世界のPFBC開発状況
PFBC(加圧流動床複合発電)は1970〜1990年代にかけて欧米を中心に開発が進み、各国で試験機・商用機が建設されました。初期は熱供給用や試験用が多かったのですが、1990年代に入り電力用の商用PFBCが登場し、技術は実用段階へ移行しました。

出典:電源開発パンフレット:若松加圧流動床複合発電プラント
日本の実証プラント(若松PFBC)
若松PFBC実証機(71MW)は、日本初の加圧流動層複合発電として1989〜1999年に運転研究が行われ、PFBC技術の基盤を確立しました。

出典:電源開発パンフレット:若松加圧流動床複合発電プラント
世界で初めて高温・高圧対応のセラミックチューブフィルタ(CTF)を本格採用し、ダスト1mg/Nm³以下という極めて高い脱じん性能を実証。また、SOx約5ppm、NOx約100ppmと低公害性を確認し、加圧燃焼による高い燃焼効率(99%以上)を達成しました。
Phase-Iでは基本性能を確立し、Phase-IIでは灰循環型PFBCへ改良し、連続運転1,500時間を達成するなど信頼性を大きく向上させました。これらの成果は、後の苫東厚真・大崎・苅田の商用PFBCに直接反映され、PFBCの商用化を後押ししました。
世界最大の商用機デビュー(九州電力殿 苅田新1号機)
日本のPFBC商用化は、1998年の苫東厚真85MW(三菱重工業製作)を皮切りに、2000年の大崎250MW(バブコック日立製作)へと中容量化し、2001年には苅田360MW(石川島播磨重工業(IHI)製作)で世界最大のPFBCを完成させた。この時系列的な拡大により、加圧流動層複合発電が高効率・低公害・安定運用を備えた商用技術として成立することを、日本が段階的に実証し世界に示した。
苅田PFBCは、若松実証機で確立された技術を基に石川島播磨重工業(IHI)がABBと提携して開発した世界最大の加圧流動層複合発電設備です。流動床ボイラで発生する蒸気と、高温・高圧排ガスを利用するガスタービンを組み合わせ、発電端効率42.8%、送電端41.8%という当時最高水準の高効率を達成しました。
六角形ボイラや高強度圧力容器鋼(SPV490)など新技術を採用し、信頼性とコンパクト化を両立。炉内脱硫と低温燃焼によりSOx・NOxを大幅に低減し、環境性能も高い。運転開始後は3,411時間の連続運転世界記録を達成し、PFBCが商用技術として成立することを示しました。
商用機のその後(苫東厚真PFBC)
苫東厚真PFBC(北海道電力・85MW)は、日本初の商用PFBCとして1998年に運開しました。流動床ボイラによる炉内脱硫、低温燃焼によるNOx低減、サイクロン+セラミックフィルタによる高性能脱じんを備え、PFBCの高効率・低公害性を商用規模で実証した。運転では1,643時間の連続運転を達成しました。
運開後の保守作業中に作業員が流動床ボイラ内部で巻き込まれ死亡する事故が発生した。流動床ボイラは内部に多数の伝熱管・流動媒体・供給ノズルが存在し、点検時の姿勢・足場・視界が悪く、さらに流動床特有の堆積物や不安定な足場が危険要因となりました。
高い熱効率と低環境負荷が期待されましたが、配管の摩耗や損傷などによるトラブルが多発して稼働率が上がらず、また多額の修理コストも問題となり3号機は2005年10月に廃止されたました。
商用機のその後(大崎PFBC)
大崎PFBC(250MW)は、2000年に運開した日本第2の商用PFBCであり、中容量機としてPFBCの実用化を大きく前進させました。炉内脱硫と低温燃焼によりSOx・NOxを大幅に低減し、サイクロンによる脱じんを組み合わせて高い環境性能を実現した。蒸気条件566/593℃、発電端効率41.5%と高効率を達成し、連続運転1,530時間という優れた運用実績を残しました。

(出典)日刊工業新聞 1998年3月2日
高効率と低環境負荷を期待されましたが、配管の摩耗や損傷が相次ぎ、2002年には長期間の運転休止が必要となり、同年の稼働率は22%にとどまった。
その後も断続的なトラブルが続き、2008年度と2009年度は共に40%台前半の稼働率であった(目標値は60-70%)ため稼動11年目を以て休止したしました。
商用機のその後(苅田PFBC)
苅田PFBCは2001年の運開後、世界最大のPFBC商用機として長期間安定運転を継続し、PFBC技術の完成形と評価された。特に2002〜2003年にかけて達成した 3,411時間の連続運転世界記録は、PFBCの信頼性を示す象徴的成果となりました。
その後、世界的な潮流として PFBC技術の大型化限界・保守コストの高さ・USC微粉炭火力の急速な高効率化が進み、PFBCは次世代主力火力としての位置づけを徐々に失いました。日本国内でも、苫東厚真・大崎は早期に廃缶となった中、苅田PFBCはトラブルに抗いながら約21年も運転し続け、商用機としての役割を終えました。
PFBCが果たした役割
PFBCは、苫東厚真・大崎・苅田の3基で商用運転を行い、炉内脱硫によるSOx低減、低温燃焼によるNOx抑制、高効率化など、環境性能と効率向上の両立を商用規模で実証した点は大きな技術的成果です。特に苅田PFBCが達成した3,411時間の連続運転は、PFBCの信頼性を示す到達点となりました。
しかし、高温ガス清浄装置の信頼性不足、複雑な設備構成による高い保守コスト、流動床特有の運転難易度、保守安全性の問題、USC(超々臨界圧ボイラ)の台頭による競争力低下により、PFBCは市場拡大には至りませんでした。結果として、苅田PFBCを最後に商用PFBCは幕を閉じ、技術的成果は次世代流動層技術へ継承された。
追記 個人的な感想
三菱重工業、バブコック日立の PFBC が早期に運転停止した一方で、 IHI 製の PFBC が容量も大きく、製造(特に圧力容器)の難易度が高いにもかかわらず、 21 年も商用機として運転できたことは素晴らしい成果です。 当時の高度な設計・製造力の賜物であり、石川島播磨重工業(IHI)出身として誇らしく思います。 IHI でそのような高い技術力を持つ先輩方に育てていただいたことに深く感謝しています。
<著者情報>
難波一夫(IHI/石川島播磨重工業 出身 技術士)
USC・PFBC ボイラの基本設計・材料評価・損傷解析を担当。 現在は火力発電設備の材料選定・余寿命評価等を得意分野とする技術コンサルタント