発電用ボイラには、高温・高圧の水や蒸気が流れています。
その圧力に耐えるため、ボイラの伝熱管、管寄せ、主蒸気管などには、十分な強度を持つ材料を使用しなければなりません。
では、材料の強度は、どのようにボイラの設計に反映されるのでしょうか。
材料の強度というと、
引張強さ
降伏強さ
などが思い浮かびます。
しかし、高温で長期間使用するボイラでは、それだけでは十分ではありません。
高温で応力を受け続けると、時間の経過とともに変形が進むクリープも考慮する必要があります。
そこで重要になるのが、
許容引張応力
です。
許容引張応力は、材料の強度特性を設計に反映するための基本的な数値であり、ボイラの必要肉厚や材料選定に大きく関係します。
今回は、「発電用火力設備に関する技術基準を定める省令」と「発電用火力設備の技術基準の解釈」を踏まえ、引張強さ・降伏強さ・クリープ強度と許容引張応力の関係を整理します。
さらに、許容引張応力がボイラの肉厚や設計にどのような影響を与えるのかを見ていきます。
許容引張応力とは
許容引張応力とは、簡単に言えば、
材料の強度特性をもとに、設計上許容される引張応力として定められた値
です。
例えば、材料の引張強さが400MPaであったとしても、その400MPaをそのまま設計に使用するわけではありません。
引張強さは、引張試験で材料が示す最大の公称応力であり、その応力で長期間安全に使用できることを意味するものではないからです。
実際の設計では、材料の引張強さや降伏強さ、クリープ強度などに対して、規格に定められた余裕を考慮する必要があります。

発電用火力設備の技術基準ではどう定められているのか
発電用火力設備に関する技術基準を定める省令では、次のような要求が定められています。
第5条:ボイラー等及びその附属設備の材料
最高使用温度において、化学的・物理的影響に対して安全な化学成分と機械的強度を持つ材料であることが求められています。
第6条:ボイラー等及びその附属設備の構造
耐圧部分は、最高使用圧力または最高使用温度において発生する最大の応力に対して安全であり、発生する応力が材料の許容応力を超えないことが求められています。
つまり、発電用ボイラでは、
設備に発生する応力 ≦ 材料の許容応力
となるように設計することが基本になります。
さらに、具体的な材料の許容引張応力は「発電用火力設備の技術基準の解釈」(以下、火技解釈)に規定されています。
一般的なボイラ用材料については、火技解釈の別表に材料ごと、温度ごとの許容引張応力が示されています。
したがって、実際の設計では、使用する材料と設計温度に対応した許容引張応力を確認する必要があります。
ここで重要なのは、
同じ材料でも、使用温度が変われば許容引張応力が変わる
ということです。
引張強さ・降伏強さ・クリープ強度の違い
許容引張応力を理解するためには、まず材料の代表的な強度特性を整理する必要があります。
① 引張強さ|材料がどこまでの引張荷重に耐えられるか
引張強さとは、引張試験において材料が耐えた最大荷重を、試験片の元の断面積で割った値です。
一般に、材料が引張荷重によって破断するまでの強度を代表する指標として使用されます。
ただし、引張強さは通常、比較的短時間の試験で求められます。
そのため、引張強さだけでは、高温で何万時間も使用した場合の材料の健全性を評価できません。
② 降伏強さ|材料が塑性変形を始める強さ
降伏強さとは、材料に応力を加えたとき、塑性変形が始まる応力を表す指標です。
明瞭な降伏点を示さない材料では、一般に0.2%耐力などが用いられます。
例えば、材料に圧力が作用して過大な塑性変形が生じれば、設備の形状や機能を維持できなくなるおそれがあります。
そのため、ボイラの耐圧部材では、引張強さだけでなく降伏強さも重要になります。
③ クリープ強度|高温で長時間耐えられる強さ
高温機器で特に重要になるのがクリープ強度です。
クリープとは、材料が高温で応力を受け続けると、時間の経過とともに変形が進む現象です。
たとえ作用する応力が短時間の引張試験で求めた降伏強さより小さくても、クリープ変形が生じる場合があります。
さらに、クリープ変形が進行すると、最終的にクリープ破断に至ることがあります。
そこで高温設計では、
一定温度・一定応力の下で、どの程度の速度で変形し、何時間で破断するのか
という時間の概念が必要になります。
代表的な評価指標が、
10万時間クリープ破断強度
です。
これは、ある温度において10万時間でクリープ破断すると評価される応力を意味します。
高温用材料の許容引張応力を定める際には、このような長時間のクリープ特性が重要になります。
3つの強度の違い
| 強度特性 | 評価する内容 | 設計で考慮すること |
|---|---|---|
| 引張強さ | 引張試験での最大公称応力 | 引張破断に対する強度 |
| 降伏強さ・0.2%耐力 | 塑性変形の開始に関係する応力 | 過大な塑性変形の防止 |
| クリープ強度 | 高温での時間依存の変形・破断特性 | 長時間使用時の変形・破断の防止 |
つまり、
引張強さ・降伏強さは比較的短時間の強度、クリープ強度は高温での長時間使用を考えるための強度
と整理すると理解しやすくなります。

許容引張応力はどのように決められるのか
発電用ボイラの許容引張応力は、材料の引張強さを単純に一定の数字で割れば決まるものではありません。
材料の強度特性と使用温度に応じて、複数の基準を考慮します。
火技解釈第4条では、別表に規定されている材料の許容引張応力は別表の値を使用することとされています。
一方、別表に規定されていない材料については、強度特性から許容引張応力を求める基準が定められています。
以下では、2016年改正の火技解釈第4条に示された鉄鋼材料の一般的な算定基準を紹介します。
① クリープ温度領域未満
クリープによる長時間の変形・破断が設計上支配的にならない温度領域では、主に引張強さと降伏強さが基準となります。
| 評価する強度 | 許容引張応力の算定基準 |
|---|---|
| 室温の引張強さ | 規定最小引張強さの1/3.5 |
| 使用温度の引張強さ | 引張強さの1/3.5 |
| 室温の降伏強さ・耐力 | 規定最小降伏点・耐力の2/3 |
| 使用温度の降伏強さ・耐力 | 降伏点・耐力の2/3 |
原則として、これらのうち最も小さい値を採用します。
例えば、ある材料の室温における規定最小引張強さが400MPaであれば、引張強さに基づく基準値の一つは、
400 ÷ 3.5 ≒ 114MPa
となります。
ただし、これだけで許容引張応力が114MPaに決まるわけではありません。
使用温度での引張強さや降伏強さなども考慮し、各基準値を比較する必要があります。
なお、オーステナイト系ステンレス鋼の一部の伝熱管等には、使用温度における降伏点・耐力の0.9倍を用いる特例があります。
また、火技解釈では、2016年の改正により、クリープ領域未満の引張強さに対する設計係数が、原則として4から3.5へ変更されました。
これは、設計基準が技術的な知見や国際規格との整合などによって改訂される例でもあります。
② クリープ温度領域
さらに温度が高くなると、クリープ強度が重要になります。
2016年改正の火技解釈第4条に示されたクリープ領域の算定基準は、次のとおりです。
| 評価する強度 | 許容引張応力の算定基準 |
|---|---|
| クリープ変形 | 1,000時間に0.01%のクリープを生じる応力の平均値 |
| クリープ破断 | 10万時間クリープ破断強度の最小値の80% |
| クリープ破断 | 10万時間クリープ破断強度の平均値の67% |
これらのうち、最も小さい値を採用します。
つまり、高温では、単に材料が短時間で破断しないことだけではなく、
長時間使用しても過大なクリープ変形を生じず、クリープ破断に対しても十分な余裕があること
を考慮して許容引張応力が決められるのです。
ここで重要なのは、
温度によって、許容引張応力を決める支配的な材料強度が変わる
ということです。
なお、クリープ領域となる温度は材料によって異なります。また、上記は一般的な算定基準であり、材料区分や規格の適用条件による例外があります。
発電用ボイラに一般的に使用される規定材料については、個別に計算した値ではなく、適用する火技解釈の温度別許容引張応力表を確認することが基本となります。

温度が高くなると許容引張応力はどう変わるのか
ここで、代表的なボイラ材料の許容引張応力を比較してみましょう。
例えば、
- STBA24:2.25Cr-1Mo鋼
- 火STBA28:改良9Cr-1Mo鋼
- 火SUS410J3TB:高Crフェライト系耐熱鋼
- SUS304HTB:オーステナイト系ステンレス鋼
などです。
これらの材料では、温度が上昇すると許容引張応力が低下します。
しかし、その低下の仕方は材料によって大きく異なります。
STBA24では、500℃を超えるような高温域で許容引張応力が大きく低下していきます。
一方、改良9Cr-1Mo鋼などの高Crフェライト系耐熱鋼は、同じ温度で比較すると、STBA24より高い許容引張応力を確保できる場合があります。
これは、合金元素の添加や金属組織の制御によって、高温強度、とりわけクリープ強度が改善されているためです。
ここで、材料の進歩とボイラ設計の関係が見えてきます。
高温でも高い許容引張応力を確保できる材料が開発されれば、従来よりも厳しい蒸気条件で設備を設計できる可能性が広がる
ということです。
ただし、許容引張応力の数値が表に掲載されている最高温度は、その材料の適用可能な最高使用温度を無条件に示しているものではありません。
材料の適用には、強度以外の使用制限や環境条件なども考慮する必要があります。

許容引張応力がボイラチューブの肉厚を決める
では、許容引張応力は実際のボイラ設計にどのように反映されるのでしょうか。
代表的なのが、耐圧部材の肉厚計算です。
ボイラの伝熱管や主蒸気管には、内部から高い圧力が作用します。
管内の圧力によって、管を周方向に引き伸ばそうとする応力が生じます。
これを円周方向応力、あるいはフープ応力と呼びます。
薄肉円筒の近似では、次のように表されます。
円周方向応力 ≒ 内圧 × 管内径 ÷(2 × 肉厚)
この式から、内圧と管径が同じであれば、
肉厚が厚いほど円周方向応力は小さくなる
ことがわかります。
反対に、材料の許容引張応力が高ければ、同じ圧力条件で必要な肉厚を小さくできる可能性があります。
例えば、薄肉円筒の近似式による概念的な比較として、
内圧:10MPa
管内径:300mm
という条件を考えます。
| 許容引張応力 | 近似式で求めた肉厚 |
|---|---|
| 100MPa | 15mm |
| 150MPa | 10mm |
許容引張応力が高い材料を使用すると、必要な肉厚を小さくできることがわかります。
ただし、これは単純な円筒の応力関係を示す計算例です。
実際の発電用ボイラでは、適用する設計規則に従い、内圧、管径、材料の許容引張応力、継手の条件、腐食・摩耗代、製造公差などを考慮して必要肉厚を決定します。

高強度材料は配管を薄肉にできる
高温配管では、必要肉厚の低減が重要な意味を持ちます。
例えば、P91(改良9Cr-1Mo鋼)とP92(9Cr-W系鋼)では、高温での許容引張応力が異なります。
高い許容引張応力を持つ材料を使用すれば、同じ温度・圧力条件で必要な肉厚を小さくできる場合があります。
肉厚が小さくなれば、材料使用量の削減や配管重量の軽減につながります。
さらに、管寄せや主蒸気管のような厚肉部材では、起動停止時に内外面の温度差が生じ、熱応力が発生します。
肉厚を小さくすることができれば、この温度差に起因する熱応力の低減にも有利になる場合があります。
つまり、高温強度の向上は、
必要肉厚の低減
設備重量の軽減
起動停止時の熱応力の低減
などにもつながるのです。
ここから、
材料強度は単に材料が壊れないための数値ではなく、設備の構造や運用特性まで左右する
ことがわかります。
許容引張応力だけで材料を選んではいけない
ここまで見ると、許容引張応力が高い材料を使用すれば、ボイラの設計はすべて有利になるように思えるかもしれません。
しかし、実際はそれほど単純ではありません。
例えば、高Crフェライト系耐熱鋼には優れたクリープ強度がありますが、長時間使用すると金属組織が変化し、クリープ強度が低下する場合があります。
また、溶接熱影響部では、母材とは異なる金属組織が形成されます。
特に高Crフェライト系耐熱鋼では、溶接熱影響部に発生するType IVクリープ損傷が重要な問題となります。
そのため、母材の許容引張応力が高くても、溶接部を含めた設備全体の健全性を確認しなければなりません。
また、過熱器管や再熱器管では、許容引張応力だけでなく、耐水蒸気酸化性や耐高温腐食性も重要です。
さらに、管壁温度は内部を流れる蒸気温度より高くなる場合があります。
例えば、蒸気温度が600℃であっても、管壁のメタル温度が600℃とは限りません。
材料の許容引張応力を確認する際には、蒸気温度だけではなく、設計上考慮すべき材料温度を適切に設定する必要があります。
つまり、
材料選定は許容引張応力だけで完結するものではない
ということです。

許容引張応力は見直されることがある
高温材料の許容引張応力を考えるうえで、もう一つ重要なことがあります。
それは、材料の長時間クリープ強度に関する評価が、新しい試験データの蓄積によって見直される場合があるということです。
実際に、発電用火力設備では、高Crフェライト系耐熱鋼の許容引張応力が引き下げられた事例があります。
高Crフェライト系耐熱鋼は、高温強度に優れた材料ですが、長時間使用に伴って析出物の粗大化や金属組織の回復などが進行し、クリープ強度が低下します。
また、短時間の試験データから予測した長時間クリープ破断強度が、その後に蓄積された長時間試験データによって見直される場合があります。
その結果、当初想定していた長時間強度を確保できないことが明らかになり、許容引張応力や寿命評価式が改訂されることがあります。
このような改訂は、既設設備の健全性評価にも影響します。
設計時には十分な肉厚を持っていた配管でも、許容引張応力が見直されれば、改訂後の基準による必要肉厚や余寿命の再評価が必要となる場合があります。
したがって、ボイラの設計や寿命評価では、最新の材料データや適用規格の確認が重要です。
また、10万時間クリープ破断強度を基に許容引張応力が定められているからといって、10万時間を超えたら直ちに使用できなくなるわけでも、10万時間までは必ず安全というわけでもありません。
実際の寿命は、使用温度、応力、運転時間、起動停止履歴、材料の状態などによって異なります。
ここには、材料の設計と寿命評価との重要なつながりがあります。

許容引張応力 まとめ
発電用ボイラでは、高温・高圧の蒸気に耐えるため、材料の強度特性を考慮して設計する必要があります。
その中心となる指標の一つが、
許容引張応力
です。
許容引張応力は、引張強さや降伏強さ、クリープ強度などをもとに、設計上使用できる応力として規定された値です。
比較的低い温度では引張強さや降伏強さが重要となり、高温では長時間クリープ強度が重要になります。
また、許容引張応力が高い材料を使用すれば、同じ温度・圧力条件において、必要肉厚を小さくできる場合があります。
その結果、設備の軽量化や熱応力の低減などにもつながります。
このように、材料の高温強度の向上は、発電設備の設計に大きな影響を及ぼしてきました。
しかし、ボイラ材料に求められるのは、強度だけではありません。
長時間使用に伴う組織変化、溶接部の健全性、耐水蒸気酸化性、耐高温腐食性なども考慮する必要があります。
つまり、
許容引張応力はボイラの耐圧設計を左右する基本的な数値であり、その背景にある材料の強度特性を理解することが重要
なのです。
材料の進歩によって高温での許容引張応力が向上し、従来よりも高い蒸気条件や合理的な設備設計が可能になってきました。
そして、長時間使用した設備の健全性を評価するためには、設計時に使用した許容引張応力だけでなく、材料の経年変化や実際の使用履歴まで考える必要があります。
材料の強度を理解することは、ボイラの設計を理解することであり、さらに設備の寿命を考えることにもつながるのです。

参考資料
- 経済産業省「発電用火力設備に関する技術基準を定める省令」第5条・第6条
- 経済産業省「発電用火力設備の技術基準の解釈」第4条、材料の許容引張応力に関する別表
- 経済産業省「発電用火力設備の技術基準の解釈」(平成28年2月25日改正資料)
- 経済産業省・電力安全小委員会資料「高クロム鋼の許容引張応力と寿命評価式の見直し」
※本記事の許容引張応力の算定係数は、2016年改正の火技解釈で確認できる規定を基に説明しています。実務への適用に当たっては、2026年改正を含む最新版、該当材料の別表・備考および適用設計規則を確認してください。
くろがねくんの一言
「材料が強いと管の肉厚を薄くできるんだ!でも、高温では引張強さだけでなく、長時間使用に耐えるクリープ強度が重要なんだよ!」

<執筆者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業 出身 の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
材料から設備を診る! 技術経営コンサルタント





