。

ただし、一般的な炭素鋼の焼ならしとは、得られる組織が少し異なります。

一般的な炭素鋼では、オーステナイト化した後に空冷すると、主としてフェライトやパーライトなどの組織が形成されます。

一方、Grade 91のような9Cr系鋼には、Cr(クロム)やMo(モリブデン)などの合金元素が添加されています。

これらの合金元素は、フェライトやパーライトなどの拡散変態を遅らせ、鋼の焼入性を著しく改善します。

そのため、

冷却速度がそれほど速くなくても、オーステナイトをマルテンサイトまで変態させやすくなります。

Grade 91では、所定の温度まで加熱してオーステナイト化した後、一般に空冷によって冷却します。

9Cr系鋼は焼入性が高いため、空冷であっても主としてマルテンサイト組織を形成することができます。

ただし、焼ならし直後のマルテンサイトは硬く、内部応力も大きい状態です。

そこで、その後に焼戻しを行います。

すると、マルテンサイトの内部に炭化物などが適切に析出し、強度と靭性のバランスを持った

焼戻しマルテンサイト組織

が形成されます。

したがってGrade 91では、

焼ならし → マルテンサイト組織を形成
焼戻し → 焼戻しマルテンサイト組織へ調整

という一連の熱処理が重要になります。

ここで覚えておきたいのは、

焼ならし=必ずフェライト+パーライトになるわけではない

ということです。

冷却後にどのような組織になるかは、

鋼の化学成分 × 冷却速度

によって決まります。

特にCrやMoなどの合金元素が添加されると焼入性が高くなり、CCT線図の変態開始曲線が長時間側へ移動するため、空冷のような比較的緩やかな冷却でもフェライト・パーライト変態を避けて、マルテンサイトを得やすくなります。

つまりGrade 91の焼ならしは、単に「組織を均一にする」だけではありません。

高温でオーステナイト化し、合金元素によって高められた焼入性を利用して空冷でマルテンサイトを形成し、その後の焼戻しによって実用的な焼戻しマルテンサイト組織をつくる。

これが、高クロム鋼の熱処理です。

高クロム鋼の焼きならし

焼なましとは

一方、焼なましとは、鋼を所定の温度まで加熱した後、一般にゆっくり冷却する熱処理です。

英語ではAnnealingと呼ばれます。

代表的な完全焼なましでは、鋼をオーステナイト化した後、炉の中でゆっくり冷却します。

冷却速度が遅いため、比較的平衡状態に近い組織へ変化していきます。

その結果、一般に鋼を軟らかくし、

加工しやすくする、内部応力を低減する、組織を調整する

といった目的で利用されます。

焼きなまし

なぜ鋼を軟らかくする必要があるのか

「強い鋼を作りたいのに、なぜわざわざ軟らかくするの?」

と思うかもしれません。

しかし、製品は材料を作った瞬間に完成するわけではありません。

切削、曲げ、プレス、鍛造など、その後にさまざまな加工が必要になることがあります。

材料が硬すぎれば、

工具の摩耗が大きくなる。

加工に大きな力が必要になる。

目的の形状に加工しにくくなる。

といった問題が生じます。

そこで焼なましによって鋼を加工しやすい状態にしてから、次の製造工程へ進むことがあります。

つまり熱処理は、最終製品の性能だけではなく、製造プロセス全体を成立させるためにも利用されているのです。

焼きなまし

焼なましのバリエーション

実際には「焼なまし」は一つの処理だけを意味するわけではありません。

目的によって、

完全焼なまし

応力除去焼なまし

球状化焼なまし

など、さまざまな処理があります。

例えば応力除去を目的とする場合には、必ずしもオーステナイト化させるわけではありません。

したがって、

「焼なまし=オーステナイト化して炉冷する」

とだけ覚えてしまうと、実際の熱処理を理解するときに困ることがあります。

重要なのは、

何のために加熱し、どの温度域を使い、どのように冷却するのか

を見ることです。

焼きなまし

焼ならしと焼なましは何が違う?

代表的な処理を単純化すると、違いは次のように整理できます。

焼ならし焼なまし
英語NormalizingAnnealing
代表的な冷却方法空冷炉冷などの徐冷
冷却速度比較的速い比較的遅い
主な目的組織の均一化・微細化など軟化・加工性改善・応力低減など
一般的な傾向比較的強度・硬さが高くなる比較的軟らかくなる

ただし、これはあくまで一般的な比較です。

実際には鋼種、加熱温度、保持時間、部材寸法、冷却条件によって結果は変わります。

焼きなましと焼きならし

4つの熱処理をつなげて考えてみよう

ここまで来ると、これまで説明してきた4つの代表的な熱処理を整理できます。

焼入れ

マルテンサイトなどを生成させ、主として高い硬さ・強度を得る。

焼戻し

焼入れ後に再加熱し、強度・硬さと靭性などのバランスを調整する。

焼ならし

組織を均一化・微細化するなど、材料の状態を整える。

焼なまし

材料を軟らかくしたり、加工しやすくしたり、残留応力を低減したりする。

ここで大切なのは、この4つを単なる用語として暗記しないことです。

すべてに共通しているのは、

加熱 → 保持 → 冷却 → 組織変化 → 性質変化

という流れです。

4つの熱処理

熱処理を理解するときは「温度」と「冷却速度」を見る

熱処理の名前を覚えるより、

どこまで加熱したのか。

どのくらい保持したのか。

そこからどのくらいの速さで冷却したのか。

を見る方が、材料の状態を理解しやすくなります。

冷却が速ければマルテンサイトが生成する場合があります。

少し遅くなればベイナイト、さらに条件が変わればフェライトやパーライトなどが生成します。

そして、その組織によって硬さ、強度、靭性、加工性などが変化します。

だからこそ、

Fe-C系平衡状態図

CCT線図

が重要なのです。

熱処理

まとめ 熱処理は「鋼の組織をつくる技術」

焼ならしと焼なましは、どちらも鋼を加熱して冷却する熱処理です。

しかし、その目的と冷却方法には違いがあります。

焼ならしでは、一般に空冷によって組織を整え、微細化します。

焼なましでは、一般によりゆっくり冷却することで材料を軟らかくしたり、加工しやすくしたりします。

そして、焼入れ・焼戻しを含めたすべての熱処理に共通しているのは、

熱履歴によって組織を変え、その組織によって材料の性質を変える

という考え方です。

材料は化学成分だけで決まるわけではありません。

どのような熱履歴を受けたかによって、同じ鋼でも組織と性質は大きく変わります。

だから熱処理は、材料が持っている性能を引き出すための重要な製造技術なのです。

熱処理のまとめ

くろがねくんの一言

「熱処理の名前を覚えるより、“どう加熱して、どう冷やしたか”を見ると材料が見えてくるよ!」

くろがねくん

<執筆者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業 出身 の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
材料から設備を診る! 技術経営コンサルタント

やくも技術士事務所|重工系技術士(金属部門)・労働安全コンサルタント・中小企業診断士 難波 一夫|材料から設備を診る 損傷解析から設備マネジメント・労働安全・経営まで総合支援
中小企業診断士・労働安全コンサルタントの資格を持つ重工系技術士(金属部門)が、発電設備の損傷解析、材料劣化評価、保全最適化、安全対策を総合的に支援。実務経験に基づく技術コンサルティングを提供します。
重工系技術士 | 商標登録出願中
中小企業診断士・労働安全コンサルタントの資格を持つ重工系技術士(金属部門)が、発電設備の損傷解析、材料劣化評価、保全最適化、安全対策を総合的に支援。実務経験に基づく技術コンサルティングを提供します。
業務経歴
IHI・J-POWERで構造材料研究と発電設備の損傷解析を担当した重工系技術士(金属部門)が、材料劣化評価・保全最適化・安全対策を総合支援します。
論文
中小企業診断士・労働安全コンサルタントの資格を持つ重工系技術士(金属部門)が、発電設備の損傷解析、材料劣化評価、保全最適化、安全対策を総合的に支援。実務経験に基づく技術コンサルティングを提供します。
受賞歴
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