【テクノアーカイブ】USC(超々臨界圧)発電プラント Part 5 高クロム鋼のクリープ損傷|Type IVクラックとは

タイプ4クラック Technology

超々臨界圧(USC)プラントと高クロム鋼の課題 〜長時間クリープ強度低下〜

石炭火力発電の高効率化・CO2削減の要として導入が進んだ超々臨界圧(USC)プラント(蒸気温度 593℃〜620℃)では、主蒸気管や再熱蒸気管などの高温高圧配管に高クロム鋼(9〜12Cr系のフェライト系耐熱鋼:改良9Cr-1Mo鋼、HCM12Aなど)が採用されました。

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トラブルの顕在化

USCプラントが営業運転に入ると高クロム鋼開発の陰に潜んでいた“魔物”が姿を現します。

2004年6月19日、USCプラント(最高使用温度595℃、累積運転時間33,143時間)の火SUS410J3(12Cr鋼)製・高温再熱蒸気管の長手溶接部から、突如として蒸気が漏えいする事故が発生したのです。

損傷したのは溶接パイプ。板を曲げてまっすぐ溶接するためコストを抑えられますが、実は構造上の大きな弱点があります。

それは、蒸気の圧力によって発生する「フープ応力(周方向の力)」の存在です。

フープ応力は「2倍」働く

パイプ内部に圧力がかかると、2つの応力が発生します。

軸方向の力:管を長さに引っ張る力(σ)

周方向の力(フープ応力):管を膨らませて割ろうとする力(2σ)

構造上、管を外側に広げようとするフープ応力は、軸方向の2倍の強さで作用します。

「一番弱い場所」に「一番強い力」がかかる

溶接部は熱の作用により、組織が変性するので、母材(元の金属)に比べて強度が落ちます。

長手継手は軸方向に真っ直ぐ走っているため、フープ応力が溶接部を左右に引きちぎるように作用します。「一番弱い部分に、一番強い負荷がかかる」ため、損傷しやすいのです。

(参考文献)月刊技術士 2014年6月号 抜粋

クリープ寿命評価

図 実機運転温度でのクリープ寿命評価

実機使用温度ベースでHCM12A(火SUS410J3TP)のクリープ寿命を評価してみると、もともと61万4千時間の寿命(プラント寿命を全うする寿命)が見込まれていたものが、高々3万3千時間で壊れたことになります。高クロム鋼のクリープ強度が「腰折れ」することが明らかになったのです。

※火力原子力発電技術協会誌 2012年12月号 Vol. 63 No.12 最新データに基づく寿命評価式,許容引張応力および長手継手の溶接継手強度低減係数(橋本・木村・屋口・中井)の寿命予測式に基づき評価

なぜ「腰折れ」が見抜けなかったのか?

最大の要因は設計時の評価手法(外挿)の落とし穴にありました。

プラント設計当時、10万時間(約11.4年)に及ぶ実用試験データを取るには時間がかかります。低合金鋼(2.25Cr-1Mo鋼など)でも「2〜3万時間程度の短期データを10万時間へ外挿(予測)」して許容応力を定めるのが慣例となっていました。

しかし、析出強化した高クロム鋼は、3〜5万時間を超えたあたりから析出物(MX相)が粗大化・変態し、急激に強度が低下(下方屈曲)するのです。

高クロム鋼のミクロ組織劣化

短時間データに頼った見通しの甘さから、「安全だと信じていた設計値が、実は非安全側だったという事態が発覚したのです。

溶接部を襲う「Type IV(タイプフォー)損傷」

溶接熱影響部(HAZ)で発生する「Type IV損傷」は、実機で深刻な蒸気漏れ事故を引き起こす主な要因です。

損傷は以下の3段階で進行します。

HAZ細粒域の形成: 溶接時の熱影響により、母材と溶接金属の境界付近に結晶粒が微細化した強度の低い「細粒域」が生じる。

ボイドの発生: 長時間の高温・高圧環境下で、この細粒域の内部にミクロン単位のクリープ・ボイド(空隙)が発生する。

貫通破断: ボイド同士が連結して大きなき裂へと進展し、最終的に配管を貫通して蒸気漏洩に至る。

Type IV損傷の最も厄介な点は、配管の肉厚内部(中間部)から先行して進展することです。 従来の表面レプリカ法(外表面の組織観察)や目視点検では初期〜中期の損傷をまったく捉えることができず、超音波探傷ではミクロンオーダーのボイドを捉えることができないため、点検をすり抜けて突然の漏洩・破損に至るという保全上の大きなリスクとなりました。

誰が責任を取るのか?

このトラブルが各地で顕在化した際、技術的課題以上に深刻だったのが「責任の所在」でした。

鉄鋼メーカーの主張

「我が社が保証・供給したのは母材単体の仕様。溶接部(HAZ細粒域)で起きるType IV損傷や溶接施工後の挙動は、ボイラ・プラントメーカーの責任領域である。」

ボイラ・プラントメーカーの主張

「国や学会の規格・基準に定められた当時の許容応力値(告示値)に則って正しく設計・溶接施工を行なった。規格自体の見直しや材料力学的な想定外の低下について、個別メーカーが保証責任を負うことはできない。」

結果として責任追及の行き場はなくなり、度重なる点検、補修工事、設備停止による利益の逸失、そして最終的な配管更新(恒久対策)に至る巨額のコストのすべてを電力会社が背負い込むという惨憺たる顛末となったのです。

まとめと教訓

高クロム鋼のトラブルは、電力業界に非常に重い教訓を残しました。

責任の行き場がないまま、すべての負担を背負うことになった電力会社の現場。そこでは、高クロム鋼との過酷な戦いが始まりました。

度重なる蒸気漏洩トラブル、補修工事、そして恒久対策へ——。 現場のエンジニアたちは、この巨大なトラブルにどう立ち向かったのか?

次回以降のブログでは、最前線での凄絶な奮闘をお届けします。ぜひご期待ください!

<著者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業 出身 の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
USC・PFBC ボイラの基本設計・材料評価・損傷解析を担当。 現在は火力発電設備の材料選定・余寿命評価等を得意分野とする技術経営コンサルタント