【重工系労働安全アーカイブ#17】非定常作業とは|なぜ「いつもと違う作業」で災害が起きやすいのか

非定常作業アイキャッチ Industrial safety

工場やプラントの安全を考えるとき、どうしても目が向きやすいのが、

普段行っている作業

です。

たとえば、

  • 機械を運転する
  • 原料を投入する
  • 製品を取り出す
  • 設備を監視する

といった毎日の作業です。

こうした繰り返し行われる作業は、一般に定常作業と呼ばれます。

ところが、実際の設備では毎日まったく同じ状態が続くわけではありません。

設備を点検することもあれば、部品を交換することもあります。

設備が停止すれば原因を調べます。

詰まりが発生すれば取り除かなければなりません。

定期修理が終われば、設備を再び立ち上げます。

このような、

「いつもの状態」から外れたときに行われる作業

が、

非定常作業

です。

安全を考えるうえでは、この非定常作業を見落とさないことが非常に重要です。

定常作業と非定常作業

まず、二つを分けて考えてみましょう。

定常作業とは、

通常の設備状態で、繰り返し行われる作業

です。

たとえば、

機械を運転する
↓
材料を加工する
↓
製品を取り出す
↓
次の材料を投入する

といった作業です。

作業頻度が高いため、

  • 作業手順が決まっている
  • 作業者が慣れている
  • 設備の安全装置が通常どおり機能している
  • 作業場所が一定している

といった特徴があります。

もちろん、定常作業にも危険はあります。

しかし、危険源や作業方法が比較的把握しやすいため、安全対策も標準化しやすいといえます。

非定常作業とは

一方、非定常作業とは、

通常とは異なる設備状態や作業条件のもとで行われる作業

です。

厚生労働省のリスクアセスメントに関する指針の解説でも、非定常作業には機械設備の保守点検、補修作業、予見される緊急事態への対応などが含まれ、さらに工程の切替、いわゆる段取り替えについても考慮することが示されています。

つまり、

「事故や故障が起きたときだけ」が非定常作業ではありません。

あらかじめ予定されている点検や保全であっても、通常の運転状態から外れていれば非定常作業として考える必要があります。

定常作業と非定常作業

非定常作業にはどのようなものがある?

代表的なものを整理すると、次のようになります。

【保全・点検】

設備を停止して、

  • カバーを開ける
  • 内部を点検する
  • 部品を交換する
  • 清掃する
  • 給油する
  • 締付けを確認する

といった作業です。

通常運転中には人が近づかない場所に、作業者が入っていくことがあります。

【補修・修理】

故障した設備を復旧するために、

  • 配管を外す
  • 部品を交換する
  • 溶接補修する
  • モーターやポンプを分解する
  • 制御機器を交換する

といった作業を行います。

設備の本来の姿から大きく離れた状態で作業することになります。

【異常処置】

設備では、

  • 材料が詰まる
  • 製品が引っ掛かる
  • センサーが異常を示す
  • 設備が途中で停止する

といったことがあります。

そのとき作業者は、

「ちょっと様子を見よう」

と機械へ近づきます。

ここが危険です。

詰まりを除去するために手を入れたり、安全装置を解除したり、設備の内部をのぞき込んだりする可能性が出てきます。

【設備の停止】

設備を止める作業も、単にスイッチをOFFにするだけではありません。

プラントでは、

通常運転
↓
負荷低下
↓
補機停止
↓
系統切離し
↓
圧力・温度低下

など、設備状態が刻々と変化します。

通常運転とは異なる状態が次々に現れるため、操作ミスや設備状態の見落としが起こる可能性があります。

【設備の立上げ】

停止していた設備を再び動かす立上げ作業も、典型的な非定常作業です。

停止
↓
点検
↓
復旧
↓
機器起動
↓
系統投入
↓
通常運転

というように設備状態が変化していきます。

特に注意したいのが、

「人がもういないと思った」
「バルブは復旧していると思った」
「安全装置は元に戻っていると思った」

という思い込みです。

【試運転】

修理や改造のあとには試運転を行う場合があります。

試運転では、

設備を動かさなければ確認できない

ことがあります。

一方で、

まだ設備が完全な通常状態ではない

という特徴があります。

そのため、人と設備の危険源との距離が近くなりやすい作業でもあります。

【段取り替え・工程切替】

製品や作業条件を変更するときには、

  • 治具を交換する
  • 金型を交換する
  • 設定値を変更する
  • 材料を入れ替える
  • 配管系統を切り替える

といった作業が発生します。

これらも通常運転とは異なる設備状態になります。

【休止後の再稼働】

長期間停止していた設備を再稼働するときも注意が必要です。

休止中には、

  • 腐食
  • 固着
  • 劣化
  • 異物混入
  • 設定変更
  • 仮設物の残置

などが発生している可能性があります。

つまり、

「以前動いていたから今回もそのまま動く」

とは限りません。

非定常作業の具体例

なぜ非定常作業では災害が起きやすい?

では、なぜ非定常作業では特に注意が必要なのでしょうか。

大きな理由は、

通常運転では離れている「人」と「危険源」が近づくから

です。

たとえば通常運転では、

回転体
↓
カバー
↓
作業者

という関係になっています。

ところが点検になると、

設備停止
↓
カバーを開ける
↓
作業者が内部を見る
↓
回転体の近くへ手を入れる

という状態になります。

つまり、

安全を守っていた設備側の防護が一時的に失われる

ことがあります。

点検時にリスクが高まる

機械を止めても危険源はなくならない

機械を止めても、

危険源がすべて消えるわけではありません。

たとえば、

  • 回転体の惰性
  • 油圧
  • 空気圧
  • 蒸気圧
  • バネの力
  • 高温部
  • 電気
  • 重力
  • 蓄積された位置エネルギー

などが残っている場合があります。

停止している設備を見ると、人はつい、

「止まっているから安全」

と思ってしまいます。

しかし、

停止していることと、エネルギーが遮断されていることは同じではありません。

ここは非定常作業の安全を考えるうえで重要なポイントです。

機械を止めても危険源はなくならない

非定常作業の作業経験は少ない

非定常作業は、その名前のとおり頻繁には行われません。

そのため、

作業者が経験する回数そのものが少ない

という問題があります。

毎日行っている作業なら、

「ここは危ない」
「この音がしたら異常だ」
「ここに手を出してはいけない」

という感覚が身につきます。

しかし、数か月に一度、数年に一度の作業ではそうはいきません。

過去に経験した人が異動していたり、初めて作業する人だけになっていたりすることもあります。

非定常作業の作業経験は少ない

標準作業とは作業手順が異なる

非定常作業では、

設備の状態そのものが通常と同じとは限りません。

故障箇所も違えば、周囲の状況も違います。

そのため、

標準作業だけでは対応しきれない場面

が発生します。

すると現場では、

「今回はこうしよう」

という判断が必要になります。

このその場での判断が増えることも、リスクを高める要因です。

作業手順が異なる

「早く復旧させたい」という心理

異常停止した設備では、

早く復旧させたい

という心理が働きます。

生産設備なら、

「ラインを止めたくない」

プラントなら、

「設備を早く運転状態へ戻したい」

という状況になります。

すると、

確認
↓
停止
↓
隔離
↓
作業

という本来必要な手順より、

まず原因を見に行く

という行動が先になってしまうことがあります。

早く直したい心理

複数の作業が同時に行われる

大規模な保全や定期修理では、

  • 機械作業
  • 電気作業
  • 足場作業
  • 溶接作業
  • 配管作業
  • クレーン作業

などが同時に進む場合があります。

リスクアセスメントの指針でも、複数の事業者が同じ場所で作業するときの混在作業について情報を把握することが求められています。

自分たちの作業だけを見ていても、

別の作業によって設備状態が変わる

可能性があるのです。

複数の作業が同時進行

定常作業だけを見ていては見落とすリスク

設備のリスクアセスメントをするとき、

「通常運転ではどう作業しているか」

だけを見ると、危険を見落とします。

必要なのは、

うまく動いているときだけでなく、うまくいかないときに人が何をするのか

まで考えることです。

たとえば、

正常運転では危険部に手を入れない。

しかし、

詰まったら?

センサーが反応しなかったら?

製品が途中で止まったら?

設備から異音がしたら?

点検するとしたら?

部品を交換するとしたら?

ここまで考えて初めて、設備と作業の本当のリスクが見えてきます。

見落とすリスク

非定常作業 まとめ

非定常作業とは、

単に

「突然発生する作業」

ではありません。

設備の通常状態から外れて行われる、

保全
↓
点検
↓
清掃
↓
調整
↓
段取り替え
↓
補修・修理
↓
異常処置
↓
設備停止
↓
設備立上げ
↓
試運転
↓
休止後の再稼働

などを含めて考える必要があります。

そして非定常作業では、

通常は人から隔離されている危険源へ近づく
↓
カバーや安全装置を外す場合がある
↓
設備状態が通常と異なる
↓
作業経験が少ない
↓
その場での判断が増える
↓
復旧を急ぐ心理が働く

といった条件が重なります。

だからこそ、

「いつもの作業が安全だから、この設備は安全」

とはいえません。

設備の安全を考えるときに大切なのは、

「通常はどうするか」だけではなく、「いつもと違うとき、人は何をするのか」まで考えること

です。

非定常作業の安全対策は、そこから始まります。

非定常作業まとめ

次回

では、非定常作業ではなぜ安全装置が外されたり、設備内部へ人が入ったりするのでしょうか。

次回は、

「非定常作業では、なぜ人と危険源が近づくのか」

をテーマに、

停止・隔離・残留エネルギー・ロックアウトなど、設備側から非定常作業の危険を考えていきます。

安全くんの一言

「“いつもの作業”だけじゃなく、“いつもと違うときに人が何をするか”まで考えることが大切だよ!」

安全くん

<執筆者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業出身の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
材料から設備を診る! 技術経営コンサルタント

やくも技術士事務所|重工系技術士(金属部門)・労働安全コンサルタント・中小企業診断士 難波 一夫|材料から設備を診る 損傷解析から設備マネジメント・労働安全・経営まで総合支援
中小企業診断士・労働安全コンサルタントの資格を持つ重工系技術士(金属部門)が、発電設備の損傷解析、材料劣化評価、保全最適化、安全対策を総合的に支援。実務経験に基づく技術コンサルティングを提供します。
重工系技術士|材料・設備・安全・経営をつなぐ技術コンサルティング|やくも技術士事務所
中小企業診断士・労働安全コンサルタントの資格を持つ重工系技術士(金属部門)が、発電設備の損傷解析、材料劣化評価、保全最適化、安全対策を総合的に支援。実務経験に基づく技術コンサルティングを提供します。