はじめに
火力発電所のボイラを見ると、巨大な設備の中に数多くの鋼管や配管、管寄せなどが使われています。
一見すると、
「どれも同じ鉄の配管ではないのか?」
と思うかもしれません。
しかし実際には、ボイラの中では場所によって、
- 温度
- 圧力
- 燃焼ガスの影響
- 水蒸気による酸化
- 起動・停止による熱応力
などの条件が大きく異なります。
そのため、ボイラでは一種類の材料ですべてを作るのではなく、
炭素鋼 → 低合金鋼 → 高Crフェライト鋼 → オーステナイト系ステンレス鋼 → Fe-Ni基・Ni基合金
と、使用条件に応じて材料を使い分けています。
今回は、発電用ボイラではどのような材料が使われ、なぜ材料を使い分ける必要があるのかを見ていきます。
ボイラは「高温・高圧」の設備
発電用ボイラの役割を簡単に言えば、
水を加熱して、高温・高圧の蒸気をつくる設備
です。
そして発電効率を高めるため、ボイラの蒸気条件は長い年月をかけて高温・高圧化してきました。
資料では、蒸気温度は1950年頃の約450℃から、538℃、566℃、593℃へと上昇し、その後600℃級、さらに610℃級へと高温化してきました。
蒸気条件を高くすれば発電効率を向上できます。
しかし材料の側から見ると、
温度と圧力が上がるほど、材料に要求される性能は厳しくなる
ということです。

ボイラはどこも同じ温度・圧力ではない
ボイラ材料を考えるうえで非常に重要なのが、
「ボイラの温度・圧力は均一ではない」
ということです。
たとえば代表的な耐圧部には、
節炭器→火炉水壁 → 一次過熱器 → 放射過熱器 → 二次過熱器
などがあります。
しかも、同じ過熱器の中でも管壁温度は一定ではありません。
蒸気温度だけでなく、
- 蒸気流量
- 燃焼ガス温度
- ガス流量
- 熱吸収量
などが場所によって異なるため、管壁温度にも分布が生じます。
つまり、
「最高蒸気温度が600℃だから600℃に耐える材料を選べばよい」
という単純な話ではありません。

ボイラ材料に必要なのは「強度」だけではない
ボイラ材料というと、
「高温でも強い材料」
というイメージが先に来るかもしれません。
もちろん高温強度は重要です。
しかし、それだけでは十分ではありません。
ボイラ用材料には、大きく次のような性能が求められます。
① 高温で長時間耐えられること
ボイラは何万時間という長期間にわたって、高温・高圧環境で使用されます。
そのため重要になるのが、
クリープ強度
です。
クリープとは、材料に一定の応力が加わった状態で高温に長時間さらされると、時間とともに少しずつ変形していく現象です。
ボイラでは単純な引張強さだけではなく、
10万時間といった長時間使用に耐えられるか
という考え方が必要になります。
② 水蒸気酸化に耐えられること
管内面は高温の水蒸気にさらされるため、
水蒸気酸化スケール
が生成します。
このスケールが厚くなると伝熱を阻害するうえ、剥離すれば管内で堆積することで過熱による短時間クリープにより噴破したり、下流側へ飛散すると蒸気タービン翼がエロージョン損傷します。
③高温腐食に耐えられること
特に過熱器や再熱器では、管の外側が高温の燃焼ガスにさらされます。
管外面の温度は設計蒸気温度より20℃~数十℃程度高くなることがあり、燃料中の成分や灰などによる腐食性付着物によって減肉が進むことがあります。
つまり、
管の中だけでなく、外からも材料は攻撃される
わけです。
つまり伝熱管では、
内側=水蒸気酸化
外側=高温腐食
という両面から材料を考えなければなりません。

材料を使い分ける|適材適所がボイラ設計の基本
ボイラには、炭素鋼、Cr-Mo低合金鋼、高Crフェライト系耐熱鋼、オーステナイト系ステンレス鋼など、さまざまな材料が使用されています。
では、すべての部位を高性能な材料で作ればよいのでしょうか。
もちろん、高温強度や耐食性に優れた材料を使用すれば、厳しい環境に対応しやすくなる場合があります。
しかし、高性能な材料は一般に高価であり、加工や溶接、熱処理などの施工管理にも高度な技術が要求されることがあります。
また、材料にはそれぞれ長所と短所があり、高温強度が高い材料が、必ずしもすべての部位に適しているわけではありません。
そこで重要になるのが、
必要な性能を満足する範囲で、その場所に適した材料を使う
という考え方です。
発電用ボイラでは、使用温度や圧力だけでなく、腐食環境、熱応力、加工性、溶接性、経済性などを総合的に考えて材料を選定します。
概念的には、次のように材料を使い分けます。
ボイラ主要部位の使用温度と代表的な材料
| 部位 | 使用温度の目安 | 代表的な材料 | 材料区分・求められる特性 |
|---|---|---|---|
| 節炭器管 | 200~350℃ | STB340、STB410、STB510 | 炭素鋼。耐圧強度、加工性、溶接性 |
| 火炉壁管 | 300~450℃ | STB340、STB410、STBA12、STBA20、STBA22 | 炭素鋼・低合金鋼。耐圧強度、耐高温腐食性、耐熱疲労性 |
| 過熱器管(低温部) | 350~500℃ | STBA22、STBA23、STBA24 | Cr-Mo低合金鋼。高温強度、耐水蒸気酸化性 |
| 過熱器管(高温部) | 500~620℃ | STBA24、火STBA28、火STBA29、SUS321HTB、SUS347HTB、火SUS304J1HTB | 高Crフェライト系耐熱鋼・オーステナイト系ステンレス鋼。クリープ強度、耐水蒸気酸化性、耐高温腐食性 |
| 再熱器管(低温部) | 300~500℃ | STBA22、STBA23、STBA24 | Cr-Mo低合金鋼。高温強度、耐水蒸気酸化性 |
| 再熱器管(高温部) | 500~620℃ | 火STBA28、火STBA29、SUS321HTB、SUS347HTB、火SUS304J1HTB | 高Crフェライト系耐熱鋼・オーステナイト系ステンレス鋼。クリープ強度、耐水蒸気酸化性、耐高温腐食性 |
| 管寄せ(低・中温部) | 300~500℃ | STPA22、STPA23、STPA24 | Cr-Mo低合金鋼。耐圧強度、靭性、溶接性、熱疲労強度 |
| 管寄せ(高温部) | 500~620℃ | STPA24、火STPA28、火STPA29、火SUS410J3TP | Cr-Mo低合金鋼・高Crフェライト系耐熱鋼。クリープ強度、熱疲労強度、靭性 |
| 給水管 | 150~300℃ | STPG370、STPG410、STPA系 | 炭素鋼・低合金鋼。耐圧強度、靭性、溶接性 |
| 主蒸気管 | 538~610℃ | STPA24、火STPA28、火STPA29、火SUS410J3TP | Cr-Mo低合金鋼・高Crフェライト系耐熱鋼。クリープ強度、熱疲労強度、靭性 |
| 低温再熱蒸気管 | 300~400℃ | STPA22、STPA23、STPA24 | Cr-Mo低合金鋼。耐圧強度、靭性、溶接性 |
| 高温再熱蒸気管 | 538~610℃ | STPA24、火STPA28、火STPA29、火SUS410J3TP | Cr-Mo低合金鋼・高Crフェライト系耐熱鋼。クリープ強度、熱疲労強度、靭性 |
注:使用温度は主として内部流体温度の概略値です。個別設備の設計温度や材料の使用限界を示すものではありません。また、代表材料は従来型から600℃級のボイラに使用される鋼種を例示したもので、記載した温度範囲の全域に各鋼種が適用できるという意味ではありません。
この表を見ると、ボイラでは使用条件に応じて材料が使い分けられていることがわかります。
例えば、比較的温度の低い節炭器管では炭素鋼が中心となります。一方、高温の過熱器管や再熱器管では、クリープ強度や耐水蒸気酸化性、耐高温腐食性に優れた高Crフェライト系耐熱鋼やオーステナイト系ステンレス鋼が使用されます。
また、主蒸気管や管寄せなどの厚肉耐圧部では、高温強度だけでなく、起動停止時に発生する熱応力や熱疲労への対応も重要です。
つまり、ボイラの材料選定は、
使用温度・圧力を把握する
↓
必要な強度・耐食性・耐酸化性などを明確にする
↓
加工性・溶接性・施工性を確認する
↓
設備の寿命と経済性を考慮して材料を選ぶ
という考え方になります。
ここで重要なのは、単純に高価な材料ほど優れているということではありません。
材料の性能を理解し、設備の使用条件に合わせて適材適所で使い分けることこそ、ボイラ材料設計の基本なのです。

材料の進歩が蒸気温度を向上した
発電所の蒸気条件が高くなったのは、
単にボイラの設計技術が進歩したからではありません。
その背景には、
より高温に耐えられる材料が開発されてきた
という歴史があります。
たとえば600℃級では9Cr系などの高強度フェライト鋼が重要になり、さらに700℃超級のA-USCでは、従来材料では厳しくなります。
A-USCの検討では、メタル温度が約630℃を超える伝熱管について、高強度オーステナイト系ステンレス鋼、Fe-Ni基合金、Ni基合金が候補とされています。
つまり、
蒸気条件の高温化の歴史=ボイラ材料の進歩の歴史
と言っても過言ではありません。

部位によって材料に求められるものも違う
さらに面白いのは、
同じ温度だから同じ材料とは限らない
ことです。
たとえば過熱器・再熱器のような比較的薄肉の伝熱管では、
- クリープ強度
- 高温腐食
- 水蒸気酸化
が重要になります。
一方、主蒸気管や管寄せのような大径厚肉部材では、
起動・停止時の熱応力
も大きな問題になります。
厚肉になるほど、内部と外部の温度差が大きくなりやすいためです。
ここから、
「強い材料を使えばすべて解決するわけではない」
ことも分かります。

まとめ
発電用ボイラには、一種類の材料が使われているわけではありません。
ボイラ内部では場所によって温度や圧力、腐食環境、熱応力などが異なるため、
炭素鋼 → 低合金鋼 → 高Cr鋼 → オーステナイト系ステンレス鋼 → Ni基合金
と材料を使い分けています。
そして発電効率を高めるために蒸気条件が高温・高圧化すると、それまでの材料では十分な強度や耐食性を確保できなくなります。
そこで新しい耐熱材料が開発され、
材料の進歩によって、ボイラの高温・高圧化が実現してきました。
つまりボイラを材料の視点から見ると、
「どこに、なぜ、その材料が使われているのか」
を考えることが重要です。
次回からは、ボイラに使用される材料を、
炭素鋼 → Cr-Mo鋼 → 9Cr鋼 → ステンレス鋼
と順番に見ていきましょう。

くろがねくんの一言
「ボイラ材料は、高温に強ければいいわけじゃないよ!どこに、なぜ、その材料が使われているのかを考えることが大切なんだ!」

<執筆者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業 出身 の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
材料から設備を診る! 技術経営コンサルタント





