【重工系材料学#14・溶接基礎編⑤】溶接入熱と冷却速度|組織・硬さを左右する熱履歴

溶接入熱 アイキャッチ Technology

溶接では、金属を局部的に高温まで加熱し、その後、周囲の母材などへ熱が逃げることで急速に冷却されます。

つまり溶接部では、

加熱 → 高温化 → 冷却

という大きな温度変化が、非常に狭い範囲で、しかも短時間のうちに起こっています。

ここで重要になるのが、

「どれだけの熱を与えたのか」

そして、

「その後、どれくらいの速さで冷えたのか」

という2つの要素です。

これが、

溶接入熱と冷却速度

です。

溶接部の金属組織は、単に「どこまで温度が上がったか」だけで決まるわけではありません。

どのように加熱され、どのように冷却されたかという熱履歴によって、組織や硬さ、靭性、さらには割れの発生しやすさまで変化します。

したがって、溶接部の材料特性を理解するためには、

「熱をどれだけ与えたか」と「その熱がどのように逃げたか」

の両方を見ることが必要です。

溶接は『熱を与え、冷却する』プロセス

アーク溶接では、アークの熱によって母材や溶接材料を溶融させます。

しかし、材料の立場から見ると、重要なのは単に

「溶けたかどうか」

だけではありません。

溶接部では、熱源からの距離によって受ける熱の大きさが異なるため、

  • 溶融するほど高温まで加熱された部分
  • 高温まで加熱されたものの、溶融には至らなかった部分
  • 比較的低い温度までしか上昇しなかった部分

が生じます。

そして、溶接が終わると、それぞれの部分は周囲へ熱を逃がしながら冷却されていきます。

つまり溶接部の材料は、

場所によって異なる加熱と冷却、すなわち異なる熱履歴を受けている

のです。

この熱履歴の違いによって、形成される金属組織も変わります。

その結果、

硬さ、強度、靭性などの材料特性にも違いが生じます。

したがって、溶接部を材料の立場から理解するには、

「どこまで加熱されたか」だけでなく、「その後どのように冷却されたか」まで見ることが重要です。

溶接プロセス

溶接入熱とは

溶接入熱とは、簡単に言えば、

溶接線の単位長さあたりに、どれだけの熱エネルギーを与えたか

を表す指標です。

アーク溶接では、主に

電圧・電流・溶接速度

によって入熱の大きさが決まります。

基本的な関係は、

入熱 ∝ 電圧 × 電流 ÷ 溶接速度

と考えることができます。

つまり、

電流を大きくする
電圧を高くする
溶接速度を遅くする

と、単位長さあたりに与えられる熱量が増えるため、一般に入熱は大きくなります。

反対に、

電流を小さくする
電圧を低くする
溶接速度を速くする

と、入熱は小さくなります。

特に溶接速度はイメージしやすく、

同じ場所をゆっくり進めば多くの熱が加わり、速く進めば熱が加わる時間は短くなる

と考えると理解しやすいでしょう。

ここで重要なのは、入熱が単なる「溶接条件の数字」ではないということです。

入熱が変われば、

最高到達温度
↓
高温にさらされる時間
↓
冷却速度
↓
金属組織

も変化します。

つまり、同じ材料を溶接していても、

溶接条件が違えば、材料が受ける熱履歴も変わり、最終的な組織や性質まで変わる可能性がある

ということです。

溶接入熱

入熱が大きいとどうなる?

溶接入熱が大きくなると、溶接部周辺にはより多くの熱が与えられます。

そのため一般に、

広い範囲が高温まで加熱され、冷却も比較的ゆっくりになります。

その結果、HAZ(熱影響部)も広くなりやすくなります。

また、高温にさらされる時間が長くなることで、結晶粒が成長しやすくなる場合があります。

鋼では、結晶粒が粗大化すると、条件によっては靭性が低下することがあります。

つまり、

入熱が大きいほどよい、というわけではありません。

必要以上に入熱を大きくすると、

HAZの拡大や結晶粒の粗大化によって、溶接部の性質に影響を与える可能性がある

のです。

入熱が小さすぎても問題になる

では、反対に入熱は小さいほどよいのでしょうか。

これも、そうとは限りません。

入熱が小さい場合、周囲の母材へ熱が逃げるのに対して、供給される熱量が少なくなるため、溶接部は速く冷えやすくなります。

特に炭素鋼や低合金鋼では、冷却速度が速くなりすぎると、硬い組織が形成されることがあります。

代表的なのが、

マルテンサイト

です。

マルテンサイトは非常に硬い組織ですが、硬さが高くなると、条件によっては割れに対する感受性も高くなります。

そのため、

入熱が小さすぎると、冷却が速くなりすぎ、溶接部が過度に硬化する可能性があります。

つまり溶接入熱は、

大きすぎても、小さすぎてもよいわけではありません。

材料や板厚、継手形状などに応じて、

適切な範囲に管理することが重要

なのです。

入熱の大小

なぜ冷却速度が重要なのか

鋼の組織は、

「どの温度まで加熱されたか」

だけで決まるわけではありません。

そこから、

「どのくらいの速さで冷却されたか」

によっても大きく変化します。

たとえば同じ鋼でも、

ゆっくり冷却した場合

と、

急速に冷却した場合

では、形成される金属組織が異なることがあります。

非常に単純化すると、

ゆっくり冷却
↓
比較的軟らかい組織になりやすい

一方で、

急速に冷却
↓
硬い組織が形成されやすい

という傾向があります。

つまり、

冷却速度は、溶接部の組織や硬さを左右する重要な因子

なのです。

特に鋼では、冷却が速くなりすぎると硬い組織が形成され、条件によっては割れ感受性が高くなることもあります。

冷却速度

冷却速度を決めるのは入熱だけではない

ここで注意したいのは、

冷却速度は、溶接入熱だけで決まるわけではない

ということです。

冷却速度には、たとえば次のような条件も影響します。

  • 母材の板厚
  • 母材の材質
  • 継手形状
  • 溶接方法
  • 予熱温度
  • パス間温度
  • 周囲温度

なかでも板厚は、冷却速度に大きく影響する要因のひとつです。

厚い鋼材では、溶接部の周囲に存在する金属量が多いため、熱が母材側へ逃げやすくなります。

そのため一般に、

厚肉材ほど冷却が速くなりやすく、薄板ほど冷却は比較的ゆるやかになりやすい

と考えることができます。

つまり、同じ電流・電圧・溶接速度で溶接したとしても、

板厚や継手形状が違えば、実際の冷却条件は変わる

ということです。

したがって溶接では、

「入熱だけを見る」のではなく、材料・板厚・継手・予熱などを含めて冷却速度を考えることが重要

になります。

冷却条件

なぜ予熱する?

厚肉材や割れ感受性の高い材料では、溶接前に母材をあらかじめ加熱することがあります。

これが、

予熱

です。

予熱を行うと、溶接を始める前の母材温度が高くなっているため、溶接後の温度低下が緩やかになります。

その結果、

冷却速度を小さくすることができます。

冷却速度が緩やかになることで、たとえば次のような効果が期待できます。

  • HAZ(熱影響部)の過度な硬化を抑える
  • 溶接部に侵入した水素を拡散・放出しやすくする
  • 温度差によって生じる収縮応力を緩和する

特に鋼では、冷却が速すぎると硬い組織が形成され、割れ感受性が高くなることがあります。

予熱は、こうした過度な冷却を抑えるうえで重要な意味を持っています。

つまり予熱は、単に

「材料を温めてから溶接する」

という作業ではありません。

溶接後の冷え方を調整し、溶接部の組織や性質を安定させるための、重要な施工条件

なのです。

予熱の効果

パス間温度も熱履歴を左右する

多層盛溶接では、継手を一度の溶接で完成させるわけではありません。

一層目、二層目、三層目というように、溶接を何層にも重ねていきます。

このとき重要になるのが、

パス間温度

です。

パス間温度とは、あるパスを溶接した後、次のパスを施工する時点での溶接部近傍の温度を指します。

前の溶接による熱が十分に冷えないうちに次の溶接を行うと、母材や溶接金属には熱が蓄積していきます。

その結果、

冷却条件が変わり、形成される組織や性質にも影響が及ぶ

ことになります。

つまり、多層盛溶接では、各パスがそれぞれ独立しているわけではなく、

前のパスで与えられた熱が、次のパスの熱履歴にも影響する

のです。

したがって、

溶接入熱だけを管理していても十分ではありません。

予熱温度やパス間温度も含めて、

溶接部全体がどのような熱履歴を受けるかを管理することが重要

になります。

パス間温度

HAZは「入熱と冷却」の結果としてできる

前回の記事では、HAZ(熱影響部)について説明しました。

https://yakumo-consultant-office.com/hi_metals_welding_basics_04_20260927/

HAZとは、

もともとは母材であり、溶融していないにもかかわらず、溶接熱の影響によって組織や性質が変化した部分

です。

では、なぜHAZでは組織や性質が変化するのでしょうか。

その原因をさらに一段掘り下げると、

「どこまで加熱されたか」

そして、

「その後、どのくらいの速さで冷却されたか」

という熱履歴にたどり着きます。

つまり、HAZの組織や性質は、偶然決まるわけではありません。

溶接によって受けた熱の履歴によって決まります。

その関係を整理すると、

溶接入熱
↓
最高到達温度・高温にさらされる時間
↓
冷却速度
↓
金属組織
↓
硬さ・強度・靭性
↓
溶接部の性能

という流れで考えることができます。

つまり、

HAZは「溶接熱を受けた結果としてできる部分」であり、その性質を決めているのが入熱と冷却による熱履歴

なのです。

今回見てきたように、溶接部の組織や硬さは、入熱や冷却速度によって大きく変化します。
しかし、同じように冷却しても、すべての鋼が同じ組織になるわけではありません。

その違いを生む大きな要因が、鋼に含まれる炭素や合金元素です。

炭素や合金元素が増えると、なぜ溶接部は硬くなりやすく、割れにも注意が必要になるのでしょうか。

次回(重工系材料学#15・溶接基礎編⑥)は、

「炭素当量と溶接性|炭素・合金元素が増えると溶接が難しくなる理由」

について考えていきます。

HAZ

「溶接条件」が「材料特性」につながる

溶接現場では、

  • 電流
  • 電圧
  • 溶接速度
  • 予熱温度
  • パス間温度

などが、施工条件として管理されています。

しかし、材料の立場から見ると、これらは単なる「作業条件」ではありません。

なぜなら、これらの条件によって、

溶接部がどのように加熱され、どのように冷却されるか

つまり、

材料がどのような熱履歴を受けるか

が決まるからです。

そして熱履歴が変われば、

金属組織が変わり、硬さ・強度・靭性などの材料特性も変化します。

その関係を整理すると、

溶接条件
↓
入熱・予熱・パス間温度
↓
加熱と冷却=熱履歴
↓
金属組織
↓
硬さ・強度・靭性
↓
溶接部の性能

という流れで考えることができます。

つまり、

溶接条件を管理することは、単に施工を管理することではありません。

材料の立場から見れば、

溶接条件を管理することは、溶接部の組織と材料特性を管理すること

でもあるのです。

溶接条件が材料特性

溶接入熱と冷却速度 まとめ

溶接部では、

加熱
↓
高温化
↓
冷却
↓
組織変化
↓
硬さ・強度・靭性などの変化

という一連の現象が起こっています。

この一連の変化の中心にあるのが、

溶接入熱と冷却速度

です。

入熱が大きくなれば、一般に広い範囲が高温になり、冷却は比較的緩やかになります。

一方で、入熱が小さい場合や厚肉材のように熱が逃げやすい条件では、冷却が速くなることがあります。

そして冷却速度が変われば、

形成される金属組織も変わります。

その結果、

硬さ・強度・靭性、さらには割れの起こりやすさまで影響を受けます。

したがって溶接では、

「きれいに溶接できたか」だけを見ていては不十分です。

材料の立場からは、

どれだけ熱を与えたのか
その後、どのように冷えたのか

まで含めて考える必要があります。

つまり、溶接条件とは単なる施工条件ではありません。

溶接部が受ける熱履歴を決め、組織と性能を左右する材料条件

でもあるのです。

まとめ 溶接入熱

くろがねくんの一言

「溶接は、熱をどれだけ与えたかだけじゃない。どう冷えたかまで見ると、組織の変化が見えてくるよ!」

くろがねくん

<執筆者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業 出身 の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
材料から設備を診る! 技術経営コンサルタント

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