【重工系労働安全アーカイブ】リスクをどう見積もるか|重大性×発生可能性をどう考える?

リスクの見積もり アイキャッチ Industrial safety

リスクアセスメント基礎編 第4回 リスクをどう見積もるか

危険源を洗い出したら、次に行うのがリスクの見積りです。

リスクアセスメントでは一般に、

「災害が起きたとき、どれほど重大になるのか」

そして、

「その災害が、どの程度起こり得るのか」

を組み合わせてリスクを見積もります。

例えば、

重大性=3
発生可能性=3
だから、3×3=9

そんな評価表を見たことがある人も多いでしょう。

しかし、ここで一つ注意したいことがあります。

リスクアセスメントは、点数を付けるために行うものではありません。

点数や記号は、あくまで判断を助けるための道具です。

本当にやりたいことは、

「数ある危険の中で、何を優先して潰すのか」

を決めることです。

リスクの見積もり

リスクの見積りは「危険源を見つけた次のステップ」

前回の記事では、

危険源をどう洗い出すか

を考えました。

【重工系労働安全アーカイブ】危険源をどう洗い出すか|まず作業を分解してみよう
リスクアセスメント基礎編 第3回 危険源をどう洗い出すかリスクアセスメントでは、最初に危険源を洗い出します。その後、 リスクを見積もる 優先順位を決める 対策を検討するという流れに進みます。しかし実際には、この最初の「危険源を洗い出す」とい...

ここで大切なのは、

危険源を見つけることと、そのリスクを見積もることは別の作業

だということです。

例えば、回転軸があるとします。

回転軸そのものは、人が巻き込まれる可能性を持つ危険源です。

しかし、

完全に囲われていて、人が回転軸に近づけない設備と、

作業者が毎日のように、その近くへ手を伸ばす設備では、

同じ回転軸でもリスクの大きさは違います。

だから、危険源を洗い出したら、次に考えるのは、

「この危険源によって、どのような災害が、どの程度の可能性で起こるのか」

です。

そして、

災害が起きた場合の重大性と、発生する可能性を考え、どのリスクから優先して対策するのかを決めていきます。

実際、リスクアセスメントの基本的な流れも、

危険性・有害性の特定

リスクの見積り

リスク低減措置の検討・実施

となっています。

つまり、

危険源を見つけるのは「何が危ないのか」を知るため。

リスクを見積もるのは「何から先に対策するのか」を決めるため。

この二つを分けて考えることが、リスクアセスメントの重要なポイントです。

危険源を見つけた後のステップ

基本は「重大性」と「発生可能性」

厚生労働省の研修で例示されているマトリクス法では、まず負傷・疾病の重篤度を、

致命的・重大

中程度

軽度

に分けます。

例えば「致命的・重大」には、死亡災害、身体の一部に永久的損傷を伴うもの、1か月以上の休業災害、多数の被災者を伴うものなどが例示されています。

次に、

発生可能性

を見ます。

ここで重要なのは、

単に、

「事故が過去に何件起きたか」

だけを見るのではないということです。

危険源への接近頻度や時間、回避の可能性などを考慮します。

つまり、

毎日危険部へ近づくのか。

故障・修理・調整などの非定常作業で近づくのか。

そもそも危険部へ近づくことがほとんどないのか。

近づいたとき、災害を回避できるのか。

そうした現場の実態を考えて評価するわけです。

重大性と発生可能性

重大性は「過去に起きたケガ」ではなく「起こり得る最悪」を見る

重大性は過去に発生した災害の重篤度ではなく、最悪な状況を想定して見積もります。

例えば、高所からの墜落です。

以前、

「落ちたけれど打撲だけだった」

という災害があったとしても、

次も打撲で済むとは限りません。

5mから墜落すれば、

死亡災害になる可能性があります。

回転機械への巻き込まれも同じです。

過去に軍手が破れただけだったから、

「軽度」

ではありません。

最悪の場合、

指の切断

腕の巻き込まれ

死亡

まで起こり得るのであれば、

そこを見なければなりません。

つまり重大性は、

「前回どうだったか」ではなく、「次に最悪何が起こり得るか」

で考える必要があります。

最悪で評価

「発生可能性」を事故件数だけで決めてはいけない

「今まで事故が起きていない」

から、

発生可能性は低い。

そう考えてしまうことがあります。

しかし、

毎日回転部の近くに手を入れている。

フォークリフトと歩行者が交差している。

詰まり除去のときだけ機械内部へ手を入れる。

設備異常時に安全装置を解除することがある。

そんな作業でも、

たまたま事故が起きていないだけかもしれません。

発生可能性を見るときに、

危険源への接近頻度・時間と回避可能性

を考慮する必要があります。

事故実績を見ることは大切です。

しかし、

「事故がなかった」=「リスクが低い」

とは限りません。

事故がなかった

低頻度でも死亡災害になるものを埋もれさせない

発生可能性が低くても、

予見される最も重篤な負傷や疾病にも配慮します。

例えば、

「年に一度しか行わない作業」

だから発生可能性は低い。

しかしその一回で、

高所から墜落すれば死亡する。

高圧蒸気を浴びれば重篤な熱傷になる。

大型設備に挟まれれば死亡する。

のであれば、

「頻度が低いから大したリスクではない」

とは簡単には言えません。

リスクの総合評価だけを見ていると、

こうした

低頻度・重大災害

が埋もれることがあります。

だから、総合的なリスクレベルを見ると同時に、

重大性そのものを見る

ことが重要です。

低頻度の重大性

マトリクス法なら「掛け算」をしなくてもよい

リスク評価の代表例は、

マトリクス法

です。

例えば、

マトリクス

という形で、

重大性と発生可能性を組み合わせ、

Ⅰ・Ⅱ・Ⅲのリスクレベルに振り分けます。

つまり、

必ずしも、

3×3=9

と計算する必要はありません。

マトリクス法とは別に、接近頻度・負傷する可能性・重篤度の3要素を数値化し、その合計からリスクを見積もる方法もあります。

大切なのは、

マトリクス法か

加算法か

乗算法か

という方式そのものではありません。

その評価によって、対策の優先順位を適切に決められるか

です。

マトリクス法

リスクレベルは「だから、いつ対策するのか」まで決める

リスクレベルについて

Ⅲは、

直ちに解決すべき重大なリスク

Ⅱは、

速やかにリスク低減措置を講ずる必要があるリスク

Ⅰは、

必要に応じてリスク低減措置を実施すべきリスク

と位置付けるとします。

しかし、

「Ⅲになりました」

で終わりではありません。

Ⅲになった。

だから何を止めるのか。

だから何を先に改善するのか。

Ⅱなら、

いつまでに対策するのか。

Ⅰなら、

本当に現状管理でよいのか。

ここまでつながって初めて、リスクを見積もった意味があります。

リスクレベル

「2か3か」の議論だけになっていないか

リスクアセスメントをやっていると、

こんな議論になりがちです。

「これは2でしょう」

「いや、3じゃないですか」

「去年2だったから今年も2で」

しかし、

本当に大切なのは、

数字そのものではありません。

なぜ2なのか。

なぜ3なのか。

そこを話すことです。

リスクの見積りについて、

極力複数人で実施し、

作業内容をよく知る人を含め、

現在の安全対策を考慮し、

具体的な負傷・疾病を想定して評価する、

という考え方が必要であり

評価がばらつくことは悪いことではありません

2か3の議論

リスク評価は「平均点」でも「多数決」でもない

Aさんは「Ⅱ」

Bさんは「Ⅲ」

Cさんは「Ⅱ」

だから多数決でⅡ

見積りは平均でも多数決でもなく、

グループで話し合って合意します。

さらに、

最もリスクを高く評価した人から、その理由をよく聞きましょう。

例えば一人だけ「Ⅲ」と言った人が、

「通常運転ならⅡですが、月に1回、詰まり除去で作業者がここに手を入れています」

と言ったらどうでしょう。

その情報を知らなかった人は、

評価を変えるかもしれません。

つまり、

評価のバラつきそのものが、新しい危険情報を見つけるきっかけ

になります。

だから、

「多数決で決める」

のではなく、

なぜ評価が違ったのかを話す。

ここにリスクアセスメントを複数人で行う意味があります。

多数決はNG

「3×3=9」より、「なぜ9なのか」が重要

例えば、

「重大性3、発生可能性3、リスク9」

とだけ書いてあっても、

後から見た人には、

なぜ9なのか分かりません。

それよりも、

「清掃作業を毎日実施し、その際に作業者が回転部から20cm程度まで接近する。巻き込まれた場合は手指切断のおそれがある」

と書かれているほうが、

はるかに価値があります。

見積りには説明がつかなければならず、やま勘ではいけない

数字の裏側に、

作業の実態

がなければなりません。

なぜ9なのか

現在の安全対策を入れて評価する

もう一つ重要なのが、

既存の安全対策

です。

同じ危険源でも、

むき出しの回転軸と、

固定式ガードで完全に囲われた回転軸では、

当然リスクは違います。

ただし注意したいのは、

「対策がある」ことと「対策が効いている」ことは同じではない

ということです。

手順書がある。

教育している。

注意喚起の表示がある。

それだけで、

本当に発生可能性が十分下がっているでしょうか。

ここは現場を見て判断する必要があります。

既存の安全対策を含める

対策したら、もう一度リスクを見積もる

リスクアセスメントは、

最初に点数を付けて終わりではありません。

対策した後、

本当にリスクが下がったのか

をもう一度見積もります。

例えば、

防護柵を設置した。

インターロックを設けた。

自動化した。

人と車両の動線を分離した。

そこで初めて、

「発生可能性が下がった」

と言えるのかを確認します。

対策後の確認

「注意する」で数字を下げていないか

対策欄に、

「注意喚起を実施する」

「教育する」

「指差呼称を徹底する」

と書いて、

発生可能性を3から1へ下げる。

本当にそれでよいでしょうか。

リスク低減措置は、

本質的対策 → 工学的対策 → 管理的対策 → 個人用保護具

の順に検討します。

つまり、

まず危険な作業そのものをなくせないか。

次に設備的に人を危険源から離せないか。

それが難しければ管理面で対策できないか。

最後に保護具

という順です。

対策の優先度

まとめ リスクを見積もる目的は「何を先に潰すか」を決めること

リスクの見積りでは、

重大性と発生可能性を考えます。

必要に応じて、

危険源への接近頻度、

接近時間、

回避可能性、

既存の安全対策なども考慮します。

しかし、

最も大切なのは、

きれいな点数を付けることではありません。

「3×3だから9」

で終わらず、

なぜ重大なのか。

なぜ起こり得るのか。

どんな作業で人が危険源へ近づくのか。

最悪の場合、何が起こるのか。

現在の対策は本当に機能しているのか。

そして、

何を最優先で対策するのか。

そこまで考えるために、リスクを見積もります。

ですから、リスクアセスメント表を完成させたとき、

最後に確認したいのは、

「全部のマスが埋まったか」ではありません。

「この評価を見れば、何を先に直すべきか分かるか」

です。

リスクアセスメントは、

点数を付ける作業ではなく、取り返しのつかない災害を防ぐために優先順位を決める活動

なのです。

まとめ

安全くんの一言

「点数を付けるのが目的じゃないよ。何を先に直すか決めるための評価なんだ!」

安全くん

リスクアセスメント基礎編 第5回は『リスクをどう見積もるか』について解説します。

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<執筆者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業 出身 の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
材料から設備を診る! 技術経営コンサルタント

やくも技術士事務所|重工系技術士(金属部門)・労働安全コンサルタント・中小企業診断士 難波 一夫|材料から設備を診る 損傷解析から設備マネジメント・労働安全・経営まで総合支援
中小企業診断士・労働安全コンサルタントの資格を持つ重工系技術士(金属部門)が、発電設備の損傷解析、材料劣化評価、保全最適化、安全対策を総合的に支援。実務経験に基づく技術コンサルティングを提供します。
重工系技術士|材料・設備・安全・経営をつなぐ技術コンサルティング|やくも技術士事務所
中小企業診断士・労働安全コンサルタントの資格を持つ重工系技術士(金属部門)が、発電設備の損傷解析、材料劣化評価、保全最適化、安全対策を総合的に支援。実務経験に基づく技術コンサルティングを提供します。