Fe-C系平衡状態図を理解する ― 鉄は温度と炭素量で姿を変える
鉄鋼材料を理解するうえで、避けて通れないのがFe-C系平衡状態図です。
最初に見ると、線が多くて少し取っつきにくい図に見えるかもしれません。
しかし、考え方はそれほど難しくありません。
Fe-C系平衡状態図は、
「鉄にどれくらい炭素が含まれているか」
と
「いま何℃なのか」
によって、
どの相が安定して存在するか
を示した地図です。
この状態図を理解するためには、まず「鉄そのものが温度によって結晶構造を変える」という性質を知る必要があります。
純鉄も相転移する
純鉄は、温度が変わってもずっと同じ結晶構造を保っているわけではありません。
温度の変化によって、鉄原子の並び方が変化します。
高温からゆっくり冷却すると、純鉄はおおまかに、
液相
↓
δ鉄
↓
γ鉄(オーステナイト)
↓
α鉄(フェライト)
という変化をたどります。
元素としてはすべてFeです。
しかし、原子の並び方が変わることで、材料としての性質も変化します。
これが鉄鋼材料のおもしろいところです。

高温ではδ鉄になる
溶融した鉄を冷却すると、まず高温側でδ鉄が現れます。
δ鉄の結晶構造は、
体心立方格子(BCC)
です。
立方体の各頂点と、その中心に鉄原子が配置される構造です。
ただし、δ鉄が存在するのは非常に高温の範囲です。
実際の一般的な熱処理では、それほど頻繁に意識する相ではありません。
それでも、Fe-C系平衡状態図の高温側を理解するうえでは重要な存在です。

さらに冷却するとオーステナイトになる
温度が下がると、δ鉄はγ鉄へ変化します。
γ鉄は一般に、
オーステナイト
と呼ばれます。
このとき結晶構造は、
BCC → FCC
へ変化します。
FCCとは、面心立方格子です。
このオーステナイトが、鋼の熱処理では極めて重要です。
その理由は、
フェライトよりも多くの炭素を固溶できる
からです。
焼入れ、焼ならし、焼なましなど、多くの熱処理では、いったん鋼をオーステナイト領域まで加熱します。
そこからどう冷却するかによって、最終的な組織が変わります。
つまり、
熱処理を理解するには、まずオーステナイトを理解する必要がある
ということです。

さらに冷えるとフェライトになる
純鉄では、さらに温度が下がるとγ鉄からα鉄へ変化します。
α鉄は一般に、
フェライト
と呼ばれます。
結晶構造は、
FCC → BCC
へ戻ります。
このフェライトは比較的軟らかく、延性に富む相です。
そして低炭素鋼では、常温組織の主要な構成相になります。
ただし、フェライトに固溶できる炭素量は非常に少量です。
ここが、Fe-C系状態図を理解するうえで重要なポイントになります。

炭素が入ると、鉄の相転移はどう変わるのか
純鉄だけであれば、温度による相転移だけを考えればよいのですが、鋼には炭素が含まれています。
この炭素が入ることで、
相が存在できる温度範囲
や
変態が起こる温度
が変化します。
その関係をまとめたものが、
Fe-C系平衡状態図
です。
横軸は炭素濃度
縦軸は温度です。
つまり、
「この炭素量の鋼を、この温度にすると、どんな相が安定なのか」
を読むための図です。
状態図には、
フェライト(α)
オーステナイト(γ)
セメンタイト(Fe₃C)
液相(L)
などの領域が描かれています。
さらに、
α+γ
γ+Fe₃C
のように、複数の相が共存する領域もあります。
この図を読むと、
ある炭素量の鋼を加熱したときに、
いつフェライトが消えるのか
いつオーステナイトになるのか
いつセメンタイトが現れるのか
を理解できます。

約0.8重量%C付近が重要なわけ
Fe-C系平衡状態図には、非常に重要な炭素量があります。
それが、
約0.8重量%C付近
です。
厳密には約0.77重量%C付近ですが、実用的な説明では約0.8重量%Cと覚えておくと分かりやすいです。
この炭素量を、
共析組成
と呼びます。

共析組成のオーステナイトをゆっくり冷却すると、
オーステナイト → フェライト+セメンタイト
という変態が起こります。
実際の組織としては、フェライトとセメンタイトが層状に並んだ、
パーライト
が形成されます。
したがって、
オーステナイト → パーライト
と理解するとイメージしやすいです。
この共析変態が起こる温度が、
約727℃
です。
この温度は一般に、
A₁変態点
として扱われます。
Fe-C系平衡状態図を読むうえでは、
約0.8重量%C
と
約727℃
の組み合わせは、まず覚えておきたい重要ポイントです。

亜共析鋼
共析組成より炭素量が少ない鋼を、
亜共析鋼
と呼びます。
例えば、
0.2重量%C
0.4重量%C
程度の鋼です。
この鋼をオーステナイト領域からゆっくり冷却すると、まず、
初析フェライト
が析出します。
さらに温度が下がり、A₁変態点付近になると、残っていたオーステナイトがパーライトへ変化します。
その結果、常温では、
フェライト+パーライト
という組織になります。
炭素量が少ないほどフェライトの割合が多くなり、比較的軟らかく、延性の高い材料になります。
一般的な構造用炭素鋼の多くは、この亜共析領域にあります。

過共析鋼
一方、共析組成より炭素量が多い鋼を、
過共析鋼
と呼びます。
この場合、オーステナイト領域からゆっくり冷却すると、まず、
初析セメンタイト
が現れます。
さらにA₁変態点まで冷却すると、残っていたオーステナイトがパーライトへ変化します。
そのため、常温では、
パーライト+セメンタイト
という組織になります。
炭素量が増えるほど硬さや耐摩耗性は高くなりますが、延性や靱性は低下する傾向があります。

状態図は「組織の地図」
Fe-C系平衡状態図は、単に相の名前を暗記するための図ではありません。
重要なのは、
どの炭素量で
どの温度にすると
どの相が現れるか
を読み取ることです。
さらに、
冷却すると何が析出し
最終的にどんな組織になるか
を考えられるようになると、熱処理や機械的性質とのつながりが見えてきます。
例えば、
低炭素鋼ならフェライトが多い。
炭素量が増えるとパーライトが増える。
共析組成付近ではほぼパーライトになる。
さらに炭素量が増えるとセメンタイトが現れる。
こうして、
炭素量 → 組織 → 機械的性質
という流れで理解すると、Fe-C系状態図が一気に実用的なものになります。

平衡状態図を読み取るときの注意点
Fe-C系平衡状態図は、
十分ゆっくり加熱・冷却し、平衡状態に近づいた場合
を基本として示しています。
実際の焼入れのように急冷すると、平衡状態図だけでは説明できない組織が現れます。
代表的なのが、
マルテンサイト
です。
したがって、
Fe-C系平衡状態図は熱処理を理解するための出発点ですが、実際の変態速度まで考えるには、
TTT線図
や
CCT線図
の理解が必要になります。
これらは別のブログで説明させていただきます。
くろがねくんの一言
「Fe-C系状態図は暗記表じゃない。鉄が温度と炭素量によって、どんな姿に変わるのかを示した“材料の地図”なんだ!」

