はじめに|高温伝熱管の材料はどのように進歩したのか
火力発電プラントでは、蒸気温度と圧力を高めることによって発電効率の向上が図られてきました。
しかし、蒸気条件を高めると、ボイラの過熱器管や再熱器管には、これまで以上に厳しい性能が要求されます。
とりわけ重要なのが、次の二つです。
- 高温で長時間使用しても破断しないクリープ強度
- 高温水蒸気や燃焼ガスによる腐食から管を守る耐酸化性・耐高温腐食性
従来、これらの高温伝熱管にはSUS304H、SUS316H、SUS321H、SUS347Hなどのオーステナイト系ステンレス鋼が使用されてきました。

しかし、超々臨界圧(USC)ボイラの登場により、従来鋼を上回る高温特性が求められるようになりました。
そこで開発されたのがSuper304HやHR3Cなどの高強度オーステナイト系ステンレス鋼です。
今回は、これらの材料がどのような合金設計によって高温性能を向上させたのかを化学成分と金属組織の観点から考えてみます。
高強度オーステナイト鋼はなぜ必要になったのか
ボイラの高温伝熱管は、管外面を高温の燃焼ガスで加熱され、管内には高温高圧の蒸気が流れています。
このため、管には内圧による応力が作用するとともに、長時間の高温使用によるクリープ損傷が蓄積します。
さらに管内面では水蒸気酸化が、管外面では燃料灰や燃焼ガスによる高温腐食が問題となります。
ここで注意したいのは高温強度が高いステンレス鋼であっても、必ずしも耐食性が十分ではない場合があるということです。
材料の高温強度だけを高めても、酸化スケールの成長や高温腐食によって管の寿命が制限されることがあります。
逆に、耐酸化性を高めただけでは、長時間使用に必要なクリープ強度を確保できるとは限りません。
この二つの性能を両立させるために、オーステナイト系ステンレス鋼では合金元素の添加と金属組織の制御が進められてきました。

高強度化の鍵は金属組織
オーステナイト系ステンレス鋼の高温強度は、単に合金元素の含有量を増やすだけで決まるものではありません。
重要なのは、添加した元素が金属組織の中でどのように存在するかです。
高温強度を向上させる主な方法には、固溶強化と析出強化があります。
固溶強化は、合金元素をオーステナイト母相に固溶させ、原子の移動や転位の運動を妨げる方法です。
一方、析出強化は、炭化物、窒化物、金属間化合物などの微細な析出物を組織中に分散させ、転位の運動を妨げる方法です。
高温で長時間使用する材料では、微細な析出物がクリープ変形を抑える役割を果たします。
ただし、析出物は時間の経過とともに粗大化したり、組成や形態が変化したりすることがあります。
したがって、高強度オーステナイト鋼では高温で微細な強化組織をどれだけ長時間維持できるかが重要になります。
Super304Hとは|Cuの微細析出で高温強度を高める
Super304Hは、18Cr-9Ni系を基本とする高強度オーステナイト系ステンレス鋼です。
日本の発電用火力設備では、火SUS304J1HTBという材料記号が用いられています。
その特徴は、従来の18Cr-8Ni系ステンレス鋼に対して、Cu、Nb、Nを適切に添加したことです。
① Cuによる析出強化
Super304Hの合金設計で特に注目したい元素がCuです。
Cuは、適量を添加すると、高温使用中にオーステナイト母相の中へ微細なCuに富む析出物を形成します。
この析出物が転位の運動を妨げることによって、クリープ変形に対する抵抗を高めます。
開発論文では、20~50nm程度の微細なCu析出物が観察されており、高温強度の向上に寄与することが示されています。
ここで重要なのは、Cuを単に多く添加すればよいわけではないという点です。
Cuの添加量が過剰になると、加工性や延性などへの影響も考慮しなければなりません。
Super304Hでは、Cuの析出強化効果と材料の加工性を両立させるため、合金成分が最適化されています。
② NbとNの役割
Super304Hには、Cuに加えてNbとNも添加されています。
NbとNは、炭窒化物などの析出や固溶強化を通じて、高温強度の向上に寄与します。
Cuの微細析出物による強化と、Nb・Nによる強化を組み合わせていることが、この鋼の特徴です。
③ 耐水蒸気酸化性も改善
Super304Hは、高温強度だけでなく、耐水蒸気酸化性にも配慮した材料です。
細粒のオーステナイト組織では結晶粒界が多く、Crが表面へ供給されやすくなります。
その結果、保護性のあるCrに富む酸化皮膜の形成が促進され、酸化スケールの成長が抑えられます。
つまりSuper304HはCu・Nb・Nによる高温強度の向上と、細粒組織による耐水蒸気酸化性の向上を組み合わせた鋼と考えることができます。

HR3C|25Cr系への発展で耐食性を高める
HR3Cは25Cr-20Ni系を基本とし、NbとNを添加した高強度オーステナイト系ステンレス鋼です。
日本の発電用火力設備では、火SUS310J1TBという材料記号が用いられています。
Super304Hが18Cr系の高強度化を進めた材料であるのに対し、HR3CはCr含有量を大きく高めている点が特徴です。
① Cr増量による耐酸化性の改善
ステンレス鋼の耐酸化性は、表面に形成される酸化皮膜の性質に大きく依存します。
Crは、保護性のあるCr₂O₃を主体とする酸化皮膜の形成に重要な役割を果たします。
Cr含有量を高めることで、表面へのCr供給を確保しやすくなり、高温水蒸気中での酸化スケールの成長を抑制する効果が期待できます。
HR3Cでは、Cr含有量を約25%とすることにより、従来の18Cr系では対応が難しい腐食環境にも適用できるようにしています。
ただし、Crを増やせばあらゆる高温腐食に強くなるわけではありません。
燃焼灰の組成、付着物の状態、金属温度などによって腐食挙動は異なるため、使用環境に応じた評価が必要です。
② Niによるオーステナイト組織の安定化
Crはフェライトを安定化させる元素です。
そのため、Crを大幅に増やした鋼では、オーステナイト組織を安定に維持するためにNiの添加も重要になります。
HR3Cでは、25Crに対して約20Niという成分系が採用されています。
これは、耐食性向上のための高Cr化と、オーステナイト組織の安定化を両立させるための合金設計です。
③ NbとNによる高温強度の向上
HR3Cは高Cr鋼であるだけでなく、NbとNを利用して高温強度も高めています。
NbやNは、固溶強化やNb・Crを含む微細な窒化物などの析出によって、高温でのクリープ変形を抑制します。
したがって、HR3Cの特徴は次の二つに整理できます。
CrとNiによって耐酸化性と組織安定性を確保すること。
そして、NbとNによって長時間の高温強度を確保すること。
HR3Cは単にCrを増やしたステンレス鋼ではなく、高温強度と耐食性を同時に高めた材料なのです。

Super304HとHR3Cの比較
両鋼種を比較すると、材料開発の考え方の違いが明確になります。

Super304Hは、従来の18Cr系ステンレス鋼の特徴を生かしながら、析出強化によって高温強度を高めた鋼です。
これに対してHR3Cは、高Cr化によって耐食性を強化し、Nb・Nの添加によって高温強度も確保した鋼です。
Super304Hは高強度化による経済性向上、HR3Cは高強度化と高Cr化による耐食性の向上をそれぞれ特徴とする材料と理解するとよいでしょう。

高強度オーステナイト鋼の留意点
ここまで高強度オーステナイト鋼の特徴を見てきましたが、これらの材料があらゆる条件で優れているわけではありません。
まず、オーステナイト系ステンレス鋼は、フェライト系耐熱鋼と比較して熱膨張係数が大きく、熱伝導率が低いという特徴を持っています。
そのため、起動停止を繰り返す設備では熱応力や熱疲労への配慮が必要です。
また、NbやNなどの添加元素は高温強度に寄与する一方、溶接時の凝固挙動や析出挙動にも影響します。
さらに、長時間使用中には析出物の粗大化や新たな相の形成が生じる可能性があり、組織の安定性を評価する必要があります。
高Cr・高Ni鋼では、高価な合金元素の増加に伴う材料費への影響も無視できません。
つまり、高強度鋼の採用にあたっても、材料の高温性能だけでなく、加工性、溶接性、長時間組織安定性、経済性を含めた総合評価が不可欠です。

まとめ|高温強度と耐食性は別の視点で考える
Super304HとHR3Cは、いずれも高温伝熱管に使用される高強度オーステナイト系ステンレス鋼です。
しかし、その合金設計には明確な違いがあります。
Super304Hは、18Cr系を基本にCu・Nb・Nを添加し、微細な析出物によって高温強度を向上させた材料です。
一方、HR3Cは、25Cr-20Ni系を基本に高Cr化による耐酸化性・耐高温腐食性の向上と、Nb・Nによる高温強度の向上を両立させた材料です。
ここで重要なのは、
高温強度に優れた材料が、必ずしもあらゆる腐食環境に適しているわけではない
ということです。
ボイラの材料選定では、温度と応力によって決まるクリープ強度だけでなく、管内面の水蒸気酸化、管外面の高温腐食、起動停止による熱疲労などを考慮しなければなりません。
材料の化学成分と金属組織を理解すると、なぜSuper304HとHR3Cが開発され、使用条件に応じて使い分けられるのかが見えてきます。

参考文献
[1] 仙波潤之・椹木義淳・小川和博・名取敦・菅孝雄(2002)「高効率火力発電ボイラ用高強度18-8系SUPER304H鋼管の開発」『まてりあ』第41巻,第2号,pp.120–122.
[2] 日本製鉄株式会社(2020)『ボイラ用シームレス鋼管』製品カタログ,特に「SUPER304H」(p.23)、「NF709」(p.25)、「HR3C」(p.26)
[3] 山内秀紀・大倉一・椎橋啓・大島道雄・常松之忠・馬木秀雄(2002)「Ⅲ.ボイラ・環境設備の設計と材料」『火力原子力発電』第53巻,第10号,pp.1177–1220.
くろがねくんの一言
「実はSUPER304H、開発当初は『ST3Cu(エス・ティ・スリー・カッパー)』と呼ばれていたんだ。でも、『カッパー』という響きが商品名としては今ひとつだったので、よりインパクトのある『SUPER304H』になったんだ!」

<執筆者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業 出身 の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
材料から設備を診る! 技術経営コンサルタント





