【重工系材料学#13・溶接基礎編④】HAZとは|溶けていないのに、なぜ組織と性質が変化するのか

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溶接部を見ると、まず目につくのは、金属が溶けて固まった「溶接金属」です。

しかし、材料の立場から見ると、注目すべきなのは溶接金属だけではありません。

そのすぐ隣には、

溶けてはいないのに、溶接熱によって金属組織や機械的性質が変化した領域

があります。

これが、

HAZ(Heat Affected Zone:熱影響部)

です。

HAZは、もともとは母材の一部です。

溶接によって溶融しているわけではありません。

それにもかかわらず、溶接時の加熱とその後の冷却によって、金属組織が変化し、硬さや強度、靭性などの性質も変わることがあります。

では、なぜ溶けていない母材の性質が変わるのでしょうか。

今回は、溶接部の健全性を考えるうえで重要なHAZについて、「熱によって材料に何が起こるのか」という視点から整理します。

HAZとは

HAZとは、

溶接熱の影響によって、母材の金属組織や機械的性質が変化した領域

です。

溶接部を大きく分けると、

母材
↓
HAZ
↓
溶接金属
↓
HAZ
↓
母材

という構成になります。

溶接金属は、母材や溶加材がいったん溶融し、その後に凝固してできた部分です。

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一方、HAZは溶融していません。

もともとは母材ですが、溶接アークによる強い熱の影響を受けるため、溶接部近傍では温度が急激に上昇します。

そして、その後の冷却まで含めて、

加熱 → 組織変化 → 冷却

という熱履歴を受けます。

その結果、HAZでは母材そのものが溶けていなくても、金属組織が変化し、硬さや強度、靭性などの機械的性質も元の母材とは異なるものになります。

つまりHAZは、

「溶けてはいないが、溶接熱によって材料としての状態が変化した母材領域」

と考えると分かりやすいでしょう。

HAZとは

なぜ、溶けていないのに性質が変わる?

金属の性質は、化学成分だけで決まるわけではありません。

同じ成分の鋼であっても、

  • どの温度まで加熱されたか(最高到達温度)
  • その温度にどれくらいさらされたか(保持時間)
  • どのくらいの速度で冷却されたか(冷却速度)

といった熱履歴によって、形成される金属組織は変化します。

つまり、材料の性質を考えるうえでは、

「成分」だけでなく「熱履歴」も重要

です。

同じ鋼材であっても、受けた熱履歴が異なれば、組織が変わり、その結果として硬さや強度、靭性などの性質も変化します。

溶接では、ごく狭い範囲が短時間のうちに高温まで急速に加熱され、その後、周囲の低温の母材へ熱が逃げることで急速に冷却されます。

HAZは、このような

急速加熱 → 高温保持 → 冷却

という特殊な熱履歴を受けます。

そのため、母材そのものは溶けていなくても、金属組織が変化し、元の母材とは異なる性質を持つようになるのです。

なぜ性質が変わる

HAZ部は均一な領域ではない

HAZ部は、均一な領域ではありません。

溶接金属に近いほど高温まで加熱され、そこから母材側へ離れるにつれて、最高到達温度は低くなっていきます。

つまり、HAZの中でも場所によって受ける熱履歴は異なります。

そのため、同じ母材であっても、溶接金属からの距離によって、形成される金属組織は変化します。

炭素鋼や低合金鋼では、HAZを代表的に次のような領域に分けて考えることができます。

溶接金属側
↓
粗粒域
↓
細粒域
↓
二相域
↓
焼戻し域
↓
母材

それぞれの領域では、最高到達温度が異なるため、相変態の進み方や結晶粒の大きさ、冷却後に形成される組織も変わります。

つまりHAZは、

「同じ母材が、溶接金属からの距離に応じて異なる熱履歴を受けた領域」

すなわち、HAZは「熱履歴の記録」である

と考えると分かりやすいでしょう。

HAZ領域

粗粒域の特徴

溶接金属に最も近いHAZは、融点に近い高温まで加熱されます。

この領域では、母材がいったんオーステナイト化し、さらに高温にさらされることで、オーステナイト結晶粒が大きく成長します。

この領域を一般に、

粗粒HAZ(CGHAZ:Coarse-Grained Heat Affected Zone)

と呼びます。

結晶粒が粗大化すると、一般に靭性が低下しやすくなります。

また、その後の冷却速度が速い場合には、鋼種によってはマルテンサイトやベイナイトなどの硬い組織が形成されることがあります。

そのため粗粒HAZでは、

結晶粒の粗大化
+
冷却後に形成される組織の変化

によって、硬さや強度、靭性などの材料特性が大きく変化する場合があります。

粗粒域の特徴

細粒域の特徴

粗粒HAZより少し母材側では、最高到達温度が低くなります。

この領域でも母材はオーステナイト化しますが、粗粒域ほど高温には加熱されないため、オーステナイト結晶粒の著しい成長は起こりません。

その後の冷却によって、比較的細かな結晶粒をもつ組織が形成されます。

この領域を、

細粒HAZ(FGHAZ:Fine-Grained Heat Affected Zone)

と呼びます。

一般に、結晶粒が細かくなることは靭性の面では有利に働きます。

つまり、

粗粒化 → 靭性が低下しやすい
細粒化 → 靭性の確保に有利

という関係があります。

一方、高温で長時間使用される低合金耐熱鋼や高Crフェライト系耐熱鋼では、話が少し変わります。

溶接熱によって母材の組織や析出物の状態が変化すると、細粒HAZ付近では母材よりクリープ強度が低下する場合があります。

そのため、高温配管などでは、

「結晶粒が細かい=すべての材料特性に有利」

とは限りません。

特にクリープが問題となる高温設備では、細粒HAZやその周辺が長時間使用後の弱部となることがあり、Type IV損傷を考えるうえでも重要な領域になります。

細粒域の特徴

二相域の特徴

さらに母材側へ離れると、最高到達温度はAc1変態点とAc3変態点の間になります。

この温度域では、母材全体がオーステナイトになるわけではありません。

一部だけがオーステナイト化し、

フェライト + オーステナイト

が共存する状態になります。

このため、この領域を

二相域HAZ(ICHAZ:Intercritical Heat Affected Zone)

と呼びます。

その後の冷却では、部分的に生成したオーステナイトが、冷却速度や鋼種に応じて別の組織へ変態します。

一方、オーステナイト化しなかった部分には、もとの組織の影響が残ります。

つまり二相域HAZは、

「一部は変態し、一部は元の組織を残す領域」

です。

そのため、冷却後の組織は母材とは異なる複雑なものとなり、硬さや強度、靭性などの機械的性質も変化することがあります。

特に耐熱鋼では、この二相域を含む外側HAZが長時間使用後のクリープ強度低下と関係することがあり、Type IV損傷を考えるうえでも重要な領域です。

なお、二相域よりさらに母材側には、Ac1以下まで加熱されるサブクリティカルHAZがあります。鋼種によっては、この領域で焼戻しや析出物の変化が生じることがあります。

二相域の特徴

HAZ部の硬さはなぜ変わるのか

HAZでは、母材と同じ化学成分であっても、溶接によって受ける熱履歴が異なるため、硬さも変化します。

特に重要なのが、

最高到達温度
+
冷却速度

です。

溶接金属に近いHAZでは、高温まで加熱されることで母材がオーステナイト化します。

その後の冷却が速いと、鋼種によってはマルテンサイトやベイナイトなどの硬い組織が生成します。

つまり、

オーステナイト化
↓
急速冷却
↓
硬い組織の生成
↓
HAZの硬化

という現象が起こることがあります。

特に炭素量や合金元素量が多く、焼入れ性の高い鋼ほど、この傾向は強くなります。

粗粒HAZでは、オーステナイト結晶粒が大きく成長するため、冷却条件によっては硬い組織が形成されやすく、HAZの中でも高い硬さを示すことがあります。

そのため溶接施工では、

  • 炭素当量
  • 予熱温度
  • 溶接入熱
  • 冷却速度

などを適切に管理する必要があります。

硬さの変化

HAZが硬くなると問題がある?

硬さが高いこと自体が、必ずしも悪いわけではありません。

しかし、HAZが過度に硬化すると、

靭性の低下
延性の低下
水素割れ感受性の増加

などにつながることがあります。

特に溶接部では、

硬い組織
+ 溶接残留応力
+ 拡散性水素

という条件が重なると、低温割れ(水素割れ)が発生しやすくなります。

このためHAZの健全性を考える場合には、金属組織だけを見るのではなく、

組織・硬さ・残留応力・水素

を組み合わせて考える必要があります。

HAZの硬化

HAZは「軟化」することもある

一方、HAZは必ず硬くなるわけではありません。

材料によっては、逆に母材より軟らかくなる領域も生じます。

たとえば、焼入れ・焼戻しによって強度を得ている鋼では、母材側のHAZがAc1以下の温度まで加熱されることで、母材に施されていた焼戻しがさらに進むことがあります。

その結果、

溶接熱
↓
焼戻しの進行
↓
硬さ・強度の低下
↓
HAZの軟化

が起こることがあります。

また、低合金耐熱鋼や高Crフェライト系耐熱鋼では、細粒HAZや二相域HAZを含む外側HAZで組織や析出物の状態が変化し、母材より硬さやクリープ強度が低下する場合があります。

したがって、

「HAZ=硬くなる領域」

と単純に考えることはできません。

重要なのは、

どんな材料が、HAZのどの位置で、どのような熱履歴を受けたのか

を見ることです。

同じHAZの中でも、

溶接金属側では硬化しやすく、母材側では軟化することもある

というように、硬さは場所によって変化します。

この考え方で見ると、HAZとは単なる「熱を受けた部分」ではなく、

熱履歴によって組織と材料特性が連続的に変化する領域

であることが分かります。

HAZ軟化

HAZが損傷の起点になる?

発電設備や圧力設備では、HAZが長期使用中の損傷部位となることがあります。

特に高温で長時間使用される配管やヘッダの溶接部では、母材・溶接金属・HAZの組織やクリープ特性の違いが問題になります。

たとえば高Crフェライト系耐熱鋼では、HAZの一部でクリープ強度が低下し、

Type IV損傷

と呼ばれる損傷が発生することがあります。

つまりHAZは、

溶接直後だけを見る領域ではありません。

何万時間という長期使用後の設備健全性にも関係する領域です。

それでは、溶接入熱を小さくしてHAZをできるだけ狭くすればよいのでしょうか。

必ずしもそう単純ではありません。

入熱を小さくすると冷却速度が速くなり、鋼種によってはHAZが硬化しやすくなる場合があります。

反対に入熱が大きすぎると、

結晶粒の粗大化

などが問題になることがあります。

つまり溶接施工では、

単に入熱を小さくすればよいのではなく、材料に適した熱履歴をつくること

が重要です。

HAZが損傷の起点

HAZを理解すると溶接施工管理の重要性が見えてくる

ここまで理解すると、

なぜ溶接施工で、

予熱
パス間温度管理
入熱管理
PWHT(溶接後熱処理)

が行われるのかが見えてきます。

これらは単なる施工ルールではありません。

すべて、

溶接部の熱履歴を制御し、望ましくない組織や性質の変化を抑えるため

に行われています。

溶接施工条件とは、

金属組織をコントロールするための条件

とも言えるのです。

溶接施工条件

HAZ まとめ

HAZ(熱影響部)は、溶接によって溶融した部分ではありません。
しかし、溶接熱の影響を受けることで、

加熱
↓
組織変化
↓
冷却
↓
硬さ・強度・靭性などの変化

が生じます。

つまりHAZとは、

「溶けてはいないが、もはや元の母材そのままでもない領域」

です。

そして重要なのは、HAZが一様な領域ではないことです。
溶接金属からの距離によって最高到達温度が異なるため、HAZの内部では、

粗粒域
細粒域
二相域
焼戻し域

など、それぞれ異なる熱履歴を受けた領域が形成され、組織や性質も変化します。

さらに、その影響は溶接直後の硬さや強度だけにとどまりません。
材料や使用条件によっては、長期使用中の設備損傷や寿命低下にも関係することがあります。

だからこそ、溶接部を材料の視点で考えるときには、溶接金属だけを見るのでは不十分です。
HAZまで含めて一つの「溶接部」として捉えることが重要です。

そして次にポイントになるのが、

どのくらい加熱され、どのくらいの速さで冷えたのか

という問題です。

次回(重工系材料学#14・溶接基礎編⑤)は、

「溶接入熱と冷却速度|組織・硬さを左右する熱履歴」

について考えてみます。

HAZまとめ

くろがねくんの一言

「溶けていなくても、熱を受ければ材料は変わるんだ!」

くろがねくん

<執筆者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業 出身 の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
材料から設備を診る! 技術経営コンサルタント

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