リスクアセスメント基礎編 第5回 リスク低減措置をどう決めるか
リスクアセスメントでは、危険源を洗い出し、そこから生じるリスクを見積もります。
しかし、リスクを「高・中・低」に分類しただけでは、現場は安全になりません。
大切なのは、その結果を使って、
「では、このリスクをどうやって下げるのか」
を考えることです。
ここで注意したいのが、
「作業者に注意してもらう」
「朝礼で周知する」
「保護具を着用する」
といった対策だけで終わらせないことです。
もちろん、これらも必要な対策です。
しかし、その前に考えることがあります。
その危険源、本当になくせませんか?
今回は、リスク低減措置を考えるときの基本となる「対策の優先順位」について見ていきましょう。

リスク低減措置には優先順位がある
リスク低減措置は、思いついたものを何でも実施すればよいわけではありません。
基本となる考え方は、
できるだけ危険源に近いところで対策する
ことです。
大きく整理すると、次のような順番で考えていきます。
① 本質的対策
② 工学的対策
③ 管理的対策
④ 個人用保護具
重要なのは、この順番です。
いきなり、
「注意して作業する」
「保護具を着用する」
から考えるのではありません。
まず、
危険源そのものをなくすことができないか。
そこから考えます。

① 本質的対策|危険源そのものをなくせないか
最初に検討したいのが、本質的な対策です。
これは、危険源そのものを除去したり、危険性の小さいものへ変更したりする考え方です。
例えば、重量物を人が持ち上げて運搬している作業があるとします。
ここで、
「腰を痛めないよう正しい姿勢で持ちましょう」
と教育することも対策の一つです。
しかし、その前に、
そもそも人が持つ必要はないのではないか。
と考えてみます。
工程を変更して重量物の運搬そのものをなくす。
部品を小分けにして一つ当たりの重量を小さくする。
危険な薬品を、より危険性の低いものへ変更する。
高所で行っていた作業を地上でできるようにする。
こうした対策では、危険源そのものがなくなったり、その危険性が小さくなったりします。
これが、本質的対策の強みです。

「人が注意する」より「危険源をなくす」
なぜ本質的対策を最初に考えるのでしょうか。
理由は単純です。
人は間違えるからです。
どれほど教育しても、
疲れていることがあります。
焦っていることがあります。
思い込みもあります。
手順を忘れることもあります。
「十分注意する」
という対策は、人が正しく行動することを前提としています。
一方、危険源そのものがなくなれば、
人が間違えても、その危険源による事故は起こりません。
ここには大きな違いがあります。
リスク低減を考えるときには、
「人をどう注意させるか」より先に「危険源をどう変えるか」
を考えることが重要です。

② 工学的対策|人と危険源を離す
危険源そのものをなくせない場合には、次に工学的な対策を考えます。
例えば、回転している機械があります。
回転部そのものをなくすことができないのであれば、
カバーを設置する。
柵を設ける。
インターロックを設置する。
非常停止装置を設ける。
局所排気装置を設置する。
遠隔操作にする。
といった方法を検討します。
つまり、
危険源は残っていても、人がそこへ接触しにくい仕組みにする
わけです。
ここでも重要なのは、
「人が気をつける」
ことだけに頼らないことです。
例えば、回転体に巻き込まれる危険がある設備に、
「回転中は手を出さないこと」
という表示だけを貼る場合と、
物理的に手を入れられないカバーを設置する場合では、対策の性質が違います。
設備側で危険への接近を防ぐ。
これが工学的対策の大きな特徴です。

③ 管理的対策|ルールや教育でリスクを下げる
本質的対策や工学的対策を行っても、すべてのリスクをなくせるとは限りません。
そこで必要になるのが、管理的対策です。
例えば、
作業手順書を整備する。
立入禁止区域を設定する。
作業時間を制限する。
資格者だけに作業させる。
教育や訓練を実施する。
標識や警告表示を設置する。
作業前にKYを行う。
といった対策です。
これらは現場の安全管理に欠かせません。
ただし、管理的対策には一つ大きな特徴があります。
それは、
最終的には人がルールを守ることに依存する
ということです。
手順書があっても、読まれなければ機能しません。
教育しても、時間が経てば忘れることがあります。
立入禁止としても、人が入る可能性は残ります。
だからこそ、本質的対策や工学的対策を十分に検討せず、
「教育しました」「注意喚起しました」で終わらせない
ことが大切です。

④ 個人用保護具|最後の砦として人を守る
さらに残ったリスクに対して、個人用保護具を使用します。
例えば、
ヘルメット
保護メガネ
防じんマスク
安全帯・墜落制止用器具
安全靴
保護手袋
などです。
しかし、保護具を着用しているから危険源がなくなったわけではありません。
例えば、飛来物が発生する作業で保護メガネを着用していても、
飛来物そのものは発生しています。
だから、
「保護メガネを着用する」
だけで終わるのではなく、
そもそも飛来物を発生させない方法はないか。
飛来物を囲い込めないか。
人と飛来物を遮へいできないか。
というところから考える必要があります。
個人用保護具は、
危険源をなくす対策ではなく、危険源から最後に人を守る対策
と考えると分かりやすいでしょう。

「注意する」でリスクの数字を下げてよいのか
前回、リスクを見積もるときに、
点数を付けること自体が目的ではない
と説明しました。

これは、対策後のリスクを再評価するときにも重要です。
例えば、
対策前 12点
↓
「作業者に注意するよう周知した」
↓
対策後 6点
このように数字だけを見ると、
「リスクが半分になった」
ように見えます。
しかし、本当にそうでしょうか。
危険源は変わっていません。
設備も変わっていません。
人と危険源との位置関係も変わっていません。
変わったのは、
「注意するように言った」ことだけ
かもしれません。
もちろん教育や注意喚起によってリスクが低減する場合はあります。
しかし、
数字を下げるために対策を考えるのではありません。
対策によって、
何が変わったのか。
危険源はなくなったのか。
危険源への接触可能性は下がったのか。
設備側で事故を防げるようになったのか。
人の行動だけに依存していないか。
こうした点を確認したうえで、残ったリスクを改めて評価する必要があります。

対策を考えるときの問い
現場でリスク低減措置を検討するときには、次の順番で問いかけてみると分かりやすくなります。
この作業そのものをなくせないか?
↓
危険なものを、より危険性の小さいものに変えられないか?
↓
人が危険源に近づかない設備や仕組みにできないか?
↓
ルール・手順・教育で補う必要があるものは何か?
↓
それでも残るリスクから、保護具でどう人を守るか?
この順番で考えるだけでも、
「とりあえず注意喚起」
「とりあえず保護具」
という対策から一歩進むことができます。

リスク低減措置を実施したら、もう一度評価する
対策を実施したら、それで終わりではありません。
もう一度、
残ったリスクを確認します。
危険源そのものを除去できたのであれば、その危険源によるリスクはなくなります。
しかし、工学的対策や管理的対策では、危険源そのものが残っている場合があります。
さらに、対策によって別の危険源が生まれることもあります。
例えば、重量物を人力運搬から機械運搬に変更すれば、腰痛のリスクは低減できるかもしれません。
しかし今度は、
機械との接触。
挟まれ。
巻き込まれ。
といった新しい危険源が生じる可能性があります。
だから、
対策する → 残留リスクを確認する → 必要ならさらに対策する
という繰り返しが重要になります。

まとめ 対策は「人」より先に「危険源」から考える
リスク低減措置には、考える順番があります。
本質的対策
↓
工学的対策
↓
管理的対策
↓
個人用保護具
まず考えたいのは、
危険源そのものをなくせないか。
それが難しければ、
人と危険源を設備的に離せないか。
そのうえで、
ルール、手順、教育などの管理的対策を行い、
最後に個人用保護具で人を守ります。
もちろん、現実の現場では、本質的対策がいつでも実施できるわけではありません。
コスト、設備、品質、生産性、既存設備との関係など、さまざまな制約があります。
だからこそ大切なのは、
最初から「注意するしかない」と決めつけないことです。
リスクアセスメントは、評価表の数字を下げるために行うものではありません。
危険源を見つけ、その危険源から人をどう遠ざけるかを考える。
そして、
できるだけ人の注意力に頼らない対策を選ぶ。
これが、リスク低減措置を考えるときの基本です。

安全くんの一言
「『気をつけよう』の前に、危険源をなくせないか考えよう!」

リスクアセスメント基礎編 第6回は『残留リスクとは』について解説します。

前回のおさらいはこちら!

<執筆者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業 出身 の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
材料から設備を診る! 技術経営コンサルタント



