【重工系材料学#33・ボイラ材料編⑪】 火炉壁管の材料|なぜ高温の火炉に炭素鋼・フェライト系耐熱鋼を使うのか

Technology

はじめに|火炉にどうしてステンレス鋼を使わないのか

火力発電ボイラの火炉は燃料を燃焼させる高温の空間です。

火炉の内部には高温の火炎や燃焼ガスが存在し、火炉壁は強い放射熱にさらされています。

ところが、火炉壁を構成する鋼管には、SUS304HやSuper304Hなどのオーステナイト系ステンレス鋼ではなく、炭素鋼やCr-Mo系低合金鋼が広く使用されています。

高温の燃焼ガスに直接さらされているのに、なぜ比較的安価な材料を使用できるのでしょうか。

その理由を理解する鍵は燃焼ガスの温度と鋼管そのもののメタル温度は異なるということです。

今回は、火炉壁管の構造と熱伝達の仕組みを確認しながら、なぜ炭素鋼やフェライト系低合金鋼が選ばれるのかを考えてみます。

火炉壁管とは|火炉を囲む水冷壁

火炉壁管は、ボイラの火炉を囲むように配置された鋼管です。

火炉壁管の内部には高圧の水や蒸気が流れ、管外面は高温の燃焼ガスから熱を受けています。

隣り合う鋼管をフィンで溶接して一体化した構造はメンブレンウォールと呼ばれます。

メンブレンウォールには二つの重要な役割があります。

一つは、火炉内部の燃焼ガスから熱を回収することです。

もう一つは、鋼管とフィンで気密性の高い炉壁を構成し、燃焼ガスが外部に漏れるのを防ぐことです。

つまり、火炉壁管は単なる炉の壁ではなく火炉の構造部材であると同時に熱を回収する伝熱管なのです。

火炉壁管

なぜ火炉壁管のメタル温度は比較的低い?

火炉壁管の材料を理解するうえで、最も重要なのが管内流体による冷却効果です。

火炉の燃焼ガスから受けた熱は、鋼管の外面から管壁を通過し、管内の水や蒸気へ伝えられます。

亜臨界圧ボイラの蒸発管では、水が蒸発するときに大量の潜熱を吸収します。

管内で良好な熱伝達が維持されていれば、火炉壁管の金属温度は燃焼ガス温度より大幅に低く保たれます。

ここで重要なのは、材料の高温強度を評価するときの温度は火炎温度ではなく鋼管のメタル温度であるということです。

例えば、火炉内の燃焼ガスが非常に高温であっても、管内の水による冷却が十分であれば、メタル温度は材料の使用可能な範囲に保たれます。

このため、火炉壁管では必ずしも高価な高合金ステンレス鋼を必要としません。

一方、高温過熱器管や再熱器管の内部には、すでに高温となった蒸気が流れています。

そのため、管の金属温度も高くなり、より優れたクリープ強度や耐酸化性を持つ材料が必要になります。

ただし、超臨界圧の貫流ボイラでは、亜臨界圧ボイラのような明確な沸騰過程は存在しません。管内流体の温度や熱伝達特性を考慮した金属温度評価が必要です。

火炉壁管にはどのような材料を使用する?

火炉壁管には、ボイラの形式や金属温度に応じて炭素鋼やCr-Mo系低合金鋼が使用されます。

代表的な鋼種を整理すると、次のようになります。

火炉壁管材料

自然循環式ボイラではSTB340やSTB410などの炭素鋼が使用され、貫流ボイラではSTB410に加えてSTBA12、STBA20、STBA22などが使用される例があります。

材料を高合金化すれば高温性能を改善できますが、その分だけ材料費や加工・溶接施工に必要な費用が増える場合があります。

したがって、火炉壁管では、必要な金属温度と強度を満足する範囲で適切な材料を選ぶことが重要になります。

火炉壁管材料

フェライト系材料が火炉壁管に適している理由

① 必要な温度域で十分な強度を確保できる

火炉壁管の金属温度が炭素鋼や低合金鋼の使用可能範囲に収まれば、設計上必要な強度を確保できます。

より高い温度条件では、CrやMoを添加した低合金鋼を選択することができます。

② 熱膨張係数が比較的小さい

フェライト系鋼は、一般にオーステナイト系ステンレス鋼より熱膨張係数が小さいという特徴があります。

多数の鋼管とフィンを溶接した火炉壁では、起動停止に伴う熱膨張や収縮によって熱応力が生じます。

熱膨張係数の小さい材料は、こうした変形を抑えるうえでも有利です。

③ 熱伝導率が比較的高い

フェライト系鋼は、一般にオーステナイト系ステンレス鋼より熱伝導率が高いという特徴があります。

同じ熱流束と管肉厚の条件では、熱伝導率が高いほど管壁内の温度差を小さくできます。

これは、管内外面の温度差による熱応力を考えるうえでも重要です。

④ 経済性に優れている

火炉壁管は火炉全体を構成するため、多数の鋼管が必要です。

そのすべてに高価な高合金鋼を使用すれば、ボイラの製造費が大きく増加します。

必要な強度と耐久性を満たす範囲で炭素鋼や低合金鋼を採用することは、設備全体の経済性にもつながります。

火炉壁管材料

管内の冷却が不十分だとどうなる?

火炉壁管のメタル温度は、管内流体への熱伝達に大きく左右されます。

しかし、流量の不足、熱負荷の偏り、管内付着物などによって熱伝達が悪化すると、管のメタル温度が想定以上に上昇する場合があります。

特に熱負荷の高い領域では、管内の流動状態や伝熱特性が変わることで局部過熱が発生するおそれがあります。

金属温度が高くなると、材料の高温強度は低下し、長時間使用ではクリープ損傷のリスクも増加します。

このため、火炉壁管の信頼性を確保するには、材料の選定だけでなく、適切な流量と熱伝達を確保する設計が欠かせません。

変圧貫流ボイラでは、負荷によって管内の流動状態が変化するため、ライフル管やヘリカル形の炉壁構造など、熱伝達と流量配分を考慮した工夫も採用されています。

火炉壁管材料

火炉壁管と過熱器管では材料選定の考え方が異なる

ここまで火炉壁管の材料について考えてきました。

前回まで紹介した高温過熱器管や再熱器管では、Super304HやHR3Cなどの高強度オーステナイト系ステンレス鋼が重要な役割を担っています。

これに対して火炉壁管では、金属温度が比較的低く保たれるため、炭素鋼やCr-Mo系低合金鋼を使用できます。

つまり、同じボイラの伝熱管であっても、管内を流れる流体の状態や金属温度が異なれば、必要な材料特性も変わります。

材料の選定は、設備のどこに使うのかによって変わるのです。

まとめ|火炉の温度と材料の使用温度は同じではない

火炉壁管は高温の火炎にさらされる部材です。

しかし、管内を流れる水や蒸気への熱伝達によって、鋼管の金属温度は燃焼ガス温度より低く保たれます。

このため、実際の金属温度と応力に応じて、炭素鋼やフェライト系低合金鋼を採用することができます。

すなわち、火炉壁管の材料は、

火炎温度ではなく、メタル温度と設計条件に基づいて選ばれる

ということです。

火炉壁管まとめ

参考文献

[1] 「Ⅲ.ボイラの構造」『火力原子力発電』第74巻,第5号,2023年,pp.36–43

[2] 山内秀紀・大倉一・椎橋啓・大島道雄・常松之忠・馬木秀雄(2002)「Ⅲ.ボイラ・環境設備の設計と材料」『火力原子力発電』第53巻,第10号,pp.1177–1220

[3] 「Ⅳ.材料の特性と設計〔1〕」(1992)『火力原子力発電』第43巻,第6号,pp.739–760

くろがねくんの一言

「火炉の中は高温でも、鋼管の温度は水の冷却効果で抑えられているんだ!材料を選ぶときは、火炎温度じゃなくて、メタル温度で決めることがポイントなんだよ!」

<執筆者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業 出身 の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
材料から設備を診る! 技術経営コンサルタント

やくも技術士事務所|重工系技術士(金属部門)・労働安全コンサルタント・中小企業診断士 難波 一夫|材料から設備を診る 損傷解析から設備マネジメント・労働安全・経営まで総合支援
中小企業診断士・労働安全コンサルタントの資格を持つ重工系技術士(金属部門)が、発電設備の損傷解析、材料劣化評価、保全最適化、安全対策を総合的に支援。実務経験に基づく技術コンサルティングを提供します。
重工系技術士|材料・設備・安全・経営をつなぐ技術コンサルティング|やくも技術士事務所
中小企業診断士・労働安全コンサルタントの資格を持つ重工系技術士(金属部門)が、発電設備の損傷解析、材料劣化評価、保全最適化、安全対策を総合的に支援。実務経験に基づく技術コンサルティングを提供します。
業務経歴
技術士(金属部門)・中小企業診断士として、ボイラ、発電設備、エネルギーシステム、材料技術分野での豊富な実務経験を有する技術コンサルタントの業務経歴をご紹介します。
論文
中小企業診断士・労働安全コンサルタントの資格を持つ重工系技術士(金属部門)が、発電設備の損傷解析、材料劣化評価、保全最適化、安全対策を総合的に支援。実務経験に基づく技術コンサルティングを提供します。
受賞歴
火力・原子力発電設備、ボイラ、金属材料分野での研究開発と技術貢献により受賞した論文賞・技術賞を掲載。技術士としての専門性と実績を受賞歴からご確認いただけます。