発電用ボイラには、高温・高圧の水や蒸気が流れています。
その圧力に耐えるため、ボイラの伝熱管や主蒸気管などには、十分な肉厚が必要です。
しかし、肉厚は厚ければ厚いほどよいというわけではありません。
肉厚を大きくすると、管の重量や材料使用量が増えます。
また、高温の伝熱管では、肉厚が大きくなると熱伝達にも影響します。
管寄せや主蒸気管のような厚肉部材では、起動停止時の内外面温度差による熱応力も問題になります。
そのため、ボイラ管では、必要な強度を確保しながら、合理的な肉厚を設定することが重要になります。
では、ボイラ管の肉厚は何によって決まるのでしょうか。
基本となるのは、
内圧
管の外径
材料の許容引張応力
の3つです。
さらに実際の設計では、管の使用温度、製造公差、腐食・摩耗、加工条件なども考慮する必要があります。
今回は、発電用火力設備の技術基準を踏まえ、ボイラ管の必要肉厚がどのように決まるのかを解説します。
ボイラ管の必要肉厚
ボイラ管の必要肉厚とは、簡単に言えば、
管内の圧力に対して、耐圧上必要となる最小限の肉厚
です。
発電用ボイラの伝熱管や主蒸気管には、内部から高い圧力が作用します。
管内の圧力は、管を周方向に引き伸ばそうとする力を発生させます。
このとき管壁に発生する応力を、円周方向応力あるいはフープ応力と呼びます。
管の肉厚が小さいほど、同じ圧力に対して発生する応力は大きくなります。
反対に、肉厚が厚いほど、発生する応力は小さくなります。
したがって、ボイラ管は、使用条件において発生する応力が材料の許容応力を超えないように設計しなければなりません。

発電用火力設備の技術基準ではどう定められているのか
「発電用火力設備に関する技術基準を定める省令」第6条では、耐圧部分が最高使用圧力又は最高使用温度において発生する最大の応力に対して安全であり、材料の許容応力を超えないことが求められています。
また、「発電用火力設備の技術基準の解釈」(以下、火技解釈)第12条では、管及び管台の必要肉厚について規定されています。
例えば、外径127mm以下の水管、過熱器管、再熱器管、節炭器管などについては、JIS B 8201(2013)「陸用鋼製ボイラ-構造」の6.8.2に示された計算式を用います。
つまり、発電用ボイラの肉厚設計では、材料強度と管の寸法を、設計規則に基づいて関連づける必要があるのです。
内圧によって管に作用する応力
まず、内圧を受ける円筒形の管を考えてみましょう。
管内に圧力が作用すると、管を外側に押し広げようとする力が発生します。
これに抵抗するのが管壁の材料です。
薄肉円筒の近似では円周方向応力は次の式で表されます。
円周方向応力 ≒ 内圧 × 管内径 ÷(2 × 肉厚)
記号を用いると、
σθ ≒ PDi / 2t
となります。
ここで、
- σθ:円周方向応力(MPa)
- P:内圧(MPa)
- Di:管内径(mm)
- t:管肉厚(mm)
です。
この式から、次の関係がわかります。
内圧が高いほど円周方向応力(フープ応力)は大きくなる。
管径が大きいほど円周方向応力は大きくなる。
肉厚が厚いほど円周方向応力は小さくなる。
つまり、同じ材料を使用する場合、圧力や管径が大きくなれば、必要な肉厚も大きくなるのです。
ただし、これは薄肉円筒の応力関係を表す近似式です。
実際の発電用ボイラでは、この式をそのまま必要肉厚の設計式として用いるわけではありません。

発電用ボイラ管における必要肉厚の設定
火技解釈第12条が引用するJIS B 8201(2013)の6.8.2では、外径127mm以下の対象鋼管について、次の計算式が定められています。
t = Pd /(2σa + P)+ 0.005d + α
各記号の意味は次のとおりです。
| 記号 | 意味 | 単位 |
|---|---|---|
| t | 管の最小厚さ | mm |
| P | 最高使用圧力 | MPa |
| d | 管の外径 | mm |
| σa | 材料の許容引張応力 | MPa |
| α | 規定された付け代 | mm |
火技解釈では、ころ広げによって取り付けるもの以外について、付け代αを0としています。
したがって、一般的な溶接接続の対象伝熱管を、α=0として計算する場合には、
t = Pd /(2σa + P)+ 0.005d
となります。
ここで注目したいのは、管の寸法として内径ではなく外径を用いていることです。
鋼管の製品寸法は、一般に外径と肉厚を基本として表されます。
また、計算式には、薄肉円筒の近似式とは異なる項が含まれています。
つまり、単に円周方向応力を計算することと、規格に基づいて必要肉厚を算定することは区別しなければなりません。
なお、外径127mmを超える伝熱管や蒸気管については、JIS B 8201の6.8.4に規定された別の計算式などを使用します。
すべてのボイラ管に同じ式を適用できるわけではありません。

圧力・外径・材料強度と必要肉厚の関係
では、実際に数値を使って計算してみましょう。
ここでは、外径50.8mmのボイラ伝熱管を考えます。
計算条件は次のとおりです。
| 項目 | 条件 |
|---|---|
| 最高使用圧力 | 20MPa |
| 管外径 | 50.8mm |
| 許容引張応力 | 100MPa |
| 付け代α | 0mm |
先ほどの式に代入すると、
t =(20 × 50.8)/(2 × 100 + 20)+ 0.005 × 50.8
となります。
計算結果は、
t ≒ 4.87mm
です。
この条件では、耐圧計算上、約4.87mmの最小厚さが必要になることがわかります。
① 圧力が高くなると必要肉厚は大きくなる
まず、管外径と材料の許容引張応力を変えずに、圧力だけを20MPaから25MPaに変更します。
| 最高使用圧力 | 計算上の必要肉厚 |
|---|---|
| 20MPa | 4.87mm |
| 25MPa | 5.90mm |
圧力を高くすると、必要肉厚も大きくなります。
高圧化したボイラでは、同じ外径の管を使用する場合でも、より大きな肉厚が必要になるのです。
② 外径が大きくなると必要肉厚は大きくなる
次に、圧力と許容引張応力を変えず、管外径だけを変更します。
| 管外径 | 計算上の必要肉厚 |
|---|---|
| 50.8mm | 4.87mm |
| 63.5mm | 6.09mm |
管外径が大きくなると、必要肉厚も大きくなります。
これは、同じ圧力でも、径の大きい管ほど、管を周方向に引き伸ばそうとする力が大きくなるためです。
③ 許容引張応力が高くなると必要肉厚を小さくできる
最後に、圧力と外径はそのままにして、材料の許容引張応力を100MPaから150MPaに変更します。
| 許容引張応力 | 計算上の必要肉厚 |
|---|---|
| 100MPa | 4.87mm |
| 150MPa | 3.43mm |
許容引張応力が高い材料を使用すると、同じ圧力・外径条件でも、計算上の必要肉厚を小さくできることがわかります。
これが、高強度材料をボイラ管に使用するメリットの一つです。
ただし、以上は関係を理解するための仮想計算です。許容引張応力は実在材料の規格値を引用したものではなく、必要肉厚も製品の呼び厚さを示しているわけではありません。

計算上の必要肉厚と実際の管の肉厚は同じではない
ここまでの計算で、必要肉厚を求めることができました。
しかし、計算結果が4.87mmだからといって、必ず肉厚4.87mmの管を指定すればよいわけではありません。
実際の鋼管には、製造上の寸法公差があります。
例えば、呼び厚さが5.0mmであっても、製品規格で認められた負の公差によって、実際の肉厚が5.0mmより小さくなる場合があります。
したがって、製造公差を考慮しても必要最小厚さを確保できる呼び厚さを選ばなければなりません。
仮に、肉厚の負の公差が10%である場合を考えます。
必要最小厚さが4.87mmであれば、
呼び厚さ ≧ 4.87 ÷ 0.9
となり、
呼び厚さ ≧ 約5.41mm
が必要です。
この仮定では、例えば呼び厚さ5.5mmであれば、負の公差を考慮した肉厚は4.95mmとなり、必要最小厚さ4.87mmを上回ります。
ただし、ここで用いた10%は説明用の仮定であり、実際には鋼管の製品規格に定められた肉厚公差を確認する必要があります。
さらに、実際の仕様決定では、腐食・摩耗代、曲げ加工による減肉、溶接施工なども考慮します。
このため、
計算上の必要最小厚さと、実際に指定する鋼管の呼び厚さは区別する必要がある
のです。

使用温度を考慮した必要肉厚の検討
ボイラ管の必要肉厚を決める際に、もう一つ重要なのが材料の使用温度です。
前回の記事で説明したように、材料の許容引張応力は温度によって変化します。
一般に、温度が高くなるほど、許容引張応力は低下します。
そのため、同じ圧力・外径の管であっても、使用温度が高くなると必要肉厚が大きくなる場合があります。
例えば、過熱器管や再熱器管では、燃焼ガスから熱を受けて内部の蒸気を加熱しています。
このとき、管壁のメタル温度は蒸気温度より高くなる場合があります。
つまり、
蒸気温度が600℃だからといって、材料温度をそのまま600℃としてよいとは限らない
ということです。
火技解釈第12条では、内部流体が熱を吸収する管について、許容引張応力を決定する温度として管壁の平均温度を用いることが示されています。
したがって、高温伝熱管では、材料の温度条件を適切に設定することが重要になります。
材料温度を低く見積もってしまうと、実際より高い許容引張応力を使用することになり、必要肉厚を過小評価するおそれがあります。
また、必要肉厚を厚くすれば、すべての高温問題が解決するわけではありません。
過熱器管や再熱器管では、耐水蒸気酸化性や耐高温腐食性も重要です。
さらに、管壁の温度分布や起動停止時の熱応力なども、設備の健全性に影響します。
つまり、高温ボイラの材料選定では、圧力だけでなく、温度と使用環境を合わせて考える必要があるのです。

高強度材料の使用による薄肉化のメリット
高温でも高い許容引張応力を持つ材料を使用すれば、必要肉厚を小さくできる場合があります。
このことは、設備設計にいくつかのメリットをもたらします。
① 材料使用量と重量の低減
肉厚を小さくできれば、同じ外径・長さの管で使用する材料の量が減少します。
その結果、設備重量の軽減につながります。
ボイラには多数の伝熱管が使用されるため、管1本あたりの重量差が設備全体では大きな差になる場合があります。
② 熱伝達への影響
伝熱管では、燃焼ガスから受け取った熱を、管壁を通して内部の水や蒸気へ伝えています。
肉厚が大きいほど、一般に管壁の熱伝導抵抗は大きくなります。
このため、肉厚の低減は熱伝達上有利に働く場合があります。
ただし、実際の熱伝達は、材料の熱伝導率、管内外の熱伝達率、付着物などにも影響されます。
肉厚だけで伝熱性能が決まるわけではありません。
③ 厚肉部材では熱応力の低減にもつながる
特に、管寄せや主蒸気管のような厚肉部材では、起動停止時の熱応力が重要になります。
肉厚が大きいと、内外面に温度差が生じやすくなります。
そのため、高温強度の高い材料を使用して必要肉厚を小さくできれば、温度差に起因する熱応力の低減にも有利になる場合があります。
ただし、管寄せや大径配管の必要肉厚は、今回紹介した小径伝熱管の計算式とは異なる設計規則によって求められます。
また、薄肉化による利点は、使用条件や材料の熱物性によっても異なります。
つまり、
材料の高温強度の向上は、必要肉厚だけでなく、設備の構造や運用特性にも影響を与える
ということです。

ボイラ管仕様の決定因子
ここまで、内圧・外径・許容引張応力と必要肉厚の関係を説明してきました。
しかし、実際のボイラ管の仕様決定は、必要肉厚の計算だけでは完結しません。
例えば、管の外面では、高温の燃焼ガスや灰による腐食・摩耗が問題になることがあります。
一方、管内面では、高温蒸気による酸化スケールの形成が問題になる場合があります。
また、長時間の高温使用では、材料の金属組織が変化し、クリープ強度が低下することがあります。
溶接部の健全性も重要です。
特に高Crフェライト系耐熱鋼では、溶接熱影響部のType IVクリープ損傷に注意が必要です。
したがって、ボイラ管の仕様を決める際には、
- 最高使用圧力と管外径
- 設計上の材料温度と許容引張応力
- 必要最小厚さと製造公差
- 腐食・摩耗や酸化の影響
- 曲げ加工や溶接施工性
- 長時間使用時の材料健全性
などを総合的に考える必要があります。
つまり、
必要肉厚の計算はボイラ管の仕様決定の出発点であって、最終的な仕様決定そのものではない
ということです。

ボイラ管の必要肉厚 まとめ
発電用ボイラの伝熱管では、高温・高圧の水や蒸気に耐えるため、十分な肉厚が必要です。
必要肉厚を決める基本的な要素は、
内圧・外径・材料の許容引張応力
です。
内圧が高くなれば、必要肉厚は大きくなります。
外径が大きくなれば、必要肉厚は大きくなります。
一方、許容引張応力が高い材料を使用すれば、同じ圧力・外径条件で必要肉厚を小さくできる場合があります。
しかし、実際のボイラ管の仕様は、それだけで決まるものではありません。
材料の使用温度、製造公差、腐食・摩耗、溶接性なども考慮する必要があります。
また、高温で長期間使用する設備では、材料の経年劣化やクリープ強度の変化も重要になります。
つまり、
ボイラ管の必要肉厚は、圧力・管径・材料強度から決まり、その仕様は使用条件と長期信頼性を踏まえて決定される
ということです。
前回の記事では、許容引張応力が材料の強度特性を設計に反映する基本的な数値であることを説明しました。
今回の必要肉厚の計算では、その許容引張応力が、実際の管の寸法にどのように反映されるのかを見てきました。
材料強度がわかると、なぜその肉厚が必要なのかが理解できるようになります。
そして、材料強度と管の寸法を結びつけて考えることは、ボイラの設計だけでなく、長期間使用した設備の健全性評価を理解することにもつながります。

参考資料
- 経済産業省「発電用火力設備に関する技術基準を定める省令」第6条
- 経済産業省「発電用火力設備の技術基準の解釈」第4条・第12条
- JIS B 8201(2013)「陸用鋼製ボイラ-構造」6.8.2、6.8.4
- 日本機械学会「発電用火力設備規格」関連規定
※本記事の計算例は、必要肉厚と各設計因子の関係を説明するためのものです。実機への適用に当たっては、最新の適用規格、製品規格、材料温度、継手条件などを確認し、必要な強度評価を行ってください。
くろがねくんの一言
「ボイラ管の肉厚は、圧力・外径・材料の強さで決まるんだ!でも、計算した必要肉厚だけじゃ不十分。製造公差や腐食・摩耗も考えて、最適な管の仕様を決めることが大切だよ!」

<執筆者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業 出身 の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
材料から設備を診る! 技術経営コンサルタント





