【重工系材料学#23・溶接施工・検査編⑤】溶接部の健全性をどう考えるか|「きずがある=使えない」ではない

溶接部の健全性 Technology

溶接部を非破壊検査すると、さまざまな「きず」が見つかることがあります。

たとえば、

  • ブローホール
  • 融合不良
  • 溶込み不良
  • 割れ
  • スラグ巻込み
  • 表面きず

などです。

では、非破壊検査できずが見つかった場合、

その溶接部はすぐに「使えない」と判断すべきなのでしょうか。

答えは、必ずしもそうではありません。

溶接部の健全性を考えるうえで重要なのは、

「きずがあるか、ないか」だけではなく、そのきずが設備の安全性や機能にどのような影響を与えるのか

を考えることです。

「きず」と「設備として使えるか」は別の問題

溶接部には、製作の過程でさまざまな不連続部が生じる可能性があります。

もちろん、理想的にはきずがないことが望ましいでしょう。

しかし実際の構造物では、

非常に小さなきずまで完全にゼロにする

ことは現実的ではありません。

そこで実際の設備では、

どの程度までなら許容できるのか

という考え方が必要になります。

つまり、

きずを発見すること

と、

その溶接部が使用可能かを判断すること

は、同じではありません。

非破壊検査は、

「そこに何かがある」ことを調べる技術

です。

その結果をもとに、

そのきずが設備の健全性を損なうものなのか

を評価する必要があります。

きずの判断

同じ大きさのきずでも危険度は同じではない

たとえば、同じ5 mm程度のきずがあったとしても、その影響は同じとは限りません。

重要になるのは、

きずの種類

です。

一般に、

丸みを帯びた空洞状のきずと、

鋭い先端を持つ割れ状のきずでは、

応力の集中の仕方が大きく異なります。

特に割れのような鋭いきずでは、先端部に応力が集中しやすくなります。

したがって、

単純に「何mmだから危険」「何mmだから安全」とはいえません。

きずの形状

きずの位置も重要

きずがどこにあるかも重要です。

たとえば、

  • 溶接金属内部
  • 溶接止端部
  • ルート部
  • HAZ
  • 表面
  • 内部

では、作用する応力や材料の状態が異なります。

特に溶接止端部やルート部など、もともと応力が集中しやすい場所では、同じ大きさのきずでも影響が大きくなる可能性があります。

つまり健全性を考えるときには、

きずの種類 × 大きさ × 位置

を組み合わせて考える必要があります。

設備にどのような力がかかるのか

さらに重要なのが、

その溶接部にどのような力が作用するのか

ということです。

たとえば、

  • 内圧
  • 引張力
  • 曲げ
  • 振動
  • 熱応力
  • 起動停止による繰返し応力

などです。

ほとんど荷重が作用しない場所と、大きな応力が繰り返し作用する場所では、同じきずでも意味が変わります。

したがって、

材料だけを見ても、溶接部の健全性は判断できません。

その溶接部が、

設備のどこにあり、どのような荷重を受けるのか

まで考える必要があります。

きずに作用する力

部材の使用環境によっても変わる

設備が使用される環境も重要です。

たとえば火力発電設備では、

  • 高温
  • 高圧
  • 長時間運転
  • 起動停止
  • 腐食環境

などの影響を受けます。

高温設備ではクリープが問題になる場合があります。

繰返し荷重を受ける設備では疲労が問題になる場合があります。

腐食環境では、時間とともにきずが成長する可能性もあります。

したがって、

製作時には問題にならなかった小さなきずが、長期間の運転によって問題になる

こともあります。

使用環境できずの影響が変わる

溶接部には残留応力もある

さらに溶接部では、

溶接残留応力

も無視できません。

溶接では、

局部加熱
↓
熱膨張
↓
周囲からの拘束
↓
塑性変形
↓
冷却・収縮

という過程を経るため、溶接が終わって外部から荷重を加えていない状態でも、部材内部に応力が残ることがあります。

これが、

溶接残留応力

です。

特に溶接部やその近傍では、引張残留応力が生じることがあります。

では、この残留応力は「きず」に対してどのように作用するのでしょうか。

たとえば、溶接部に割れ状のきずが存在するとします。

そのきずに対して引張応力が作用すると、

きずを開こうとする力

が働きます。

割れの先端は非常に鋭いため、そこで応力が集中します。

つまり、

引張残留応力
↓
きずを開く方向に作用
↓
きず先端に応力が集中
↓
きずの進展を考えるうえで重要になる

という関係です。

さらに設備の運転中には、

内圧による応力
熱応力
曲げ応力
繰返し応力

などが加わります。

そのため、きずの先端では、

使用中に生じる応力 + 溶接残留応力

の影響を受けることになります。

重要なのは、

外部荷重が小さいからといって、きずに作用する力も小さいとは限らない

ということです。

溶接部には、製作時からすでに残留応力が存在している場合があるためです。

一方、残留応力には圧縮側となる領域もあり、分布は溶接形状や拘束条件、板厚、溶接条件などによって変わります。

したがって、溶接部の健全性を評価するときには、

きずの種類・大きさ・位置
×
使用中の応力
×
溶接残留応力

を組み合わせて考える必要があります。

きずと残留応力

非破壊検査は「判定」の入口

たとえば、

PT
MT
UT
RT

などの非破壊検査によって、表面あるいは内部のきずを検出します。

しかし、

非破壊検査できずを見つけたこと自体が、設備の健全性評価のゴールではありません。

むしろ、

そこからが判断の始まり

です。

検出されたきずについて、

どのようなきずなのか

どの程度の大きさなのか

どこに存在するのか

を把握し、

さらに、

材料

応力

温度

使用環境

使用期間

などを組み合わせて考えます。

きずの判断

基準による合否判定と、健全性評価

実際の製作や検査では、適用される規格や仕様書などに基づいて、きずの大きさや種類に対する合否判定を行います。

一方で、実際の設備管理では、

規定値を超えたから直ちに破壊する

という意味ではありません。

逆に、

検査に合格したから将来にわたって絶対に安全

という意味でもありません。

規格による合否判定と、

実際の設備が使用条件のもとで健全性を維持できるか

という問題は、関連してはいますが、まったく同じものではありません。

設備を管理する立場では、この違いを理解しておくことが重要です。

「きずがある=使えない」ではない

溶接部の健全性を考えるときには、

きずの有無だけで判断しない

ことが重要です。

基本的な考え方は、

きずの種類
↓
大きさ
↓
位置
↓
材料特性
↓
作用応力
↓
温度・環境
↓
将来の進展可能性

という流れになります。

そして最終的に、

その溶接部が要求される期間、安全に機能を果たせるか

を考えます。

これが、

溶接部の健全性を考える

ということです。

きずがあるから使えない

溶接部の健全性をどう考えるか まとめ

溶接部の健全性は、

「きずがあるか、ないか」だけでは判断できません。

重要なのは、

きずの種類・大きさ・位置
材料特性
作用応力や残留応力
温度・使用環境
将来の進展可能性

を総合的に考えることです。

非破壊検査は、

「きずを見つける技術」

です。

一方、健全性評価は、

「そのきずが設備にとって問題になるのかを判断すること」

です。

つまり、

きずを見つけることがゴールではありません。

最終的には、

その溶接部が、要求される期間、安全に機能を果たせるか

を考えることが重要です。

きずの判断まとめ

結びのことば

材料を学んでいると、

炭素量、組織、硬さ、HAZ、残留応力、欠陥……

と、一つひとつの知識を覚えることに目が向きがちです。

しかし実際の設備では、それらはすべてつながっています。

材料が変わる。

溶接によって組織が変わる。

そこに応力が作用する。

長い時間、設備が運転される。

そして最後に問われるのは、

「この設備を、これからも安全に使えるのか」

ということです。

材料を知る目的は、材料そのものを知ることだけではありません。

材料を通して設備を見ること。

それが、この「重工系材料学」で一番お伝えしたいことです。

溶接基礎編は、ここで一区切りです。

しかし設備の中では、溶接部は完成した瞬間から長い時間を生き始めます。

次に問題になるのは、

運転中に溶接部で何が起きるのか。

割れ、疲労、クリープ、腐食、HAZ損傷――。

ここからは、

「どう造るか」から「どう傷み、どう設備を守るか」へ。

材料から設備を見る旅は、まだ続きます。

くろがねくんの一言

「きずを見つけたら終わりじゃない。設備として安全に使えるかまで考えることが大切だよ!」

くろがねくん

<執筆者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業 出身 の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
材料から設備を診る! 技術経営コンサルタント

やくも技術士事務所|重工系技術士(金属部門)・労働安全コンサルタント・中小企業診断士 難波 一夫|材料から設備を診る 損傷解析から設備マネジメント・労働安全・経営まで総合支援
中小企業診断士・労働安全コンサルタントの資格を持つ重工系技術士(金属部門)が、発電設備の損傷解析、材料劣化評価、保全最適化、安全対策を総合的に支援。実務経験に基づく技術コンサルティングを提供します。
重工系技術士|材料・設備・安全・経営をつなぐ技術コンサルティング|やくも技術士事務所
中小企業診断士・労働安全コンサルタントの資格を持つ重工系技術士(金属部門)が、発電設備の損傷解析、材料劣化評価、保全最適化、安全対策を総合的に支援。実務経験に基づく技術コンサルティングを提供します。
業務経歴
技術士(金属部門)・中小企業診断士として、ボイラ、発電設備、エネルギーシステム、材料技術分野での豊富な実務経験を有する技術コンサルタントの業務経歴をご紹介します。
論文
中小企業診断士・労働安全コンサルタントの資格を持つ重工系技術士(金属部門)が、発電設備の損傷解析、材料劣化評価、保全最適化、安全対策を総合的に支援。実務経験に基づく技術コンサルティングを提供します。
受賞歴
火力・原子力発電設備、ボイラ、金属材料分野での研究開発と技術貢献により受賞した論文賞・技術賞を掲載。技術士としての専門性と実績を受賞歴からご確認いただけます。