非定常作業では、
いつもと違う設備状態
いつもと違う作業方法
いつもと違うメンバー
いつもと違う周辺作業
が重なります。
このような状況では、
経験のある作業者でも判断が難しくなることがあります。
まして、
新人
配属されたばかりの作業者
応援者
別部署から来た人
協力会社の新規入場者
などにとっては、
何が通常で、
何が異常で、
どこから先が危険なのか
その境界自体が分からないことがあります。
だからこそ、
非定常作業の教育では、
「ちゃんと注意しなさい」
だけでは足りません。
重要なのは、
分からない人が、分からないまま危険な判断をしなくてよい仕組み
をつくることです。
新人は「危険を知らない」のではなく「基準を知らない」
新人教育では、
危険を教える
という表現をよく使います。
もちろんそれは大切です。
しかし実際には、
新人が困るのは、
危険を全く知らないから
だけではありません。
たとえば、
異音がどこまで異常なのか
振動がどの程度なら止めるべきか
バルブの向きがいつもと違うのか
設備停止中にどこまで近づいてよいのか
どの時点で上司を呼ぶべきか
こうした、
判断の基準
がまだ身についていません。
ベテランなら、
「これはいつもと違う」
と気づけても、
新人には、
「こういうものなのかな」
に見えることがあります。
だから非定常作業では、
新人の注意力に期待するより先に、
判断させない仕組み
を考える必要があります。

最初に教えるべきは「安全が第一」
新人教育では、
作業手順
設備構造
工具の使い方
品質
生産性
など、多くのことを教えます。
しかし最初に明確にしておきたいのは、
安全が第一
という優先順位です。
特に大切なのは、
設備を止めてもよい
分からなければ作業を止めてもよい
上司を呼んでもよい
時間がかかってもよい
ということを、言葉として伝えることです。
現場でありがちなのは、
「迷惑をかけたくない」
「遅いと思われたくない」
「こんなことを聞いたら恥ずかしい」
という心理です。
この心理が、
分からないまま作業を続ける
という危険行動につながります。
だから教育では、
「分からないときに止めることは正しい行動」
と繰り返し伝える必要があります。

新人を単独で非定常作業に出さない
非定常作業は、
そもそも経験を積みにくい作業です。
設備トラブル
定期修理
仮復旧
試運転
特殊点検
緊急補修
などは、
毎日同じように発生するわけではありません。
そのため、
新人が十分な経験を積む前に、
実際の非定常作業へ遭遇することがあります。
このとき重要なのが、
単独行動をさせない
ことです。
たとえば、
新人だけで確認に行かせない
新人だけで設備内部を見に行かせない
新人だけで復旧操作をさせない
新人だけでバルブ操作をさせない
新人だけで判断させない
というルールです。
非定常作業では、
経験者とペアで動く
という仕組みが非常に有効です。

「見るだけだから」が危ない
新人に対して、
「ちょっと見てきて」
という指示を出すことがあります。
しかし、
これが危険な場合があります。
最初は、
見るだけ
だったはずが、
近づく
↓
触る
↓
動かす
↓
直そうとする
と行動が変わることがあります。
特に、
簡単そうな異常
ほど危険です。
詰まり
緩み
センサーずれ
軽い漏れ
小さな異音
などは、
「これくらいなら自分でも」
と思わせやすいからです。
新人教育では、
確認と作業は別
であることを教えておく必要があります。

新人には「止め方」を教える
すべてのトラブルの直し方を、
新人に教えることはできません。
設備には、
無数の異常があります。
しかし、
異常が起きたときの初動
なら教えられます。
たとえば、
異常を感じた
↓
触らない
↓
止める
↓
呼ぶ
↓
待つ
という行動です。
新人教育では、
「どう直すか」
より先に、
「どう止めるか」
を教える方が重要です。

「この状態では作業してはいけない」を教える
安全教育では、
何をするか
だけでなく、
何をしてはいけないか
も重要です。
たとえば、
設備状態が分からないまま作業しない
停止確認前に設備内部へ入らない
隔離前にカバーを外さない
単独で高所作業しない
指示なしに復旧操作しない
他班との調整前に作業を始めない
このように、
禁止条件を具体的にする
と分かりやすくなります。
新人にとって、
「安全にやれ」
より、
「この状態では始めない」
の方が判断しやすいことがあります。

過去の災害事例を共有する
新人教育で非常に有効なのが、
過去の災害事例
です。
なぜなら、
単に、
「巻き込まれに注意」
「感電に注意」
と言われるより、
実際に、
どういう状況で事故が起きたのか
を知った方が、
危険のイメージが具体的になるからです。
たとえば、
停止したと思って手を入れたら再起動した
詰まりを取った瞬間に設備が動いた
残圧が抜けていない配管を開放した
他班が送電してしまった
足場変更を知らずに作業を始めた
こうした事例です。
重要なのは、
事故の悲惨さだけを強調することではありません。
どの判断が危険だったのか
を考えることです。

災害体験教育をどう使うか
安全体感設備や災害体験教育も有効です。
たとえば、
挟まれ
巻き込まれ
感電
墜落
重量物落下
などを、
安全に模擬体験する教育です。
実際に体験すると、
「危険とはこういうことか」
という理解が深まります。
ただし、
体験しただけで終わらせない
ことも重要です。
体験後に、
なぜ起きるのか。
どうすれば防げるのか。
現場ではどこに似た危険があるのか。
までつなげます。
つまり、
体験 → 理解 → 現場へ置き換える
という流れです。

新人教育では「問いかけ」が重要
一方的に説明するだけでは、
理解度が分かりません。
そこで、
「この設備が止まったらどうする?」
「このバルブが閉まっていたら何を確認する?」
「この状態で中へ入ってよい?」
「前回と違うところはどこ?」
と問いかけます。
答えを当てさせることが目的ではありません。
重要なのは、
新人がどこまで理解しているかを見ること
です。
そして、
迷っているところを、
その場で補います。

教えたことと、できることは違う
安全教育でありがちなのが、
「説明したから分かっているだろう」
という考えです。
しかし、
聞いた
理解した
できる
判断できる
は、
全部別です。
たとえば、
ロックアウトを説明した。
しかし実際の設備で、
どこを隔離するか分からない。
手順書は読んだ。
しかし、
どこが危険区域か分からない。
こういうことがあります。
だから、
座学だけでなく、
現場で一緒に確認する
必要があります。

OJTは「やらせる」ではなく「一緒に考える」
非定常作業のOJTでは、
単に、
見て覚えろ
では不十分です。
ベテランが、
何を見ているのか
何を危険と判断しているのか
なぜその順番で確認するのか
を言葉にすることが重要です。
たとえば、
「ここは止まっていても圧力が残ることがある」
「このカバーを外す前に電源を確認する」
「この作業は周囲のクレーン作業が終わるまで始めない」
というように、
ベテランの頭の中を見せる
ことです。
これが、
新人に判断の型を教えることになります。

ベテランの「当たり前」を言語化する
ベテランほど、
危険回避を無意識に行っています。
たとえば、
音を聞く
設備の振動を見る
逃げ道を確認する
人の位置を見る
手を置く位置を変える
吊り荷の下に入らない
しかし、
本人はそれを、
特別なことだと思っていないことがあります。
新人教育では、
この、
無意識の安全行動を言語化する
ことが重要です。

新人が「質問しやすい空気」をつくる
教育内容だけでなく、
職場の雰囲気も重要です。
「そんなことも知らないのか」
「前にも言っただろ」
「早くやって」
という雰囲気では、
新人は質問しなくなります。
すると、
分からないまま作業するようになります。
だから、
安全上の質問については、
聞くこと自体を評価する
くらいでよいと思います。
聞かずに進むより、聞いて止まる方が安全です。

「できる作業」と「できない作業」を明確にする
新人教育では、
習熟度に応じて、
作業範囲を決めておくことも重要です。
たとえば、
見学のみ
補助作業まで
単独作業禁止
責任者立会い必須
資格取得後に実施可能
というようにします。
これを曖昧にすると、
「一度見たからできるだろう」
という扱いになりがちです。
だから、
誰がどこまでできるのか
を見える化しておくとよいでしょう。

非定常作業では「経験年数」だけで判断しない
勤続年数が長くても、
その作業を経験しているとは限りません。
たとえば、
運転経験は長い
しかし、
定期修理は初めて
設備保全経験は長い
しかし、
その機種は初めて
ということがあります。
つまり、
会社経験と作業経験は別
です。
非定常作業では、
「この作業を経験したことがあるか」
を見る必要があります。

応援者・協力会社も「新人」と同じ視点で考える
非定常作業では、
応援者
他部署
協力会社
外部業者
が入ることがあります。
この人たちは、
技術的にはベテランでも、
その現場については新人
という場合があります。
設備名称
通路
退避場所
ローカルルール
連絡方法
隔離ルール
を知らないかもしれません。
だから、
現場に不慣れな人は全員「未経験者」として扱う
くらいの考え方が安全です。

新人を守るのは教育だけではない
新人の事故が起きると、
「教育が足りなかった」
で終わりがちです。
しかし、
教育だけで新人を守るのには限界があります。
たとえば、
ガードを付ける
インターロックを設ける
誤操作できない構造にする
作業許可制にする
単独作業を禁止する
こうした、
設備・仕組み側の対策
も必要です。
新人に、
完璧な判断を期待するのではなく、
間違っても重大災害になりにくい仕組み
をつくることが重要です。

新人教育で確認したい項目
新人教育で確認したい項目を表にまとめました。
| 観点 | 確認すること |
|---|---|
| 優先順位 | 安全が第一と理解しているか |
| 初動 | 異常時に止める・呼ぶ・待つができるか |
| 単独作業 | 一人でやってよい範囲を理解しているか |
| 設備状態 | 運転・停止・隔離の違いを理解しているか |
| 危険源 | 電気・圧力・回転・高温などを理解しているか |
| 禁止事項 | 何をしてはいけないか理解しているか |
| 連絡 | 誰を呼ぶか分かっているか |
| 経験 | その作業を実際に経験しているか |
| 復旧 | 勝手に復旧操作しないことを理解しているか |
| 質問 | 分からないときに聞ける状態か |
新人教育を形骸化させない
新人教育も、
資料を読ませる
動画を見る
署名する
だけになると、
形骸化します。
大切なのは、
現場で、
「この設備で一番怖いのは何?」
「もし止まったらどうする?」
「前回と違ったらどうする?」
と、
実際の設備を前にして確認することです。
つまり、
資料を覚える教育から、判断できる教育へ
変えていく必要があります。

非定常作業の教育 まとめ
非定常作業では、
設備状態
作業方法
周辺作業
危険源
が毎回同じとは限りません。
そのため、
新人や未経験者に、
「気をつけて作業しなさい」
だけでは十分ではありません。
大切なのは、
安全が第一であることを明確にする。
単独行動をさせない。
異常時は止める・呼ぶ・待つを教える。
過去災害から危険を具体的に学ぶ。
現場でOJTを行う。
分からないときに質問できる雰囲気をつくる。
そして、
設備や仕組みでも新人を守る。
ということです。
非定常作業では、
経験の少ない人に、
ベテランと同じ判断を求めてはいけません。
新人を教育して強くすることも大切ですが、それ以上に、新人が危険な判断を一人でしなくてよい現場をつくることが重要です。

安全くんの一言
「新人に判断を任せすぎないことも、大切な安全対策だよ!」

<執筆者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業出身の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
材料から設備を診る! 技術経営コンサルタント



