前回は、発電用ボイラにはさまざまな材料が使用されており、温度・圧力・腐食環境などに応じて材料を使い分けていることを説明しました。

では、そもそもボイラ用材料は、どのように発展してきたのでしょうか。
現在の発電用ボイラでは、
炭素鋼
Cr-Mo低合金鋼
高Crフェライト系耐熱鋼
オーステナイト系ステンレス鋼
Ni基合金
など、さまざまな材料が使用あるいは適用検討されています。
しかし、最初からこのような高性能材料が存在したわけではありません。
発電効率を向上させるために蒸気条件が高温・高圧化し、それに対応するために、新しい耐熱材料が開発されてきました。
つまり、
ボイラ用材料の変遷は、発電設備の高効率化を支えてきた材料技術の歴史
でもあるのです。
今回は、炭素鋼からCr-Mo低合金鋼、高Crフェライト系耐熱鋼さらにオーステナイト系ステンレス鋼やNi基合金へと、ボイラ用材料がどのように発展してきたのかを、材料の視点から見ていきます。
なぜボイラ材料は進歩してきたのか
発電用ボイラでは、燃料を燃焼させて水を加熱し、高温・高圧の蒸気をつくります。
この蒸気をタービンに送り、発電機を回して電気をつくります。
汽力発電では、一般に蒸気温度や圧力を高めることによって、熱効率の向上が期待できます。
そのため、発電用ボイラの蒸気条件は長い年月をかけて高温・高圧化してきました。
国内の発電用火力プラントでは、蒸気温度は1950年頃の約450℃から、538℃、566℃、593℃へと上昇し、その後600℃級、610℃級の蒸気条件が実現されました。
しかし、蒸気条件を高めようとすると、材料には大きな問題が生じます。
それが、
高温になるほど、材料が長時間にわたって応力に耐えることが難しくなる
ということです。
金属材料は、常温で十分な強度を持っていても、高温では強度が低下します。
さらに、一定の応力を受けながら高温で長時間使用されると、時間の経過とともに変形が進むクリープという現象が生じます。
つまり、蒸気温度を高めるためには、単純な引張強さだけでなく、長時間の使用に耐えるクリープ強度の向上が不可欠になります。
そこで、鋼の化学成分や金属組織を工夫し、より高温で長時間使用できる材料が開発されてきました。
蒸気温度の高温化には、ボイラ設計技術だけでなく、材料技術の進歩が必要だったのです。

炭素鋼|ボイラ用材料の出発点
ボイラ用材料の基本となるのが炭素鋼です。
炭素鋼は、鉄に炭素を添加した最も基本的な鋼材料です。
代表的なボイラ用鋼管には、
STB340、STB410、STB510
などがあります。
炭素鋼は、比較的安価であり、加工性や溶接性にも優れ、必要な強度を確保しやすい材料です。
そのため、現在でも節炭器管や比較的温度の低い蒸発管などに使用されています。
しかし、炭素鋼には高温使用上の限界があります。
温度が高くなると強度が低下し、長時間使用ではクリープ変形が問題となります。
また、高温で長時間使用する場合には、組織変化や黒鉛化などにも注意が必要です。
つまり、
炭素鋼は比較的低温のボイラ部材には適しているものの、蒸気条件の高温化に対応するには限界がある
ということです。
そこで、炭素鋼に合金元素を添加し、高温強度を改善する材料が開発されました。

Cr-Mo低合金鋼|高温強度を改善する
炭素鋼の高温強度を改善するために使用されてきたのが、Cr-Mo低合金鋼です。
Crはクロム、Moはモリブデンを意味します。
代表的なボイラ用鋼管には、
STBA22:1Cr-0.5Mo鋼
STBA23:1.25Cr-0.5Mo鋼
STBA24:2.25Cr-1Mo鋼
などがあります。
これらの材料では、CrやMoを添加することで、高温での強度や耐酸化性などを改善しています。
特にMoは高温強度の向上に重要な役割を果たします。
また、Crは高温酸化に対する抵抗力の改善にも寄与します。
このため、Cr-Mo低合金鋼は、過熱器管や再熱器管、管寄せ、主蒸気管などに広く使用されてきました。
ただし、Cr-Mo低合金鋼でも、さらに高温になるとクリープ強度が不足するようになります。
たとえばSTBA24は、従来から高温ボイラに使用されてきた代表的な材料ですが、600℃級の厳しい条件では、必要な許容引張応力を十分に確保することが難しくなる場合があります。
そこで重要になるのが、
Cr含有量をさらに高め、金属組織を制御することで高温強度を改善した高Crフェライト系耐熱鋼です。

高Crフェライト系耐熱鋼|600℃級ボイラを支える
蒸気条件の高温化を支えてきた代表的な材料が、高Crフェライト系耐熱鋼です。
代表的な材料には、
火STBA28:改良9Cr-1Mo鋼
火STBA29:9Cr-W系鋼
火SUS410J3TB:11Cr-W系鋼
などがあります。
これらは、9~12%程度のCrを含む高強度フェライト系耐熱鋼です。
高Crフェライト系耐熱鋼では、単純にCrの量を増やすだけではなく、Mo、W、V、Nbなどの合金元素を添加し、熱処理によって金属組織を制御しています。
その中心となるのが、
焼戻しマルテンサイト組織
です。
焼戻しマルテンサイト組織では、転位組織やラス・ブロックなどの境界、炭化物や炭窒化物などの析出物が、高温での変形に対する抵抗として働きます。
そのため、従来のCr-Mo低合金鋼と比較して、高いクリープ強度を確保することができます。
特に改良9Cr-1Mo鋼は、600℃級ボイラの実用化を支えた重要な材料の一つです。
また、高Crフェライト系耐熱鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼と比較して線膨張係数が小さいため、厚肉の管寄せや主蒸気管などにおける熱応力の低減にも有利です。
ただし、高Crフェライト系耐熱鋼にも課題があります。
長時間使用すると、析出物の粗大化や金属組織の回復などによって、クリープ強度が低下する場合があります。
また、溶接熱影響部(HAZ)におけるクリープ損傷、いわゆるType IV損傷も重要な問題です。
つまり、
高Crフェライト系耐熱鋼は600℃級の高温条件を支える材料である一方、長時間使用時の組織安定性や溶接部の健全性まで考える必要がある
ということです。
この点は、これまでの重工系材料学で解説してきた金属組織や溶接部損傷の知識ともつながります。

オーステナイト系ステンレス鋼|高温強度と耐酸化性を確保する
600℃級ボイラでは、高Crフェライト系耐熱鋼だけでなく、オーステナイト系ステンレス鋼も重要な役割を果たしています。
代表的な材料には、
SUS321HTB:Ti添加18Cr系ステンレス鋼
SUS347HTB:Nb添加18Cr系ステンレス鋼
火SUS304J1HTB:Cu、Nb、Nなどを添加した高強度18Cr系ステンレス鋼
火SUS310J1TB:高Cr・高Ni系ステンレス鋼
などがあります。
これらの材料は、高温の過熱器管や再熱器管などに使用されます。
オーステナイト系ステンレス鋼は、フェライト系耐熱鋼とは金属組織が異なります。
フェライト系耐熱鋼が主として体心立方構造に由来する組織を持つのに対し、オーステナイト系ステンレス鋼は面心立方構造を持つオーステナイト組織を基本としています。
また、Cr含有量が多いため、高温での酸化や腐食に対する抵抗力にも優れています。
特に高温の過熱器管や再熱器管では、内面が高温の水蒸気にさらされます。
このとき、材料表面には水蒸気酸化スケールが生成します。
スケールが厚くなれば伝熱を阻害し、剥離すれば管内で堆積して過熱の原因となったり、蒸気タービン側へ飛散してエロージョン損傷を引き起こしたりする可能性があります。
そのため、高温伝熱管では、
クリープ強度だけでなく、耐水蒸気酸化性や耐高温腐食性も重要になる
のです。
一方、オーステナイト系ステンレス鋼には、フェライト系鋼と比較して線膨張係数が大きく、熱伝導率が小さいという特徴があります。
そのため、起動停止に伴う熱応力や熱疲労を考える場合には注意が必要です。
特に大径厚肉の管寄せや主蒸気管では、材料の高温強度だけでなく、熱応力や施工性も重要になります。
このため、600℃級ボイラでは、高温の伝熱管にはオーステナイト系ステンレス鋼、厚肉の管寄せや主蒸気管には高Crフェライト系耐熱鋼という使い分けが行われる場合があります。

Ni基合金|700℃超級A-USCへの挑戦
さらに高い発電効率を目指す技術として検討されてきたのが、
A-USC(Advanced Ultra Super Critical:先進超々臨界圧)
です。
A-USCでは、700℃超級の蒸気条件を目指します。
しかし、蒸気温度が700℃を超えるようになると、従来の高Crフェライト系耐熱鋼では、長時間のクリープ強度を確保することが難しくなります。
また、蒸気温度が700℃の場合、伝熱管のメタル温度はそれより高くなることがあります。
そのため、A-USCでは従来の高Crフェライト系耐熱鋼よりも高温で使用できる材料が必要になります。
候補となるのが、
高強度オーステナイト系ステンレス鋼
Fe-Ni基合金
Ni基合金
などです。
Ni基合金は、高温強度や耐酸化性に優れた材料です。
また、合金元素の添加や析出強化などによって、高温で長時間使用した場合のクリープ強度を確保することができます。
しかし、Ni基合金にも課題があります。
まず、Niを多く含むため材料費が高くなります。
さらに、大型部材の製造、溶接施工、異種材料との接合、長時間使用時の健全性評価なども重要になります。
特に大径厚肉の管寄せや主蒸気管では、材料そのものの強度だけでなく、製造性や溶接性、熱応力、経済性なども考慮する必要があります。
つまり、
700℃超級A-USCの実現には、新しい耐熱材料の開発だけでなく、その材料を設備として安全に使用するための技術も必要
なのです。

ボイラ材料の変遷を整理する
ここまで説明したボイラ用材料の発展を整理すると、次のようになります。
| 材料区分 | 代表材料 | 材料技術の特徴 | 主な適用部位 |
|---|---|---|---|
| 炭素鋼 | STB340、STB410、STB510 | 基本的な耐圧強度、加工性、溶接性 | 節炭器管、火炉壁管など |
| Cr-Mo低合金鋼 | STBA22、STBA23、STBA24 | Cr・Mo添加による高温強度の改善 | 過熱器管、再熱器管、管寄せ、配管など |
| 高Crフェライト系耐熱鋼 | 火STBA28、火STBA29、火SUS410J3TB | 焼戻しマルテンサイト組織と析出強化によるクリープ強度向上 | 高温過熱器管、再熱器管、管寄せ、主蒸気管など |
| オーステナイト系ステンレス鋼 | SUS321HTB、SUS347HTB、火SUS304J1HTB | 高温強度、耐水蒸気酸化性、耐高温腐食性の改善 | 高温過熱器管、再熱器管など |
| Ni基合金 | Alloy 617、Alloy 740Hなど | 超高温でのクリープ強度・耐酸化性の確保 | A-USCの高温伝熱管、管寄せ、配管などの候補 |
ここで注意したいのは、この表が単純な材料の置き換わりを示しているわけではないということです。
たとえば、オーステナイト系ステンレス鋼は高Crフェライト系耐熱鋼よりも後に登場した材料というわけではありません。
両者はそれぞれ異なる特徴を持ち、使用条件に応じて使い分けられています。
また、炭素鋼やCr-Mo低合金鋼も、現在の高効率ボイラから姿を消したわけではありません。
比較的温度の低い部位では、現在でも重要な材料です。
つまり、ボイラ材料の進歩とは、
従来材料がすべて新しい材料に置き換わることではなく、より厳しい条件で使用できる材料の選択肢が増えてきた
ことでもあるのです。

材料の進歩が発電設備の高効率化を支えてきた
ボイラ用材料の発展を見るうえで重要なのは金属材料の高温強度が、発電設備の蒸気条件に大きく関係しているということです。
例えば、従来のCr-Mo低合金鋼と改良9Cr-1Mo鋼を比較すると、高温での許容引張応力に大きな違いがあります。
高温強度の高い材料を使用すれば、同じ温度・圧力条件で必要な肉厚を小さくできる場合があります。
また、より高い温度でも必要な強度を確保できるようになり、蒸気条件の高温化につながります。
ただし、材料の許容引張応力は温度によって変化し、鋼種によってもその変化の仕方が異なります。
さらに、実際の材料選定では、クリープ強度だけでなく、耐水蒸気酸化性、耐高温腐食性、熱疲労強度、溶接性なども考慮しなければなりません。
そのため、単純に許容引張応力の高い材料を選べばよいというわけではありません。
それでも、
より高温に耐えられる材料の開発が、蒸気条件の高温化を可能にし、発電効率の向上を支えてきた
ということは、ボイラ技術の発展を理解するうえで重要なポイントです。

ボイラ材料の変遷 まとめ
発電用ボイラの材料は、蒸気条件の高温・高圧化に対応するために発展してきました。
炭素鋼からCr-Mo低合金鋼へ
さらに、高Crフェライト系耐熱鋼や高強度オーステナイト系ステンレス鋼へ
そして700℃超級A-USCを目指す技術では、Fe-Ni基合金やNi基合金の適用が検討されています。
このような材料技術の進歩によって、従来は難しかった高温・高圧の蒸気条件が実現されてきました。
しかし、重要なのは単に高温強度を高めることではありません。
材料には、
高温強度
耐水蒸気酸化性
耐高温腐食性
組織安定性
溶接性・施工性
など、さまざまな特性が必要になります。
また、これらの特性は材料によって異なり、どの材料にも長所と短所があります。
つまり、
材料の進歩が蒸気条件の高温化を可能にし、材料の適材適所がボイラの信頼性を支えている
ということです。
ボイラ材料を理解するには、材料の名前を覚えるだけでは十分ではありません。
「なぜ、その材料が開発されたのか」
「従来材料の何が限界だったのか」
「どのような組織によって高温強度を確保しているのか」
を考えることが重要です。
そして、材料の進歩を理解することは、ボイラ設備の進歩を理解することにもつながります。

次回へのつなぎ
ここまでは、ボイラ用材料がどのように発展してきたのかを見てきました。
次回からは、代表的な材料について、化学成分、金属組織、高温強度、使用上の特徴などを詳しく見ていきます。
まずは、ボイラ材料の基本となる炭素鋼から考えていきましょう。
くろがねくんの一言
「ボイラの高温・高圧化を支えてきたのは、材料技術の進歩なんだ!材料が進歩した理由を知ると、設備の進化も見えてくるよ!」

<執筆者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業 出身 の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
材料から設備を診る! 技術経営コンサルタント





