【重工系労働安全アーカイブ#31・安全パトロール編⑧】化学物質管理の安全パトロール|SDS・リスクアセスメントは現場で活かされているか

化学物質管理アイキャッチ Industrial safety

工場ではさまざまな化学物質が使用されています。

例えば、機械部品の洗浄剤、塗料、シンナー、防錆剤、接着剤、酸・アルカリなどです。

これらは設備の製作や保全、品質確保に欠かせないものですが、取り扱いを誤ると健康障害や火災、爆発などの災害につながるおそれがあります。

化学物質による危険は必ずしも目に見えるとは限りません。

有害な蒸気を吸い込んでいても、すぐに症状が現れないことがあります。

皮膚に付着した化学物質が皮膚から吸収されて健康に影響する場合もあります。

そのため、化学物質の危険有害性を把握し、適切な対策を講じることが重要です。

現在、化学物質管理ではSDS(安全データシート)を活用し、リスクアセスメントを実施して、必要なリスク低減措置を講じることが重視されています。

しかし、安全パトロールで、

「SDSはありますか?」

「リスクアセスメントは実施していますか?」

と確認するだけで十分でしょうか。

SDSが保管されていても、作業者が内容を理解していないかもしれません。

リスクアセスメント表が作成されていても、決められた対策が実行されていないかもしれません。

化学物質管理の安全パトロールでは、書類の有無だけでなく、危険有害性を理解し、現場で適切な対策が実行されているかを確認することが大切です。

今回は、化学物質管理の安全パトロールで確認したいポイントを考えてみます。

現場で使用している化学物質を把握しているか

化学物質管理の第一歩は現場で何を使用しているかを把握することです。

工場には設備の運転や製品の製造に使用する薬品だけでなく、保全作業で使用する洗浄剤や補修用の塗料など、さまざまな化学製品があります。

例えば、

  • 機械部品の洗浄に使用する有機溶剤
  • 塗装作業で使用する塗料やシンナー
  • 設備の防錆剤や潤滑剤
  • 酸洗いや洗浄に使用する酸・アルカリ
  • 接着剤や樹脂製品の硬化剤
  • 設備の補修に使用する化学製品

などです。

これらがすべて管理対象として把握されているでしょうか。

安全パトロールでは化学物質の管理台帳と現場で実際に使用されている製品を照らし合わせます。

例えば、現場の棚に洗浄剤の容器が置かれていたとします。

その製品は管理台帳に登録されているでしょうか。

SDSは入手されているでしょうか。

リスクアセスメントの対象になるか確認されているでしょうか。

また、設備の補修作業などで、一時的に持ち込まれる化学製品にも注意が必要です。

日常的に使用する化学物質だけでなく、非定常作業で使用するものまで把握できているかを確認しましょう。

化学物質の管理

SDSは作業者が確認できる状態になっているか

SDS(Safety Data Sheet)は、化学物質や化学製品の危険有害性、安全な取り扱い方法、緊急時の対応などを記載した資料です。

SDSには、主に次のような情報が記載されています。

SDS記載内容

安全パトロールではSDSが入手されているかを確認するとともに、必要なときに作業者が内容を確認できる状態になっているかを見ます。

例えば、SDSが事務所のパソコンに保存されていても現場の作業者が確認する方法を知らなければ十分とはいえません。

また、古いSDSがそのまま使用されていないか、製品の変更が反映されているかも確認したい点です。

作業者へ、

「この洗浄剤にはどのような危険がありますか?」

「必要な保護具はどこで確認していますか?」

と尋ねてみるのもよいでしょう。

SDSの内容をすべて暗記する必要はありません。

しかし、使用する化学物質の主な危険有害性と、安全に取り扱うための注意事項は理解しておく必要があります。

SDSは保管するための書類ではなく、化学物質を安全に取り扱うための情報源なのです。

作業者が確認できるか

容器の表示と中身は一致しているか

化学物質の安全パトロールでは容器の表示にも注意が必要です。

製品の容器には名称や危険有害性を示すラベルが表示されています。

しかし、現場では購入した容器から別の小さな容器へ移し替えて使用することがあります。

例えば、洗浄剤を小分けして使用している場合を考えてみます。

移し替えた容器に何も表示されていなければ中身が何であるか分からなくなるおそれがあります。

また、飲料用のペットボトルなどに化学物質を入れてしまうと誤飲や誤使用につながる危険があります。

安全パトロールでは、

  • 容器に内容物が分かる表示があるか。
  • 危険有害性や必要な注意事項が伝わるか。
  • 小分けした容器も適切に管理されているか。
  • 化学物質に適合した容器が使用されているか。
  • 不明な液体が入った容器が放置されていないか。

を確認します。

必要なラベル表示や情報伝達の方法は化学物質の種類や使用形態によって異なります。

中身が分からない容器はそれだけで危険を生む可能性があります。

容器の表示は作業者が危険を認識するための基本的な安全対策なのです。

容器の表示

リスクアセスメントは実際の作業を反映しているか

化学物質のリスクアセスメントでは、SDSなどから危険有害性を把握し、実際の作業におけるリスクを評価します。

ここで重要なのは化学物質の有害性と実際の作業で生じるリスクは同じではないということです。

例えば、同じ有機溶剤を使用する場合でも、

少量を布に含ませて部品を拭く

開放された容器に部品を浸漬して洗浄する

スプレーで吹き付ける

といった作業では、蒸気やミストの発生状況、作業者がばく露する程度が異なります。

また、作業場所の換気状態や作業時間によってもリスクは変わります。

安全パトロールでは、

  • 使用する化学物質の危険有害性を把握しているか。
  • 実際の使用量や作業方法を考慮しているか。
  • 蒸気、ミスト、粉じんなどの発生を考慮しているか。
  • 作業者がばく露する経路を確認しているか。
  • 決定したリスク低減措置が実行されているか。
  • 化学物質や作業条件の変更が評価に反映されているか。

といった点を確認します。

特に、設備の改造や作業方法の変更によって以前のリスクアセスメントが実態に合わなくなっている場合があります。

例えば、開放された洗浄槽の使用量や稼働時間が増えた場合には作業者のばく露状況も変わる可能性があります。

リスクアセスメント表が存在していても、現在の作業条件に合っていなければ適切なリスク評価とはいえません。

リスクアセスメントは評価表を作成することが目的ではなく、実際の作業に伴うリスクを把握し、低減するためのものです。

リスクアセスメントの反映

換気設備や局所排気装置は機能しているか

有害な蒸気や粉じんなどが発生する作業では作業者の吸入ばく露を防ぐ対策が重要になります。

その代表的な対策が発生源の密閉化や局所排気装置などの工学的対策です。

例えば、溶剤を使用した部品洗浄作業を考えてみます。

リスクアセスメントで局所排気装置の使用を対策として決定していたとします。

しかし、現場では、

  • 局所排気装置が運転されていない
  • 吸込み口が発生源から離れている
  • 作業者の位置によって蒸気が呼吸域を通過する
  • 排気ダクトやフィルターの管理が不十分である
  • 作業方法の変更によって排気の効果が低下している

といった問題があるかもしれません。

安全パトロールでは、局所排気装置が設置されていることだけでなく、実際に有害物質を適切に捕集できているかを確認します。

ただし、吸込み具合を目視したり臭いを確認したりするだけでは、十分な性能評価にはなりません。

必要な点検や測定結果なども確認することが大切です。

また、化学物質や作業内容に応じて法令に基づく作業環境測定やばく露状況の確認が必要となる場合があります。

局所排気装置は「設置してあること」ではなく「有害物質へのばく露を低減できていること」が重要なのです。

換気装置の確認

保護具は化学物質に適したものが選ばれているか

化学物質を取り扱う作業では保護手袋、保護眼鏡、呼吸用保護具、保護衣などを使用することがあります。

安全パトロールでは必要な保護具が使用されているかを確認します。

しかし、保護具は着用していればよいというものではありません。

使用する化学物質と作業内容に適した保護具でなければ十分な保護性能を発揮できない場合があります。

例えば、溶剤を使用する作業で一般的な作業用手袋を着用していたとします。

手袋の材質によっては溶剤が浸透・透過してしまう可能性があります。

保護手袋を選定する際には、使用する化学物質に対する耐透過性や耐浸透性、作業時間などを考慮する必要があります。

また、呼吸用保護具についても粉じんを捕集する防じんマスクと、特定の有害ガス・蒸気への対応を目的とする防毒マスクでは、用途が異なります。

安全パトロールでは、

  • SDSやリスクアセスメントに基づいて保護具を選定しているか
  • 保護手袋の材質は化学物質に適合しているか
  • 必要な呼吸用保護具の種類が適切か
  • 保護具に破損や劣化がないか
  • 正しい装着方法や交換方法が理解されているか
  • 保護具の保管・保守管理が適切か

といった点を確認します。

なお、保護具はリスク低減措置の一つですが、保護具の着用だけに頼ることは望ましくありません。

有害性の低い物質への代替、設備の密閉化、局所排気装置の設置などを優先して検討することが重要です。

「保護具を着けているか」だけでなく「その保護具で本当に守れるか」を確認しましょう。

保護具

皮膚や眼への接触の危険を見逃していないか

化学物質による健康障害を考えるとき蒸気や粉じんの吸入に注意が向きがちです。

しかし、皮膚や眼への接触も重要な危険です。

例えば、酸やアルカリを使用する洗浄作業では、薬液の飛散によって皮膚や眼に化学熱傷を生じるおそれがあります。

また、一部の化学物質は皮膚から吸収されて健康障害を生じる可能性があります。

安全パトロールでは、

「薬液が跳ねる可能性はありませんか?」

「容器の移し替え時に、手や腕へ付着していませんか?」

「必要な保護眼鏡や顔面保護具を使用していますか?」

といった点を確認します。

また、化学物質が付着した手袋を着用したまま、ドアノブや工具などに触れている場合もあります。

このような状態では、周囲へ化学物質を広げてしまう可能性があります。

保護具の着脱方法、汚染された器具の管理、手洗いや洗浄設備の状況にも注意したいものです。

化学物質のばく露は、吸入だけでなく皮膚や眼からも起こり得ることを意識しましょう。

皮膚や目の接触

化学物質の保管方法は適切か

化学物質は使用中だけでなく保管中にも危険が生じる場合があります。

例えば、

  • 引火性の液体が火気の近くに保管されている
  • 容器のふたが開いたままになっている
  • 不適切な組み合わせの化学物質が近接して保管されている
  • 容器が腐食・損傷して液漏れしている
  • 転倒防止措置が不十分である

といった状態です。

特に、化学物質同士を混合した場合に有毒ガスの発生や激しい反応を起こす組み合わせには注意が必要です。

安全パトロールでは、SDSの「取扱い及び保管上の注意」や「安定性及び反応性」の情報を参考に、適切な保管方法が守られているかを確認します。

また、危険物に該当する製品については、消防法など関係法令に基づく管理も必要です。

化学物質は使用していないときも安全に管理する必要があるのです。

化学物質の保管方法

漏出や緊急時の対応は準備されているか

化学物質の取り扱いでは、容器の破損や配管の漏れ、薬液の飛散などによる事故も想定する必要があります。

安全パトロールではこうした緊急時への備えを確認します。

例えば、洗浄剤の容器が倒れて薬液が漏れ出した場合を考えてみます。

漏れた化学物質に引火性があれば火災の危険が生じるかもしれません。

また、有害な蒸気が発生すれば周囲の作業者がばく露するおそれがあります。

このような場合に備えて、

  • 漏出時の対応手順が定められているか
  • 必要な通報・避難の方法が周知されているか
  • 適切な漏出対応資材や保護具が準備されているか
  • 洗眼設備や緊急用シャワーなどが必要に応じて設置されているか
  • 作業者がSDSに記載された応急措置を確認できるか
  • 緊急時の対応について教育や訓練が行われているか

を確認します。

特に、化学物質の種類によって適切な対応方法は異なります。

漏れた薬液を不用意に拭き取ったり、別の薬品で中和しようとしたりすると、かえって危険な場合があります。

緊急時には、その化学物質に適した対応を適切な装備と手順で行うことが重要です。

緊急時の対応

化学物質管理の体制は現場で機能しているか

化学物質の自律的管理では事業場の管理体制も重要です。

2024年4月からリスクアセスメント対象物を製造・取り扱う事業場などでは化学物質管理者の選任が義務付けられています。

また、リスクアセスメントの結果に基づく措置として保護具を使用させる場合には保護具着用管理責任者の選任が求められます。

安全パトロールでは該当する事業場で必要な管理体制が整備されているかを確認します。

ただし、管理者の氏名が掲示されているだけで十分というわけではありません。

例えば、

化学物質を新しく採用するとき、誰が危険有害性を確認するのか

作業方法を変更するとき、誰がリスクアセスメントを見直すのか

必要な保護具は、誰が選定・管理するのか

作業者から危険性について相談があった場合、誰が対応するのか

こうした役割が明確になっていることが重要です。

また、化学物質のリスクアセスメントでは、結果や必要な措置を労働者へ周知するとともに、法令に応じた記録管理なども求められます。

化学物質管理は特定の担当者だけで完結するものではありません。管理者と現場の作業者が連携して進める活動なのです。

化学物質の管理体制

SDS・リスクアセスメント・現場の対策を照合しよう

ここまで、化学物質の取り扱いに関するさまざまな確認事項を考えてきました。

これらを安全パトロールで確認するときには次の3つを結びつけると分かりやすいと思います。

① SDSで危険有害性を確認する

使用する化学物質にどのような危険有害性があるかを確認する。

② リスクアセスメントで必要な対策を確認する

使用量、作業方法、ばく露状況などに応じて、どのようなリスク低減措置が必要と判断されたかを確認する。

③ 現場で対策が実行されているか確認する

換気設備、保護具、作業方法、保管状態などが、決められた対策と一致しているかを確認する。

例えば、次のような場合です。

安全パトロールの着眼点

これらは基本的な確認項目です。

実際のパトロールでは、使用する化学物質や作業内容によって確認事項を追加する必要があります。

例えば、塗装作業では有機溶剤へのばく露や引火の危険、酸・アルカリ洗浄では薬液の飛散や化学熱傷、溶接作業では発生するヒュームへのばく露などに着目します。

また、有機溶剤中毒予防規則や特定化学物質障害予防規則、粉じん障害防止規則など、個別の法令が適用される場合には、それぞれの規定に基づく措置も確認する必要があります。

SDS・リスクアセスメント・現場の対策を結びつけることが、化学物質管理の安全パトロールで重要な視点なのです。

リスクアセスメント対策との照合

指摘するだけでなく化学物質のばく露を減らそう

安全パトロールで問題点を発見すると、

「SDSを確認してください」

「保護手袋を着用してください」

「換気装置を運転してください」

と指摘することがあります。

もちろん、いずれも必要な指摘です。

しかし、これだけで問題が解決するとは限りません。

例えば、作業者が有機溶剤の蒸気を吸い込みやすい場所で洗浄作業をしていたとします。

呼吸用保護具の使用を指導することも必要かもしれません。

しかし、それだけでなく、

有害性の低い洗浄剤へ変更できないか

洗浄工程を密閉化できないか

局所排気装置を改善できないか

作業方法を変更して蒸気の発生を減らせないか

といった対策を検討することが大切です。

化学物質のリスク低減では、一般に次のような優先順位で対策を検討します。

  1. 危険有害性の低い物質への代替や作業条件の変更
  2. 密閉化・局所排気装置などの工学的対策
  3. 作業手順や立入制限などの管理的対策
  4. 適切な保護具の使用

なお、法令で特定の措置が義務付けられている場合には、その措置を実施する必要があります。

化学物質管理の安全パトロールは、作業者に注意を促すだけでなく、危険有害性へのばく露そのものを減らすための活動でもあるのです。

暴露を減らそう

まとめ SDS・リスクアセスメントを現場の安全につなげよう

工場では、洗浄剤、塗料、溶剤、酸・アルカリなど、さまざまな化学物質が使用されています。

これらは製造や設備保全に欠かせませんが、適切に管理しなければ健康障害や火災、爆発などの災害につながるおそれがあります。

安全パトロールでは、SDSやリスクアセスメントの実施状況を確認することが大切です。

しかし、それだけでは十分ではありません。

使用している化学物質を把握しているか

作業者は危険有害性を理解しているか

リスクアセスメントは実際の作業条件を反映しているか

決められたリスク低減措置が実行されているか

換気設備や保護具は適切に機能しているか

そして、作業者が危険な化学物質へのばく露をできるだけ避けられる作業環境になっているか

ここまで確認したいものです。

化学物質管理の安全パトロールは、「SDSがあるか」「リスクアセスメントを実施したか」だけでなく、「危険有害性が理解され、実際のリスク低減につながっているか」を見る活動です。

書類を整備するだけで終わらせず、設備、作業方法、保護具、管理体制を改善する。

その積み重ねが、化学物質による労働災害の防止につながるのではないでしょうか。

化学物資の管理まとめ

安全くんのひとこと

「SDSを読んで、危険を知って、現場の対策につなげよう!」

化学物質の確認、ヨシ!

リスクアセスメント、ヨシ!

ばく露防止対策、ヨシ!

化学物質を安全に使える作業環境、ヨシ!

安全くん

参考資料

  1. 厚生労働省『化学物質による労働災害防止のための新たな規制について』
  2. 厚生労働省『化学物質対策に関するQ&A(リスクアセスメント関係)』
  3. 厚生労働省『化学物質対策に関するQ&A(ラベル・SDS関係)』
  4. 厚生労働省『皮膚障害等防止用保護具の選定マニュアル』
  5. 厚生労働省『化学物質リスクアセスメント指針』
  6. 厚生労働省『労働安全衛生規則』

※本記事は一般的な製造業の化学物質取扱作業を想定しています。実際の管理では、対象物質、作業条件、適用法令、SDS、メーカーの取扱説明書などを確認し、必要な対策を実施してください。