発電用ボイラには、炭素鋼、Mo鋼、Cr-Mo鋼などさまざまな鉄鋼材料が使用されています。
これらの材料は、いずれも鉄を主成分とする鋼ですが、添加されている合金元素や金属組織が異なります。
では、なぜボイラには複数の種類の鋼が必要なのでしょうか。
炭素鋼だけですべてのボイラ管を製造することはできないのでしょうか。
その理由は、ボイラの使用部位によって材料に要求される高温強度が異なるからです。
例えば、節炭器管や比較的温度の低い水管では炭素鋼が使用されます。
一方、温度の高い過熱器管や再熱器管では、Mo(モリブデン)やCr(クロム)を添加した低合金耐熱鋼が使用されることがあります。
MoやCrを添加するのは、単に材料の引張強さを高くするためではありません。
高温で長時間使用したときのクリープ強度や、酸化に対する抵抗性などを改善するためです。
今回は、ボイラ材料の基本となる、
炭素鋼・Mo鋼・Cr-Mo鋼
の違いを整理し、なぜ炭素鋼から低合金耐熱鋼へと材料の適用範囲が広がってきたのかを解説します。
炭素鋼・Mo鋼・Cr-Mo鋼の違い
まず、3種類の鋼の特徴を整理しましょう。
| 材料区分 | 主な合金元素 | 代表材料 | 材料技術の特徴 |
|---|---|---|---|
| 炭素鋼 | C、Mn、Siなど | STB340、STB410、STB510 | 基本的な強度、加工性、溶接性 |
| Mo鋼 | Moを約0.5%添加 | STBA12、STBA13 | Mo添加による高温強度の改善 |
| Cr-Mo鋼 | CrとMoを添加 | STBA20、STBA22、STBA23、STBA24 | 高温強度、クリープ特性、耐酸化性などの改善 |
炭素鋼は、鉄に炭素を加えた鋼を基本とし、MnやSiなどによって性質を調整した材料です。
Mo鋼は、炭素鋼を基本としてMoを添加した材料です。
Cr-Mo鋼は、さらにCrを添加し、高温での使用に適した性質を持たせた材料です。
ここで重要なのは、MoやCrを添加すると、鋼の金属組織や高温での変形・劣化の仕方が変わるということです。
ただし、合金元素の添加量だけで材料性能が決まるわけではありません。
炭素量や他の合金元素、熱処理によって形成される金属組織も重要になります。

炭素鋼|ボイラ材料の基本となる鋼
① 炭素鋼とは
炭素鋼は、ボイラ材料の中でも基本となる材料です。
ボイラ・熱交換器用炭素鋼鋼管として、JIS G 3461には次の鋼種が規定されています。
- STB340
- STB410
- STB510
STBは、ボイラ・熱交換器用炭素鋼鋼管を表す記号です。
末尾の340、410、510は、それぞれ室温における規定最小引張強さを表しています。
例えば、STB340では340MPa以上、STB410では410MPa以上の引張強さが規定されています。
ただし、これらは室温における材料の引張強さです。
STB410の引張強さがSTB340より高いからといって、すべての高温条件でSTB410の方が適しているとは限りません。
実際のボイラ設計では、使用温度における許容引張応力を確認する必要があります。
② 炭素鋼の金属組織
一般的なボイラ用炭素鋼の代表的な金属組織は、
フェライト+パーライト
です。
フェライトは、鉄を主成分とする比較的軟らかい組織です。
一方、パーライトは、フェライトとセメンタイトが組み合わさった組織です。
炭素量や熱処理によって、これらの組織の割合や形態が変わり、鋼の強度や延性が変化します。
つまり、炭素鋼の機械的性質は、炭素量と金属組織によって大きく左右されます。
③ 炭素鋼のメリット
炭素鋼には、次のようなメリットがあります。
材料費が比較的安い
CrやMoを多く含む耐熱鋼と比較すると、一般に材料費を抑えることができます。
加工性や溶接性が比較的よい
鋼種や炭素量にもよりますが、一般に高合金の耐熱鋼に比べて製造・加工・溶接が容易です。
比較的温度の低い部位では十分な性能を確保できる
材料温度がそれほど高くない節炭器管や火炉壁管などでは、炭素鋼が合理的な選択になります。
④ 炭素鋼の限界は高温強度にある
しかし、炭素鋼には高温での使用に限界があります。
温度が高くなると、材料の降伏強さや引張強さが低下します。
さらに、高温で長時間応力を受け続けると、クリープ変形が問題になります。
炭素鋼では、長時間の高温使用によって、パーライト中のセメンタイトの形態変化や球状化などが進行する場合があります。
これに伴い、材料の強度が低下することがあります。
つまり、炭素鋼は比較的温度の低い部位では優れた材料ですが、より高温で使用する場合には、高温強度の確保が課題になるのです。
そこで登場するのがMo鋼です。

Mo鋼|モリブデン添加によって高温強度を改善する
① Mo鋼とは
Mo鋼は、炭素鋼を基本としてMo(モリブデン)を添加した低合金耐熱鋼です。
代表的な材料には、
STBA12、STBA13
があります。
これらは、JIS G 3462に規定されたボイラ・熱交換器用合金鋼鋼管です。
いずれも約0.5%のMoを含む鋼ですが、炭素量の規定などが異なります。
② なぜMoを添加するのか
Moを添加する主な目的は、高温強度、とりわけ長時間使用時のクリープ特性を改善することです。
Moは固溶強化に寄与する元素であるとともに、炭化物の形成にも関係する元素です。
Moの一部はフェライトなどの母相に固溶し、高温での転位の移動や変形に対する抵抗を高める働きをします。
一方、Moの一部は炭化物にも取り込まれます。これらの炭化物の種類や分布、長時間使用に伴う変化も、材料のクリープ強度に影響します。
つまり、Moによる高温強度の改善には、固溶強化だけでなく炭化物や金属組織の変化も関係しているのです。
ただし、高温で長時間使用すると、炭化物の粗大化や固溶Mo量の変化などが進行し、クリープ強度が変化する場合があります。
そのため、Mo鋼の高温特性を理解するには、合金元素の添加量だけでなく、長時間使用に伴う金属組織の変化も考える必要があります。
③ Mo鋼でも高温使用には限界がある
Moを添加すれば、どのような高温でも使用できるわけではありません。
温度が高くなれば、Mo鋼でも許容引張応力は低下します。
また、長時間使用に伴う炭化物の変化や組織変化によって、クリープ特性が変化する場合があります。
さらに、Moの添加だけでは、高温酸化に対する抵抗性を十分に改善できない場合があります。
そこで、より高温で使用する鋼として、CrとMoを組み合わせたCr-Mo鋼が重要になります。

Cr-Mo鋼|クロムとモリブデンを組み合わせた耐熱鋼
① Cr-Mo鋼とは
Cr-Mo鋼は、Cr(クロム)とMo(モリブデン)を添加した低合金耐熱鋼です。
ボイラ材料としては、次のような鋼種が代表的です。
| 鋼種 | 代表的な合金系 |
|---|---|
| STBA20 | 0.5Cr-0.5Mo鋼 |
| STBA22 | 1Cr-0.5Mo鋼 |
| STBA23 | 1.25Cr-0.5Mo-Si鋼 |
| STBA24 | 2.25Cr-1Mo鋼 |
これらは、CrとMoの添加量などが異なる材料です。
② Crの役割
Crを添加する目的の一つは、高温酸化に対する抵抗性を改善することです。
鋼を高温の酸化性環境で使用すると、表面に酸化物が形成されます。
Crは酸化物の形成や性質に影響し、一般にCrの添加量を増やすことで耐酸化性の改善が期待できます。
しかしながら、
低合金Cr-Mo鋼は、Crを含んでいるからといってステンレス鋼と同等の耐酸化性を持つわけではありません。
Crの添加量や温度、雰囲気によって、形成される酸化スケールの性質は変化します。
特に高温の蒸気中では、Cr-Mo鋼であっても水蒸気酸化スケールの形成が問題になります。
また、Crは炭化物の形成や金属組織にも影響し、高温強度の確保に関係します。
③ CrとMoを組み合わせる理由
Cr-Mo鋼では、CrとMoがそれぞれ異なる役割を果たします。
Moは、固溶強化や炭化物の形成などを通じて高温強度の改善に寄与します。
Crは、炭化物の形成や高温酸化特性などに影響を与えます。
そして、両元素と炭素量、熱処理条件などを組み合わせることで、高温で使用できる材料特性を確保します。
つまり、Cr-Mo鋼は、
合金元素の組み合わせによって、高温強度と高温環境への適応性を改善した材料
と考えることができます。

炭素鋼・Cr-Mo鋼の金属組織
ここで、材料学の視点から整理してみましょう。
材料の強度は、化学成分だけで決まるわけではありません。
重要なのは、化学成分と熱処理によって、どのような金属組織が形成されるかです。
① 炭素鋼の代表組織
炭素鋼では、フェライトとパーライトが代表的な組織です。
フェライトは比較的軟らかく、パーライトは強度に寄与します。
ただし、高温で長時間使用すると、これらの組織やセメンタイトの形態が変化する場合があります。
② Mo鋼・Cr-Mo鋼の代表組織
Mo鋼やCr-Mo鋼では、合金元素の添加によって鋼の変態挙動が変わります。
例えば、冷却速度や熱処理条件によって、フェライト・パーライト組織に加え、ベイナイトなどの組織が形成される場合があります。
また、CrやMoを含む炭化物が形成され、これらが高温強度に影響します。
つまり、
同じ鉄鋼材料でも、合金元素と熱処理が変われば、強度を支える金属組織も変わる
ということです。
③ 高温強度を考えるときは組織安定性も重要
ボイラ材料では、使用開始時に十分な強度を持っているだけでは不十分です。
高温で長期間使用しても必要な強度を維持できなければなりません。
例えば、長時間使用によって炭化物が粗大化したり、金属組織が変化したりすると、クリープ強度が低下する場合があります。
そのため、耐熱鋼の性能を評価する際には、
初期強度だけでなく、長時間使用後の金属組織と強度の変化
を考える必要があります。
これは、後に説明する高Crフェライト系耐熱鋼のクリープ損傷や設備寿命評価にもつながる重要な考え方です。

炭素鋼・Mo鋼・Cr-Mo鋼の使い分け
ここまでの材料特性を、ボイラの使用部位と結びつけて考えてみましょう。
発電用ボイラでは、場所によって管壁のメタル温度や使用環境が異なります。
例えば、節炭器は比較的温度の低い部位ですが、過熱器や再熱器では蒸気温度が高くなります。
そして、高温伝熱管では、管壁のメタル温度が内部の蒸気温度より高くなる場合があります。
そのため、材料の使い分けが必要になります。
| 材料区分 | 代表材料 | 適用部位の例 | 選定の考え方 |
|---|---|---|---|
| 炭素鋼 | STB340、STB410 | 節炭器管、比較的低温の火炉壁管 | 基本的な強度、経済性、加工性 |
| Mo鋼 | STBA12、STBA13 | 高温側の水管や比較的低温側の過熱器管など | 炭素鋼より高温強度が必要な場合 |
| Cr-Mo鋼 | STBA20、STBA22、STBA23 | 過熱器管、再熱器管など | 高温強度と使用環境への適応 |
| Cr-Mo鋼 | STBA24 | より高温側の過熱器管、再熱器管など | 高温での強度と長時間使用特性 |
※適用部位は代表例です。実際の材料選定では、材料温度、設計圧力、許容引張応力、使用環境などを考慮します。
ここで重要なのは、炭素鋼からMo鋼、Cr-Mo鋼へと、すべての材料が置き換わっていったわけではないということです。
現在の高効率ボイラでも、比較的温度の低い部分には炭素鋼が使用されています。
一方、より高温の部分ではCr-Mo鋼や高Crフェライト系耐熱鋼、オーステナイト系ステンレス鋼などが使用されます。
つまり、
ボイラの蒸気条件が高くなるほど、すべての部位で高級な材料が必要になるのではなく、温度や使用条件に応じて適切な材料を配置することが重要
なのです。

CrやMoを増やせば必ずよい材料になる?
ここまで見ると、CrやMoを多く添加するほど、高温に強い材料になるように思えるかもしれません。
しかし、実際はそれほど単純ではありません。
合金元素を添加すると、高温強度や耐酸化性の改善が期待できる一方、材料の加工性や溶接性にも影響を及ぼします。
特にCr-Mo鋼では、溶接時の熱サイクルによって溶接熱影響部の金属組織が変化します。
その結果、硬さや靭性などが変化し、条件によっては低温割れなどに注意が必要になります。
鋼種や板厚、溶接条件によっては、予熱や溶接後熱処理などが重要になります。
また、異なる鋼種を溶接する場合には、材料間の熱膨張特性や高温強度、溶接部の長時間健全性も考慮する必要があります。
したがって、材料選定では、
高温強度だけでなく、製造性・施工性・長期信頼性・経済性まで含めて考える
必要があります。
合金元素が多い材料を選べば、必ずよい設計になるわけではありません。

材料の進歩と許容引張応力・必要肉厚の関係
ここで、前回までの記事との関係を整理しましょう。
発電用ボイラでは、材料の許容引張応力をもとに必要肉厚を計算します。
許容引張応力は、材料の種類と使用温度によって変わります。


高温での強度が優れた材料を使用すれば、同じ圧力・管径の条件で必要肉厚を小さくできる場合があります。
また、材料の高温強度が向上すれば、従来よりも高い蒸気温度で設備を設計できる可能性が広がります。
これが、炭素鋼からMo鋼、Cr-Mo鋼へと高温用材料の選択肢が広がってきた重要な理由の一つです。
ただし、許容引張応力は合金元素の添加量に比例して増えるものではありません。
高温域では、引張強さや降伏強さだけでなく、クリープ強度も重要になります。
さらに、耐水蒸気酸化性、耐高温腐食性、溶接性なども考慮する必要があります。
つまり、
材料の進歩がボイラの高温化を可能にしてきた一方で、材料の使い分けが設備の信頼性を支えている
ということです。

炭素鋼・Mo鋼・Cr-Mo鋼 まとめ
発電用ボイラには、炭素鋼、Mo鋼、Cr-Mo鋼など、さまざまな鉄鋼材料が使用されています。
炭素鋼は、基本的な強度と加工性、経済性に優れた材料です。
しかし、使用温度が高くなると、強度の低下やクリープ変形が問題になります。
そこで、高温強度を改善するためにMoを添加したMo鋼が使用されます。
さらに、CrとMoを組み合わせたCr-Mo鋼では、高温強度や高温酸化特性などの改善が図られています。
ただし、材料の性能は合金元素の添加量だけで決まるわけではありません。
炭素量や熱処理によって形成される金属組織、長時間使用に伴う組織変化なども重要です。
また、ボイラ材料に求められるのは高温強度だけではありません。
耐水蒸気酸化性、耐高温腐食性、加工性、溶接性、経済性なども考慮する必要があります。
つまり、
炭素鋼から低合金耐熱鋼への発展とは、合金元素と金属組織を制御することで、より厳しい高温条件に対応できる材料の選択肢を広げてきたこと
なのです。
そして、重要なのは新しい材料が従来材料をすべて置き換えることではありません。
温度や圧力、使用環境に応じて、必要な特性を持つ材料を使い分けることです。
材料を理解するときには、鋼種名を覚えるだけでなく、
「なぜ、その合金元素が添加されているのか」
「どのような組織によって高温強度が確保されているのか」
「なぜ、その部位に適用されているのか」
を考えることが重要です。
材料がわかるとボイラの設計思想が見えてきます。

参考資料
- JIS G 3461「ボイラ・熱交換器用炭素鋼鋼管」
- JIS G 3462「ボイラ・熱交換器用合金鋼鋼管」
- 日本製鉄「ボイラ用シームレス鋼管」「ボイラ・熱交換器用電気抵抗溶接鋼管」
- 経済産業省「発電用火力設備の技術基準の解釈」材料の許容引張応力に関する規定
※実際のボイラ材料の選定には、適用される最新の規格・技術基準および設計条件を確認する必要があります。
くろがねくんの一言
「CrやMoを増やせばいいわけじゃないよ!金属組織と使う場所を考えて、材料を選ぶことが大切なんだ!」

<執筆者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業 出身 の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
材料から設備を診る! 技術経営コンサルタント






