工場やプラントでは、
通常運転
↓
点検
↓
補修
↓
異常処置
↓
設備停止
↓
復旧
↓
試運転
といったさまざまな作業が行われます。
このうち、通常の運転状態から外れて行われる作業が、
非定常作業
です。
非定常作業では、しばしば労働災害のリスクが高くなります。
では、なぜなのでしょうか。
単に、
「いつもと違う作業だから危険」
というだけではありません。
非定常作業では、
経験不足
↓
手順不足
↓
その場での判断
↓
単独作業
↓
設備停止・隔離の不十分さ
↓
関係者間の連絡不足
など、複数の要因が重なりやすくなります。
今回は、非定常作業で災害リスクが高くなる理由を整理します。
非定常作業は経験する機会が少ない
まず大きな特徴が、
作業経験の少なさ
です。
定常作業は、
毎日
毎週
毎月
のように繰り返します。
そのため、作業者には次第に、
「この音はおかしい」
「ここには手を入れてはいけない」
「この操作をすると、次にここが動く」
といった感覚が身についていきます。
しかし、非定常作業は違います。
定期修理なら年に一度
大型設備の分解点検なら数年に一度
設備故障への対応なら、いつ発生するかさえ分かりません。
つまり、
作業を経験する機会そのものが少ない
のです。

「知っている」と「できる」は違う
作業手順書を読めば、
作業の流れを知ること
はできます。
しかし、
実際の現場で安全に作業できること
とは別です。
たとえば、
バルブを閉める
↓
圧力を抜く
↓
設備を開放する
という手順を知っていても、
どのバルブを閉めるのか
どこに残圧が残りやすいのか
実際にゼロ圧になったことをどう確認するのか
まで理解していなければ、安全な作業はできません。
非定常作業では、この
「知識」と「実作業経験」の差
が大きくなりやすいのです。

標準作業だけでは対応できない
定常作業では、
作業条件
設備状態
作業場所
使用工具
などが比較的一定しています。
そのため、
標準作業手順を作りやすい
という特徴があります。
一方、非定常作業では、
設備状態そのものが通常とは異なる
ことがあります。
たとえば設備故障では、
前回と今回で故障箇所が違う。
詰まり方が違う。
周囲の設備状態が違う。
作業できる場所が違う。
といったことが起こります。
その結果、
標準手順だけでは対応できない場面
が発生します。

「今回はこうしよう」が増える
すると現場では、
「今回はここから外そう」
「今回はこの工具を使おう」
「この方法なら早い」
といった、
その場での判断
が増えます。
この判断そのものが悪いわけではありません。
設備トラブルでは、現場判断が必要なこともあります。
問題なのは、
十分なリスク確認をしないまま方法だけを変更すること
です。
つまり、
標準から外れる
↓
その場で判断する
↓
危険源の確認が追いつかない
↓
災害につながる
という流れが生まれやすくなります。

単独作業になりやすい
非定常作業では、
一人で様子を見に行く
ことがあります。
たとえば、
異音がした
↓
設備担当者が見に行く
センサーが異常を示した
↓
保全担当者が確認する
設備が途中停止した
↓
近くの作業者が原因を確認する
といった場面です。
ここで問題になるのが、
最初は「確認だけ」のつもりだった
というケースです。

確認作業が、そのまま処置作業になる
設備を見に行く。
すると、
「少し詰まっているだけだ」
「これならすぐ取れそうだ」
と思います。
そこで、
確認
↓
手を出す
↓
詰まりを取る
↓
設備を触る
と、いつの間にか
確認作業が補修・異常処置作業へ変わってしまう
ことがあります。
しかも、その場には他の作業者がいません。
何かあっても助けを呼べない。
誰も設備を操作していることを知らない。
これが単独作業の怖さです。

設備停止が不十分になりやすい
非定常作業で特に重要なのが、
設備を止めること
です。
しかし、
停止ボタンを押した
だけで安全になったとは限りません。
設備には、
電気
油圧
空気圧
蒸気圧
回転体の惰性
バネの力
重力
高温部
蓄積された位置エネルギー
などが残っている場合があります。
つまり、
停止していることと、危険なエネルギーが遮断されていることは別
なのです。
「停止」と「隔離」を分けて考える
停止とは、
設備の動作を止めること
です。
一方、隔離とは、
設備へ危険なエネルギーが入らない状態にすること
です。
たとえば、
モーターを停止した
↓
でも電源は生きている
バルブを閉めた
↓
でも別系統から圧力が入る
油圧装置を停止した
↓
でもアキュムレータに圧力が残っている
という場合があります。
非定常作業では、
止めたつもり
ではなく、
停止
↓
隔離
↓
残留エネルギー放出
↓
安全確認
まで行う必要があります。

「すぐ終わる」が停止を甘くする
突発的な非定常作業では、
「少し見るだけ」
「すぐ取れる」
「一分もかからない」
という心理が働きやすくなります。
すると、
正式に設備を止める
↓
隔離する
↓
ロックする
↓
確認する
という手順が、
大げさに感じられる
ことがあります。
しかし重大災害は、
「ちょっとだけ」
という作業で起きることがあります。
作業時間の長さと、災害の重大さは関係ありません。

連絡不足が起きやすい
非定常作業では、
設備状態が通常とは異なります。
そのため、
誰が、どこで、何をしているのか
を共有することが重要です。
しかし実際には、
「設備を見に行ったことを伝えていなかった」
「別の班が作業しているとは知らなかった」
「点検が終わったと思っていた」
「もう誰もいないと思って設備を動かした」
といったことが起こります。

一人ひとりは正しい行動をしていても事故になる
ここが非定常作業の難しいところです。
A班は設備を点検している。
B班は電気系統を復旧している。
C班は試運転の準備をしている。
それぞれは自分の役割を正しく実施していても、
設備全体の状態を共有していなければ事故になる
可能性があります。
つまり、
非定常作業では、
個人の安全行動だけでなく、関係者間の情報共有
が重要になります。

作業者と設備操作者が別になる
大規模な設備では、
作業する人
と
設備を操作する人
が別の場合があります。
たとえば、
現場で保全員が点検している
↓
中央操作室では運転員が設備を監視している
という状況です。
現場では、
「まだ作業中」
と思っている。
一方、操作室では、
「作業完了」
と思っている。
この認識のずれは非常に危険です。
特に、
停止
隔離
復旧
試運転
と設備状態が変化するときには、
誰が設備状態を管理しているのか
を明確にする必要があります。

混在作業によって危険源が増える
定期修理などでは、
機械作業
電気作業
溶接作業
配管作業
足場作業
クレーン作業
などが同時に行われることがあります。
こうした混在作業では、
自分たちの作業だけを見ていてはいけません。
たとえば、
クレーンで吊り荷が移動する。
別の班がバルブを操作する。
電気班が電源を復旧する。
足場が組み替えられる。
つまり、
別の作業によって、自分の作業環境が変化する
可能性があります。
非定常作業では、こうした相互干渉もリスクを高めます。

「早く復旧したい」という時間的圧力
設備が突然止まると、
現場には時間的な圧力がかかります。
生産設備なら、
「ラインを早く動かしたい」
プラントなら、
「早く正常運転へ戻したい」
という心理が働きます。
すると、
確認
↓
停止
↓
隔離
↓
危険源確認
↓
作業
という本来の順番よりも、
異常発生
↓
すぐ見に行く
↓
原因を探す
↓
その場で直す
という行動が先になりやすくなります。
つまり、
「急ぐ」という心理そのものがリスク要因
になります。

経験者ほど危ない場合もある
少し意外かもしれませんが、
経験が多ければ必ず安全
とも限りません。
経験者は、
「このトラブルなら知っている」
「前もこうだった」
「この程度なら大丈夫」
と判断できます。
これは強みです。
しかし一方で、
過去の経験が思い込みにつながる
こともあります。
前回は同じように見えても、
今回は設備状態が違うかもしれません。
圧力が残っているかもしれません。
別の作業が行われているかもしれません。
非定常作業では、
経験を使いながらも、
今の設備状態を改めて確認する
ことが重要です。

非定常作業で重なりやすい危険要因
整理すると、非定常作業では次のような要因が重なりやすくなります。
| 要因 | 非定常作業で起こりやすいこと |
|---|---|
| 経験不足 | 作業機会が少なく、習熟しにくい |
| 手順不足 | 標準手順だけでは対応できない |
| 現場判断 | 「今回はこうしよう」が増える |
| 単独作業 | 確認だけのつもりが処置作業へ変わる |
| 停止不足 | 「止まっている=安全」と考えてしまう |
| 隔離不足 | 電気・圧力・重力などが残る |
| 連絡不足 | 作業者と操作者で認識がずれる |
| 混在作業 | 他作業によって設備状態が変化する |
| 時間的圧力 | 復旧を急ぎ、安全確認を省略しやすい |
| 思い込み | 過去の経験で現在の状態を判断する |
重要なのは、
一つの原因だけで災害が起きるとは限らない
ことです。
たとえば、
経験が少ない
↓
一人で確認に行く
↓
手順書にない異常だった
↓
少しなら大丈夫と思う
↓
設備停止だけで手を入れる
↓
残留エネルギーで設備が動く
というように、
複数の小さな条件がつながって災害になります。

新人ほど「非定常作業」を教える必要がある
新人教育では、
通常の作業手順を教えること
が中心になりやすいものです。
もちろん、それは必要です。
しかし、
正常に動いているときの作業だけを教えても十分ではありません。
設備が止まったらどうするのか。
異音がしたらどうするのか。
詰まりを見つけたらどうするのか。
分からない作業を頼まれたらどうするのか。
誰に連絡するのか。
どこまで自分で判断してよいのか。
こうした、
「いつもと違うときの行動」
まで教えておく必要があります。
むしろ経験の少ない新人ほど、
異常時に「自分で何とかしよう」とさせない仕組み
が重要です。

「わからなければ止める」も立派な手順
非定常作業では、
すべての状況を手順書に書くことはできません。
だからこそ、
判断できない状態になったときの行動
を決めておく必要があります。
たとえば、
わからない
↓
作業を止める
↓
設備から離れる
↓
上司・設備担当者へ連絡する
↓
危険源を確認する
↓
作業方法を決める
というルールです。
これは、
「何もできない」
のではありません。
安全に止まること自体が、重要な作業判断
なのです。

なぜ非定常作業では災害リスクが高くなるのか まとめ
非定常作業では、
作業を経験する機会が少ない
↓
作業に習熟しにくい
↓
標準手順だけでは対応できない
↓
その場での判断が増える
↓
単独作業になりやすい
↓
停止・隔離が不十分になりやすい
↓
関係者間の情報共有が難しくなる
↓
復旧を急ぐ心理が働く
といった条件が重なります。
つまり、
非定常作業が危険なのは、「特別な作業だから」だけではありません。
重要なのは、
通常作業で安全を支えている「経験」「手順」「設備の防護」「連絡」「役割分担」が崩れやすいこと
です。
だからこそ非定常作業では、
「作業者に注意させる」
だけでは十分ではありません。
誰が行うのか。
誰に連絡するのか。
どこまで停止するのか。
どう隔離するのか。
一人で作業してよいのか。
分からないときはどうするのか。
まで事前に決めておく必要があります。
非定常作業を安全にするとは、「いつもと違う状況でも、安全な行動を選べる仕組みを作ること」なのです。

安全くんの一言
「非定常作業は、“慣れていない・決まっていない・伝わっていない”が重なりやすい。だからこそ、事前に止め方・連絡・役割を決めておこう!」

<執筆者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業出身の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
材料から設備を診る! 技術経営コンサルタント



