昨日と今日で条件が違う
前回と今回で設備状態が違う
作業者も違う
周囲の作業も違う
ということがあります。
そのため、
リスクアセスメント(RA)を実施しているから大丈夫
手順書があるから大丈夫
では十分とは限りません。
実際に作業を始める直前には、
今日、この場所で、このメンバーが、どの条件で作業するのか
を確認する必要があります。
そのために使われるのが、
KY
TBM(Tool Box Meeting)
作業前ミーティング
です。
これらは単なる朝礼ではありません。
リスクアセスメントで決めた安全対策を、実際の現場条件へ落とし込むための最終確認
と考えると理解しやすくなります。
KYとTBMとは
KYは、
危険予知
です。
これから行う作業について、
どんな危険があるか
どこで事故が起きそうか
何に注意するか
を作業者同士で確認します。
一方、TBMは、
Tool Box Meeting
の略で、
作業開始前に、
作業内容
役割分担
設備状態
危険要因
安全対策
連絡方法
などを短時間で確認するミーティングです。
現場によって名称や運用は異なりますが、
考え方としては、
作業前に全員の認識をそろえる
ことが目的です。

KYとリスクアセスメントは同じではない
リスクアセスメント(RA)は、
危険源を体系的に抽出する
↓
リスクを評価する
↓
対策を決める
↓
対策後のリスクを確認する
という仕組みです。
一方、KYやTBMは、
今日の現場条件で、その対策が本当に成立しているかを確認する場
です。
たとえば、
リスクアセスメントでは、
「作業前に設備を停止・隔離する」
と決めていた。
しかし当日、
別班が近くで作業している
足場位置が変わっている
作業者が変更になった
設備の一部が仮復旧中
ということがあります。
つまり、
RAで安全の骨格をつくり、KY・TBMで当日の条件を確認する
という関係です。

非定常作業では「今日の条件」を確認する
定常作業であれば、
設備
作業場所
作業者
工具
作業方法
が大きく変わらないこともあります。
しかし非定常作業では、
条件が変化しやすくなります。
だから作業前ミーティングでは、
単に、
「今日も安全に作業しましょう」
で終わってはいけません。
確認したいのは、
今日の条件です。
たとえば、
設備はどの状態か
どこまで停止しているか
どこを隔離しているか
残留エネルギーはないか
誰が作業するか
誰が責任者か
工具や治具は何を使うか
周囲で何の作業をしているか
作業途中で設備状態が変わる場面はどこか
こうした内容です。

最初に確認するのは「何をするか」
まず、
今日の作業内容
を全員で確認します。
たとえば、
ポンプを分解する
バルブを交換する
配管を開放する
足場を設置する
モーターを点検する
試運転する
といった内容です。
ここで重要なのは、
作業名だけではありません。
どこからどこまでを作業するのか
を明確にします。
「ポンプ点検」
だけでは曖昧です。
カバーを開けるのか
カップリングまで外すのか
モーターを切り離すのか
配管を開放するのか
作業範囲が違えば、危険源も変わります。

次に「設備状態」を確認する
非定常作業では、
設備状態の確認が特に重要です。
運転中なのか
停止中なのか
部分停止なのか
電源は遮断されているのか
バルブは閉じているのか
ブラインドは入っているのか
残圧は抜けているのか
高温ではないか
自動運転が生きていないか
こうした状態を確認します。
重要なのは、
「止まっているように見える」ではなく、「どう止めたか」を共有すること
です。

「誰が何をするか」を決める
非定常作業では、
役割分担が曖昧だと危険です。
作業責任者は誰か
設備を操作する人は誰か
監視する人は誰か
合図する人は誰か
復旧操作をする人は誰か
連絡担当は誰か
これを決めておきます。
複数人作業では、
「誰かがやるだろう」
が事故につながります。
だから、
誰が、何を、いつするのか
まで確認することが重要です。

危険源をもう一度確認する
作業前ミーティングでは、
リスクアセスメントで洗い出した危険源を、
現場条件に合わせてもう一度確認します。
たとえば、
電気
回転体
圧力
高温
重量物
吊り荷
高所
化学物質
酸欠
可燃物
などです。
そして、
今日の作業条件で、その危険源に人が近づく場面はどこか
を考えます。
これだけでも、
危険の見え方がかなり具体的になります。

「作業の途中」を確認する
作業は、
開始時と終了時だけではありません。
停止
↓
隔離
↓
分解
↓
部品交換
↓
組立
↓
復旧
↓
試運転
と状態が変わります。
そこで、
どこで設備状態が変わるのか
どこで危険源が戻ってくるのか
を確認します。
たとえば、
分解時は残圧
組立時は挟まれ
試運転時は回転・通電・圧力
と危険も変わります。
つまり、
作業前KYでは、作業を一本の線ではなく、工程ごとの状態変化として見る
ことが大切です。

周囲の作業も確認する
自分たちの作業だけ見てはいけません。
近くで、
クレーン作業をしていないか
溶接していないか
足場を組み替えていないか
電気作業をしていないか
配管を開放していないか
こうした他作業との干渉を確認します。
非定常作業では、
自分たちの危険だけでなく、周囲から持ち込まれる危険
もあります。
だからTBMでは、
他班との調整も重要になります。

「いつもと違う」を必ず聞く
作業前ミーティングでは、
一つ質問を入れるだけでも効果があります。
「前回と何が違う?」
です。
たとえば、
作業者が違う
工具が違う
足場が違う
設備状態が違う
周辺作業が違う
保護具が違う
時間帯が違う
一つでも違えば、
そこが再確認ポイントです。
つまり、
KY・TBMは変更管理の実行場所でもある
と考えられます。

安全注意事項は具体的にする
よくあるのが、
「挟まれに注意」
「足元注意」
「声掛け徹底」
という言葉です。
もちろん間違いではありません。
しかし、
少し抽象的です。
たとえば、
「ポンプカバーを外すとき、右側フランジとの間に手を入れない」
「吊り荷の下には入らない」
「バルブ開操作は作業責任者の指示後に行う」
「試運転前に全員退避を確認する」
というように、
どこで、何を、どうするか
まで具体化した方が実効性があります。

KYを長くやれば安全になるわけではない
KYやTBMは、
長時間やればよい
というものではありません。
むしろ、
重要な情報が埋もれることがあります。
非定常作業では、
確認すべきことを絞り、
短時間でも、
必要な情報が全員に伝わる
ことが重要です。
たとえば、
今日やること
今日違うこと
今日危ないところ
止める条件
再開する条件
この5点だけでもかなり実用的です。

突発トラブル時こそ短いTBMが必要
突発トラブルでは、
時間がありません。
だからこそ、
ミーティングを省略したくなります。
しかし、
こういうときほど、
情報共有が必要です。
たとえば、
設備が停止した
原因は詰まりらしい
保全担当者が来た
そこで、
「じゃあ始めよう」
ではなく、
1〜2分でもよいので、
何が起きたか
設備はどう止めたか
誰が作業するか
どこが危険か
誰が復旧するか
を共有します。
つまり、
突発時のTBMは、長い会議ではなく、作業開始条件をそろえるための短時間確認
です。

「作業を始めない」という確認も必要
TBMでは、
何をするか
だけでなく、
何が整うまで作業を始めないか
も確認するとよいでしょう。
たとえば、
隔離確認が終わるまで開始しない
責任者が来るまで開始しない
吊り設備の確認が終わるまで開始しない
他作業との調整が終わるまで開始しない
つまり、
開始条件を共有する
ということです。
これは突発トラブル時に特に効きます。

作業途中でも条件が変わったら再TBM
作業前にTBMをしたから、
最後までそのまま進めてよい
わけではありません。
途中で、
工具が変わった
作業方法が変わった
設備状態が変わった
人員が変わった
周辺作業が始まった
ということがあれば、
一度止めて再確認します。
つまり、
TBMは作業開始前だけのものではなく、条件が変わったときにもやり直す
という考え方です。

TBMで確認したい項目
TBMで確認したい項目を下表に整理します。

KY・TBMを形骸化させない
KYやTBMが、
毎日同じ文言
同じ注意事項
同じチェック
になってしまうと、
だんだん考えなくなります。
特に非定常作業では、
毎回条件が違う可能性があります。
だから、
「今日だけ違うことは何か」
を必ず一つ確認する。
これだけでも、
形骸化をかなり防げます。

非定常作業のKY・TBM まとめ
非定常作業では、
設備状態
作業方法
作業者
工具
周辺作業
などが毎回同じとは限りません。
だからこそ、
作業前に、
今日何をするのか
↓
設備はどの状態か
↓
誰が作業するのか
↓
どんな危険源があるのか
↓
前回と何が違うのか
↓
どこまで確認したら作業を始めるのか
を共有することが重要です。
リスクアセスメントで、
安全の骨格をつくる。
変更管理で、
前回との違いを見つける。
KY・TBMで、
その日の条件を全員でそろえる。
この三つは、
別々の活動ではありません。
安全に作業を始めるための一つの流れ
です。
特に突発トラブルでは、
時間がないからこそ、
短くてもよいので、
止める
集まる
確認する
共有する
そして、
安全条件が整ってから作業を始める。
これが大切です。

安全くんの一言
「前回と何が違う? 作業前にみんなで確認しよう!」

<執筆者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業出身の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
材料から設備を診る! 技術経営コンサルタント



