はじめに
前回は、過熱器管や再熱器管の材料選定について解説しました。

高温伝熱管ではメタル温度、許容引張応力、クリープ強度、耐水蒸気酸化性、耐高温腐食性などを考慮し、使用条件に応じて材料を使い分けています。
一方、ボイラには、これらの伝熱管よりもはるかに大きな外径と肉厚を持つ耐圧部材があります。
それが管寄せと主蒸気管です。
管寄せや主蒸気管等は高温高圧の蒸気を保持するため、長時間の高温使用に耐えられる強度が必要です。
内圧による応力を低減するには、管の肉厚を厚くすることが有効です。
ところが、肉厚を厚くすると、起動停止時に管の内外面に温度差が生じやすくなり、熱応力が大きくなる場合があります。
つまり、内圧に対する強度を確保するための厚肉化が熱疲労の観点では不利になるのです。
この相反する要求をどのように両立させるのか。
今回は、管寄せ・主蒸気管の材料選定について、高温強度、熱応力、クリープ損傷、熱疲労、加工・溶接性という視点から考えてみます。
管寄せと主蒸気管とは|伝熱管との違い
① 管寄せの役割
管寄せは多数の伝熱管を接続し、内部を流れる水や蒸気を集めたり、分配したりする耐圧部材です。
例えば、過熱器入口管寄せでは、流入した蒸気を多数の過熱器管へ分配します。
一方、過熱器出口管寄せでは、それぞれの伝熱管で加熱された蒸気を集めます。
特に最終過熱器出口管寄せには、主蒸気温度に近い高温の蒸気が流れ、高い圧力も作用します。
そのため、ボイラの管寄せの中でも厳しい使用条件にさらされる部材の一つです。
② 主蒸気管の役割
主蒸気管は、ボイラの過熱器出口から高圧蒸気タービンへ蒸気を送る配管です。
主蒸気管には高温高圧の蒸気が流れ、内部圧力による応力が作用します。
また、配管の熱膨張、支持条件、自重などによっても応力が生じます。
さらに、ボイラの起動停止や負荷変化によって蒸気温度が変動します。
このため、主蒸気管では内圧に対する強度だけでなく、熱応力や長時間使用中のクリープ強度についても十分な配慮が必要です。
③ なぜ伝熱管より厚肉になるのか
過熱器管や再熱器管は熱を受けて蒸気を加熱するため、多数の比較的小径の鋼管によって構成されています。
これに対して、管寄せや主蒸気管は、大量の蒸気を集めたり輸送したりするため、大きな流路断面積が必要になります。
同じ内圧と許容引張応力の条件では、一般に管径が大きくなるほど必要肉厚も大きくなります。
その結果、管寄せや主蒸気管は大径厚肉の耐圧部材となります。

材料選定が難しい大径厚肉部材
内圧を受ける鋼管では、管の円周方向や軸方向に応力が発生します。
一般に、内圧による円周方向の応力は、管径が大きいほど高くなり、肉厚が大きいほど低くなります。
したがって、高い圧力に耐えるには、十分な管肉厚を確保する必要があります。
しかし、管寄せや主蒸気管は高温で使用されます。
高温で長時間にわたって応力が作用すると、材料にはクリープ変形やクリープ損傷が生じる可能性があります。
これを抑えるためには、許容引張応力やクリープ強度の高い材料を使用するか、肉厚を増加させて発生応力を低減する必要があります。
ところが、肉厚を増やすことには別の問題があります。
起動停止時の熱応力です。
厚肉化のジレンマ|クリープ損傷と熱疲労の相反関係
管寄せや主蒸気管では、内圧による応力と熱応力の両方を考える必要があります。
① 肉厚を厚くすると内圧応力は小さくなる
内圧を受ける鋼管では、肉厚を増加させると内圧による発生応力を低減できます。
したがって、同じ材料を使用する場合、厚肉化はクリープ損傷を軽減する方向に働きます。
ただし、大径厚肉部材の応力評価では、薄肉円筒の近似式だけでは十分ではなく、厚肉円筒としての応力分布や開口部の影響などを考慮する必要があります。
② 肉厚を厚くすると熱応力が大きくなりやすい
一方、ボイラの起動時には、高温の蒸気が管寄せや主蒸気管の内部に流入します。
このとき、管内面は蒸気によって先に加熱されますが、管外面の温度上昇は遅れます。
そのため、管の内外面に温度差が生じます。
この温度差によって、管壁内部では熱膨張量に違いが生じ、熱応力が発生します。
特に厚肉部材では、肉厚方向の温度差が大きくなりやすく、熱応力が増大する場合があります。
停止時や冷却時にも、温度変化の進行に応じて熱応力が発生します。
起動停止を繰り返す設備では、この熱応力が繰り返し作用するため、熱疲労損傷への配慮が必要になります。
③ 強度と熱応力の両立が難しい
ここで重要なのは、二つの要求が相反することです。
肉厚を厚くする
→ 内圧応力を低減できる。
→ しかし、肉厚方向の温度差による熱応力が大きくなりやすい。
肉厚を薄くする
→ 温度差や熱応力を低減しやすい。
→ しかし、同じ材料では内圧応力が高くなる。
したがって、単純に肉厚を厚くするだけでは、クリープ損傷と熱疲労損傷の両方を抑えることはできません。
そこで必要になるのが、高温強度に優れた材料の採用です。
高強度材料を使用して必要肉厚を小さくできれば内圧に対する強度を確保しながら熱応力の低減も期待できます。
これが、大径厚肉部に高強度フェライト系耐熱鋼が使用される重要な理由の一つです。

管台・リガメント部では応力集中にも注意する
管寄せは、単純な円筒ではありません。
多数の伝熱管が接続されるため、管寄せ本体には多くの管台や開口部が設けられています。
このような形状不連続部では応力集中が生じます。
特に注意が必要なのが、過熱器管のスタブ管台や主蒸気管との接続管台、隣接する管台開口部の間にあるリガメント部です。
これらの部位では内圧による応力に加えて、熱応力や接続管から伝わる荷重が作用する場合があります。
そのため、管寄せ本体の一般部よりも、クリープ損傷や疲労損傷が進行しやすい箇所となることがあります。
つまり、管寄せの健全性を考える際には、材料の高温強度だけでなく、管台配置や開口部の形状、溶接構造まで考慮する必要があるのです。

管寄せ・主蒸気管の適用部材
管寄せや主蒸気管には、使用温度と圧力に応じて、炭素鋼、Cr-Mo系低合金鋼、高Crフェライト系耐熱鋼が使用されます。
代表的な材料系統は次のとおりです。

※鋼種記号は主として配管用鋼管の例です。管寄せには鋼管以外の製品形態が使用される場合もあり、実際の選定は適用規格と設計条件に基づいて行います。
① 従来のCr-Mo系低合金鋼
従来の高温配管では、2.25Cr-1Mo鋼などのCr-Mo系低合金鋼が広く使用されてきました。
CrやMoの添加によって高温強度を改善できますが、蒸気条件が高温高圧化すると、必要な強度を確保するために肉厚が増加します。
厚肉化が進むと、前述した起動停止時の熱応力が問題となります。
② P91・P92などの高強度フェライト系耐熱鋼
この問題に対応するために開発されたのが、P91やP92などの高強度フェライト系耐熱鋼です。
これらの材料では、焼戻しマルテンサイト組織と微細な析出物によって、高温でのクリープ強度を高めています。
高温強度の向上によって、従来鋼より小さな肉厚で必要な内圧強度を確保できる場合があります。
さらに、フェライト系鋼はオーステナイト系ステンレス鋼と比較して熱膨張係数が小さいため、熱応力の観点からも有利です。
つまり、高強度フェライト系耐熱鋼の重要性は、単にクリープ強度が高いことだけではありません。
高温強度、肉厚、熱物性の組合せによって、大径厚肉部材の設計上の制約を緩和できることにあります。

高強度材料を使えば問題は解決?
高強度フェライト系耐熱鋼には多くの利点があります。
しかし、材料の高温強度を向上させれば、すべての問題が解決するわけではありません。
管寄せや主蒸気管では、材料の製造や溶接、曲げ加工にも十分な配慮が必要になります。
① 大径厚肉材の溶接性
大径厚肉材の溶接では溶接部に大きな入熱履歴が生じ、継手の組織や硬さが変化します。
高Crフェライト系耐熱鋼では、適切な溶接施工条件や溶接後熱処理によって、必要な継手特性を確保することが重要です。
また、長時間使用中の溶接部強度も評価しなければなりません。
② 大径管の曲げ加工性
主蒸気管などでは、配管の取り回しに応じて曲げ加工が必要になります。
大径厚肉管では、曲げ加工時の変形や板厚変化だけでなく、加熱加工後の金属組織や機械的性質も重要です。
高強度材料を採用する場合には、製造・加工工程を通じて必要な性能を確保できることが前提となります。
③ 長時間使用中の組織安定性
P91やP92などの高強度フェライト系耐熱鋼では、微細な析出物や転位組織などがクリープ強度を支えています。
しかし、長時間の高温使用によって析出物の粗大化や組織回復などが進むとクリープ強度が低下する可能性があります。
したがって、母材の高温強度だけでなく、溶接部を含めた長時間の組織安定性を評価する必要があります。

材料選定では構造と経済性も両立させる
大径厚肉部材の材料選定では、材料そのものの性能だけでなく、構造設計との組合せも重要です。
例えば、高強度材料を使用すると、必要肉厚を小さくできる場合があります。
これは熱応力の低減に加えて、鋼管重量の削減にもつながります。
一方、高強度材料は材料単価が高く、溶接施工や熱処理に必要な費用も増える場合があります。
また、管寄せ本数や接続管台の数を増やし、一本当たりの管寄せを小径化する方法もあります。
この場合、管寄せの肉厚を小さくしやすくなりますが、部品点数や溶接箇所が増えるため、製造費用や検査・維持管理への影響を考えなければなりません。
したがって、最適な材料選定は、鋼種だけで決められるものではありません。
材料強度、管径、肉厚、管台配置、溶接施工性、運転条件、経済性を組み合わせて考えることが必要です。

まとめ|厚肉部材では強度と熱応力を考慮
管寄せや主蒸気管は、高温高圧の蒸気を保持・輸送する大径厚肉の耐圧部材です。
これらの部材では、内圧による応力を低減するため、十分な肉厚が必要になります。
しかし、厚肉化すると起動停止時の温度差による熱応力が大きくなりやすくなります。
したがって、材料選定では、クリープ強度だけでなく、熱疲労に対する配慮も欠かせません。
このような要求に対応するため、P91やP92などの高強度フェライト系耐熱鋼が開発・実用化されてきました。
ここで重要なのは、
大径厚肉部材の材料選定では、高温強度を高めることと熱応力を低減することを両立させなければならない
ということです。
さらに、管台やリガメント部の応力集中、溶接部の長時間強度、加工性、経済性まで考慮する必要があります。

参考文献
[1] 「Ⅲ.ボイラの構造」『火力原子力発電』第74巻,第6号,2023年,pp.28–37
[2] 山内秀紀・大倉一・椎橋啓・大島道雄・常松之忠・馬木秀雄(2002)「Ⅲ.ボイラ・環境設備の設計と材料」『火力原子力発電』第53巻,第10号,pp.1177–1220
くろがねくんの一言
「管寄せや主蒸気管は、肉厚を厚くすれば安心というわけじゃないんだ!内圧による応力は減らせても、起動停止時の熱応力は大きくなりやすい。だから、高強度材料を使って強度と熱疲労への強さを両立させることが大切なんだよ!」

<執筆者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業 出身 の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
材料から設備を診る! 技術経営コンサルタント





