クレーンは工場や建設現場などで重量物を運搬するために欠かせない設備です。
人の力では持ち上げられない重量物を安全に移動できる便利な設備ですが、ひとたび事故が発生すると重大な災害につながるおそれがあります。
例えば、
- 玉掛けしたワイヤロープが外れ、吊り荷が落下する。
- 吊り荷の重心が偏っていて、吊り上げた瞬間に大きく傾く。
- 吊り荷が振れて、作業者が設備との間に挟まれる。
- 合図が正しく伝わらず、予期しない方向へ荷が動く。
- 吊り荷の下へ作業者が立ち入り、落下した荷の下敷きになる。
こうした災害は、クレーン運転者の操作ミスだけで発生するものではありません。
玉掛け方法の不備、作業者の立ち位置、合図の伝達不足、作業環境の問題など、さまざまな要因が関係しています。
クレーン作業の安全パトロールでは、クレーンそのものだけでなく、吊り荷・玉掛け・合図・作業者の位置関係を総合的に確認することが重要です。
今回は、クレーン作業に潜む危険を見抜くため、安全パトロールで確認したいポイントを考えてみます。
吊り荷の下や移動範囲に人がいないか
クレーン作業で最も注意したい危険の一つが吊り荷の落下や接触です。
重量物が落下した場合、重大な災害につながるおそれがあります。
そのため吊り荷の下に作業者を立ち入らせないことが基本です。
しかし、安全パトロールでは、吊り荷の真下だけでなく、その周囲にも目を向ける必要があります。
例えば、天井クレーンで重量物を移動させているとします。
吊り荷の真下には人がいなくても、その移動経路のすぐ横で別の作業者が仕事をしているかもしれません。
吊り荷が振れたり、予期しない方向に動いたりすれば、作業者に接触する危険があります。
安全パトロールでは、次のような点を確認します。
- 吊り荷の下に作業者が立ち入っていないか。
- 吊り荷の移動経路に人がいないか。
- 吊り荷が振れた場合に、周囲の設備や人に接触する危険はないか。
- 必要な立入禁止区域が設定されているか。
- 他の作業との調整が行われているか。
特に、狭い工場内では、吊り荷の移動範囲と他の作業場所が重なってしまう場合があります。
単に「吊り荷の下に入るな」と注意するだけでなく、人が危険な場所へ立ち入らずに作業できる環境になっているかを確認したいものです。
安全パトロールでは、吊り荷が今どこにあるかだけでなく、これからどこを通り、どのように動く可能性があるかまで考えましょう。

玉掛け用具に異常はないか
クレーン作業の安全を左右する重要な要素が玉掛けです。
玉掛けは、ワイヤロープやチェーン、繊維スリング、シャックルなどを用いて荷をクレーンのフックに掛けたり外したりする作業です。
玉掛け用具に異常があると吊り荷の落下につながるおそれがあります。
例えば、
- ワイヤロープに著しい摩耗や素線切れがある。
- ワイヤロープにキンクやつぶれなどの変形がある。
- 繊維スリングに切れや著しい損傷がある。
- シャックルやフックに変形、き裂、著しい摩耗がある。
- 使用荷重が適切でない玉掛け用具を使用している。
こうした状態では十分な安全性が確保できません。
安全パトロールでは、玉掛け用具の状態を確認するとともに、作業開始前の点検が適切に行われているかを確認します。
また、玉掛け用具は外観に明らかな異常がなくても、使用荷重や使用方法が適切でなければ危険です。
例えば、重量物を吊るために使用するワイヤロープの径が不足していたり、吊り角度によって想定以上の張力が発生していたりする場合があります。
玉掛け用具の選定は、荷の重量、形状、重心位置、吊り方などを考慮して行う必要があります。
「ワイヤロープが切れていないから大丈夫」ではなく「その荷物を安全に吊ることができる玉掛け用具か」を確認することが大切です。

吊り荷の重量・重心・吊り角度は適切か
クレーン作業では荷物の重量と重心位置を把握することが重要です。
例えば、大型の機械部品を吊り上げる場合を考えてみます。
外観は左右対称でも、内部構造によって重心が偏っていることがあります。
その状態で不適切な玉掛けをすると、吊り上げた瞬間に荷物が傾いたり、回転したりするおそれがあります。
また、吊り角度にも注意が必要です。
一般に、2本吊りで吊り角度が大きくなるほど、各ワイヤロープに作用する張力は大きくなります。
吊り荷の重量が同じでも、ワイヤロープにかかる力が同じとは限りません。
安全パトロールでは、
「荷物の重量は把握されていますか?」
「重心位置は確認されていますか?」
「使用する玉掛け用具の使用荷重は適切ですか?」
「吊り角度や吊り点の位置に問題はありませんか?」
といった点を確認します。
特に、長尺の鋼材や配管、偏心した機械部品などでは、荷の形状に応じた玉掛け方法が必要です。
また、吊りピースやアイボルトを使用する場合には、その強度、取り付け状態、許容される荷重方向などにも注意する必要があります。
クレーンの定格荷重に余裕があっても玉掛け用具や吊り点に十分な強度がなければ安全とはいえません。

地切り時に吊り荷の安定を確認しているか
クレーン作業で特に注意したいのが「地切り」です。
地切りとは、荷物を床面や架台などからわずかに持ち上げることです。
この段階で吊り荷のバランスや玉掛け状態を確認します。
例えば、重量物を吊り上げようとしたとき、フックの位置が重心の真上からずれていたとします。
そのまま巻き上げると、荷物が横方向へ動くおそれがあります。
また、玉掛け用ワイヤロープの張り方が不均等であれば吊り荷が傾く場合もあります。
安全パトロールでは、
- フックは吊り荷の重心の真上にあるか。
- ワイヤロープの張りに著しい偏りがないか。
- 地切り後に一旦停止しているか。
- 吊り荷が傾いたり、回転したりしていないか。
- 作業者が安全な位置に退避しているか。
を確認します。
吊り荷が不安定な場合には、無理に吊り上げを続けるのではなく、いったん安全に着地させ、玉掛け方法を見直す必要があります。
また、荷が周囲の設備や他の資材に引っ掛かっていないかも重要です。
引っ掛かった状態の荷を無理に巻き上げると、外れた瞬間に大きく動くおそれがあります。
地切りは単なる吊り上げ開始の操作ではありません。吊り荷の安全性を確認する重要な工程なのです。

合図者と運転者の意思疎通はできているか
クレーン作業では運転者と合図者の意思疎通が欠かせません。
特に、大型の重量物を運搬する場合や運転者から吊り荷の周囲が十分に見えない場合には、合図者の役割が重要になります。
クレーン等安全規則では、原則として一定の合図を定め、合図者を指名して合図を行わせることが求められています。
ただし、運転者が単独で作業する場合などには例外があります。
安全パトロールでは、
- 合図方法が統一されているか。
- 指名された合図者が明確になっているか。
- 運転者から合図を確認できるか。
- 合図者は吊り荷や周囲の状況を確認できる位置にいるか。
- 合図が不明瞭な場合に、作業を停止する運用になっているか。
といった点に着目します。
例えば、複数の作業者が、それぞれ別の方向を指示していたとします。
運転者がどの合図に従えばよいか判断できなければ予期しない方向へ吊り荷を動かしてしまうかもしれません。
また、合図者が吊り荷の動きだけを見ていて、周囲の作業者の位置を確認していない場合も危険です。
合図者は、荷を移動させるためだけにいるのではありません。
吊り荷の状態、移動経路、周囲の作業者の退避状況を確認し、安全な運搬につなげる役割も担っています。
合図は「荷を動かすための指示」であると同時に「安全を確認してから動かすための仕組み」でもあるのです。

吊り荷の振れや挟まれの危険はないか
吊り荷は必ずしも運転者が意図したとおりに動くとは限りません。
クレーンの加減速や旋回、風、荷の重心位置などによって吊り荷が振れることがあります。
特に、長尺物や大型の機械部品は、周囲の設備との接触にも注意が必要です。
例えば、大型の配管を天井クレーンで移動させているとします。
作業者が手で配管を押さえながら位置を調整していた場合、配管が予期せず振れることで柱や設備との間に挟まれるおそれがあります。
また、荷を着地させる際に、作業者が荷物と架台の間へ手を入れてしまう場合も考えられます。
安全パトロールでは、
「吊り荷が振れた場合、どこに接触する可能性がありますか?」
「荷物の位置を調整するために、作業者が直接触れていませんか?」
「吊り荷と壁や設備の間に人が入っていませんか?」
といった点を確認します。
必要に応じて介錯ロープなどを使用し、安全な位置から荷の向きや振れを管理する方法も考えられます。
ただし、介錯ロープを使用していても、作業者が危険な範囲に入っていたり、ロープを身体に巻きつけていたりしては危険です。
ロープの引っ掛かりや急な荷の動きにも注意する必要があります。
吊り荷の動きを人の力で無理に押さえるのではなく、作業者が安全な位置から作業できる方法を考えることが重要です。

荷を着地させる場所は安全か
クレーン作業では、吊り上げるときだけでなく、荷を着地させるときにも注意が必要です。
例えば、重量のある円筒状の部品を床面に降ろす場合を考えてみます。
適切な台木や歯止めなどが準備されていなければ着地後に荷物が転がるおそれがあります。
また、荷物の下へ玉掛け用ワイヤロープが挟まれ、取り外せなくなる場合もあります。
無理にワイヤロープを引き抜こうとすると、荷が動いたり、倒れたりする危険があります。
安全パトロールでは、
- 着地場所が確保されているか。
- 荷物を安定して支持できる状態になっているか。
- 必要な台木や歯止めが準備されているか。
- 荷と床面、架台の間へ手足を入れていないか。
- 着地後の荷の安定を確認してから玉掛け用具を外しているか。
を確認します。
特に、重量物を仮置きする場合には、床面や架台の支持能力にも注意が必要です。
クレーン作業は、荷物を持ち上げたら終わりではありません。安全に着地させ、安定した状態にするまでが重要なのです。

クレーンの点検・資格・定格荷重を確認しよう
クレーン作業の安全パトロールでは設備そのものの管理状態も確認します。
クレーン等安全規則では、対象となるクレーンについて作業開始前点検や定期自主検査などが定められています。
例えば、
- ブレーキや操作装置に異常はないか。
- 過巻防止装置などの安全装置は機能しているか。
- ワイヤロープやフックに異常はないか。
- 定格荷重の表示や確認方法は適切か。
- 必要な検査・点検が実施されているか。
といった点を確認します。
また、クレーンの運転や玉掛けには、設備の種類やつり上げ荷重に応じた免許・技能講習・特別教育などが必要です。
例えば、つり上げ荷重1トン以上のクレーン等で玉掛け業務を行う場合には、原則として玉掛け技能講習の修了など、法令で認められた資格が必要です。
ここで注意したいのは、玉掛けの資格区分は実際に吊り上げる荷物の重量だけで決まるものではないという点です。
最大能力が1トン以上のクレーンで500kgの荷物を吊る場合でも玉掛け業務には所定の資格が必要になります。
さらに、吊り上げる荷物の重量がクレーンの定格荷重を超えていないかも重要です。
移動式クレーンでは作業半径やブームの状態などによって定格総荷重が変わるため、実際の作業条件に応じた確認が必要です。
「資格を持っている」「点検を実施している」だけで安心せず、実際の作業が安全に行われているかを確認したいものです。

クレーン作業の安全パトロール 何を見るか
ここまでの確認事項を整理します。

これらは基本的な確認項目です。
実際の安全パトロールでは、使用するクレーンの種類や荷の形状、作業環境によって確認項目を追加する必要があります。
例えば、移動式クレーンでは、アウトリガーの設置状態や地盤の支持力、作業半径なども重要です。
また、工場の天井クレーンでは、吊り荷の運搬経路や周辺設備との離隔、他の作業者との位置関係などに注意する必要があります。

指摘するだけでなく安全な作業方法へ改善しよう
安全パトロールで危険な状態を発見した場合には必要な措置を講じることが大切です。
例えば、
「吊り荷の下に入らないでください」
「合図を確認してください」
「ワイヤロープを点検してください」
と注意することがあります。
もちろん、いずれも必要な指摘です。
しかし、指摘するだけで問題が解決するとは限りません。
なぜ、作業者が吊り荷へ接近しなければならないのか。
なぜ、合図が伝わりにくいのか。
なぜ、荷物が大きく振れるのか。
こうした背景を確認することが重要です。
例えば、荷物の位置を調整するために作業者が手で押さえているなら安全な位置から調整できる治具や作業方法を検討する。
合図者が見えにくいなら合図者の配置や連絡手段、作業手順を見直す。
吊り荷が振れやすいなら重心位置や吊り方、操作方法などを再検討する。
このように、危険な行動を指摘するだけでなく、その行動が必要になっている作業環境まで見直したいものです。
安全パトロールは作業者に注意を促す活動であると同時に、危険な作業方法を改善する活動でもあるのです。

安全くんのひとこと
「吊り荷の下に入らない! 玉掛けと合図をしっかり確認しよう!」
玉掛け用具、ヨシ!
地切り確認、ヨシ!
合図確認、ヨシ!
吊り荷の周囲の安全確認、ヨシ!

参考資料
- 厚生労働省『クレーン等安全規則』
- 厚生労働省『玉掛け作業の安全に係るガイドライン』
- 沖縄労働局『クレーン作業等の基本的ポイント』
- 厚生労働省『床上操作式クレーンの安全教育教材』
- 厚生労働省『職場のあんぜんサイト』クレーン・玉掛け災害事例
※本記事は一般的なクレーン作業を対象としています。適用される法令や必要資格は、クレーンの種類、つり上げ荷重、操作方式などによって異なります。現場の作業では適用法令、メーカーの取扱説明書、作業標準に従ってください。

