これまで、ボイラには炭素鋼、Cr-Mo系低合金鋼、高Crフェライト系耐熱鋼、オーステナイト系ステンレス鋼などさまざまな材料が使用されていることを紹介してきました。
これらの材料の発展によって、火力発電プラントの蒸気温度は徐々に高められてきました。
しかし、600℃級を超え、さらに700℃以上の蒸気を使用するとなると従来材料の改良だけでは対応が難しくなります。
そこで開発が進められたのが先進超々臨界圧(A-USC:Advanced Ultra-Supercritical)発電技術です。
A-USCでは従来のフェライト系耐熱鋼やオーステナイト系ステンレス鋼に加えて、Fe-Ni基合金やNi基合金が重要な役割を担います。
今回は、なぜ700℃超級では新しい材料が必要になるのか、また、それらの材料をボイラのどこに使用するのかを考えてみます。
A-USCとは|蒸気温度700℃への挑戦
火力発電プラントでは蒸気温度や圧力を高めることによって熱効率を改善できます。
日本では蒸気温度が600℃級の超々臨界圧(USC)発電が実用化されてきました。
これに対してA-USCは主蒸気温度を700℃程度以上に高め、さらに高い熱効率を目指す技術です。
国内で進められた開発では主蒸気圧力35MPa、主蒸気温度700℃級という条件が検討されました。
送電端熱効率を従来の600℃級USCの約42%から46~48%程度へ高めることが目標として示されています。
A-USCまで蒸気温度を高めるためにはその温度に耐えられる材料が必要になるのです。

なぜ従来のフェライト系耐熱鋼では難しいのか
① 高温になるほどクリープ強度が低下する
P91やP92などの高Crフェライト系耐熱鋼では焼戻しマルテンサイト組織や微細な析出物によって高温強度を高めています。
しかし、温度が上昇すると、長時間使用中に析出物の粗大化や組織回復が進行し、クリープ強度が低下します。
従来の高Crフェライト系耐熱鋼では一般に620~630℃程度が実用上の一つの限界と考えられてきました。
700℃級では、必要な長時間クリープ強度を十分に確保することが難しくなります。
② 必要肉厚が大きくなる
材料の許容引張応力が低下すると同じ圧力に耐えるために必要な管肉厚が増加します。
特に大径の主蒸気管や管寄せでは、肉厚の増加が設備重量や製造費の増加につながります。
さらに厚肉化すると、起動停止時の肉厚方向の温度差による熱応力も大きくなりやすくなります。
つまり、単純に肉厚を増加させるだけでは、内圧強度と熱疲労の両方に対応することはできません。
③ オーステナイト系ステンレス鋼にも限界がある
SUS347HやSuper304H、HR3Cなどのオーステナイト系ステンレス鋼は高温強度や耐酸化性に優れた材料です。
しかし、700℃超級の厳しい使用条件では、従来鋼では長時間クリープ強度が不足する場合があります。
また、オーステナイト系ステンレス鋼はフェライト系鋼より熱膨張係数が大きく、熱伝導率が低いため、大径厚肉部材に使用する際には熱応力の面で慎重な評価が必要です。
このように、従来材料の使用限界を超える温度域に対応するため、新しい材料体系としてFe-Ni基合金やNi基合金が検討されてきたのです。
A-USCで必要となる新材料
A-USCボイラでは、すべての部材をNi基合金にする必要があるわけではありません。
材料が必要とされる性能は、使用する部位によって異なります。
① 火炉壁管
火炉壁管では、管内流体による冷却効果が重要になります。
ただし、A-USCでは給水温度や火炉壁管内の流体温度が上昇するため、従来より高温強度や耐食性に優れたフェライト系材料が必要になる場合があります。
② 過熱器管・再熱器管
高温過熱器管や再熱器管では、蒸気温度に加えて管外面からの熱負荷を考慮する必要があります。
通常の加熱状態では、管のメタル温度は蒸気温度より高くなります。
例えば、蒸気温度700℃級のA-USCでは、伝熱管のメタル温度が750℃程度に達する設計条件が想定されています。
そのため、高温クリープ強度だけでなく、管内面の耐水蒸気酸化性や管外面の耐高温腐食性にも優れた材料が必要になります。
③ 管寄せ・主蒸気管
管寄せや主蒸気管は、大径厚肉の耐圧部材です。
高温高圧の蒸気に耐えるクリープ強度に加えて、起動停止に伴う熱応力、クリープ疲労、溶接部の長時間強度などが重要になります。
このため、A-USCでは高いクリープ強度を持ちながら、大径厚肉管として製造できる材料が必要になります。

Fe-Ni基合金・Ni基合金とは
700℃超級のボイラ材料の候補材には、HR6W、HR35、Alloy617、Alloy263、Alloy740などがあります。
Fe-Ni基合金とNi基合金の境界は文献や分類方法によって扱いが異なりますが、いずれもNiを多く含み、高温特性を改善した材料です。
① HR6W|高温強度とクリープ延性の両立
HR6Wはおよそ23Cr-45Ni-7Wの組成を持つ高Ni合金です。
Wによる固溶強化に加え、炭化物やLaves相などの析出を利用して高温強度を高めています。
HR6Wの特徴は高温強度だけでなく、クリープ延性やクリープ疲労特性にも配慮していることです。
高温で使用される大径厚肉管では、起動停止による熱応力への対応も重要になります。
そのため、単純なクリープ破断強度の高さだけでは材料の優劣を判断できません。
② HR35|高Cr化による耐食性の向上
HR35は、およそ50Ni-30Crを基本とする高Ni合金です。
Cr含有量を高めることで、高温での耐酸化性や耐食性を改善することが期待されています。
特に高温伝熱管では、強度だけでなく、燃焼ガスや灰による高温腐食、管内面の水蒸気酸化への対応が重要になります。
③ Alloy617などのNi基合金
Alloy617は、Ni-Cr-Co-Mo系の代表的な耐熱合金です。
高温でのクリープ強度に優れており、700℃級のボイラ材料として検討されてきました。
また、Alloy263やAlloy740などでは、γ′相などによる析出強化を利用して高温強度を高めています。
ただし、強度を高めた材料ほど、大型化や熱間加工、溶接、長時間使用中の組織安定性が新たな課題になる場合があります。

高温強度だけでは材料を選べない
① 管内面の水蒸気酸化
A-USCの伝熱管内部には700℃級の高温蒸気が流れています。
このため、管内面での酸化スケールの成長や剥離に注意が必要です。
酸化スケールは管壁の熱抵抗を増加させるほか、剥離した場合にはベンド部での堆積や蒸気流路の閉塞につながるおそれがあります。
② 管外面の高温腐食
伝熱管外面は高温の燃焼ガスや燃料灰にさらされています。
蒸気温度の上昇によってメタル温度も高くなると、高温腐食の条件が厳しくなる場合があります。
したがって、耐高温腐食性も材料選定の重要な判断基準です。
③ クリープ疲労と長時間の組織安定性
A-USC材料では、高温で長時間使用することによるクリープ損傷に加えて、起動停止や負荷変化による疲労損傷も考慮しなければなりません。
材料の強化に利用される析出物は、長時間使用中に粗大化したり、分布や形態が変化したりする場合があります。
つまり、高温強度だけでなく長時間使用後の強度と延性を評価することが重要なのです。
新材料適用で確認すべき事項
Fe-Ni基合金やNi基合金を実際のボイラに適用するためには、材料試験で優れた特性を示すだけでは不十分です。
① 大型部材を製造できるか
主蒸気管や管寄せでは、大きな管径と肉厚が要求されます。
小さな試験片で優れたクリープ強度を示しても、実機サイズの鋼管を安定して製造できるとは限りません。
大型の鋼塊では、合金元素の偏析や製造欠陥、組織の不均一性などが問題になる可能性があります。
したがって、製管技術や大型部材の品質確保が重要になります。
② 溶接部の信頼性を確保できるか
Ni基合金を使用する範囲は、経済性を考慮して高温部に限定することが合理的です。
そのため、Ni基合金と従来のフェライト系耐熱鋼などを接続する異材継手が必要になります。
また、Ni基合金同士の溶接でも、溶接金属や熱影響部の長時間強度、割れへの感受性、組織変化などを考慮する必要があります。
③ 熱応力と経済性を両立できるか
高温配管では、材料の熱膨張係数や熱伝導率、支持構造が熱応力に影響します。
Ni基合金を採用する場合にも、材料特性に応じた配管ルートや支持方法などの構造設計が必要です。
さらに、Ni含有量の多い材料は一般に高価です。
高温強度に優れた材料を選ぶことと、設備全体として合理的な設計を実現することは、必ずしも同じではありません。
A-USCの実用化に向けた材料開発
① フェライト系耐熱鋼の適用温度を高める
A-USCの材料開発は、Ni基合金だけを開発するものではありません。
高B-9Cr鋼やSAVE12ADなど、従来の高Crフェライト系耐熱鋼を改良して、使用可能な温度域を拡大する検討も行われました。
高Crフェライト系耐熱鋼をより高温まで使用できれば、高価なNi基合金の適用範囲を縮小できます。
つまり、Ni基合金の開発とフェライト系耐熱鋼の改良は、互いに補完する関係にあるのです。
② 実機規模で材料と製造技術を検証する
国内では、2008~2016年度にA-USC実用化要素技術開発プロジェクトが実施されました。
開発では、ボイラ用の大径管や小径伝熱管の試作、溶接・曲げ加工技術の検証、長時間クリープ試験、水蒸気酸化試験、高温腐食試験などが行われました。
さらに、実際のボイラに開発材を組み込んで700℃級の蒸気を発生させ、約13,000時間にわたる実缶試験によって材料や機器の信頼性が検証されました。
これらの成果は、700℃級の蒸気条件に対応するためには、材料の開発だけでなく、製造・溶接・構造設計・長期信頼性評価を一体で進める必要があることを示しています。

まとめ|材料の限界が蒸気条件を決める
600℃級USCボイラの発展には、P91やP92などの高Crフェライト系耐熱鋼が大きく貢献しました。
しかし、700℃超級のA-USCボイラでは、従来材料の延長だけでは必要な長時間クリープ強度や耐食性を確保することが難しくなります。
そのため、HR6W、HR35、Alloy617などの高Ni合金やNi基合金が開発・評価されてきました。
一方、材料の高温強度を向上させるだけではA-USCは実現できません。
大径厚肉管の製造性、溶接継手の信頼性、熱応力、長時間使用中の組織安定性、経済性などを総合的に評価する必要があります。
また、従来のフェライト系耐熱鋼の使用可能温度を高め、Ni基合金の適用範囲を必要な高温部に限定することも重要です。
ここで重要なのは、
発電効率を高めるために蒸気温度を上げる。しかし、実際にどこまで蒸気温度を上げられるかは使用できる材料の限界によって決まる。
ということです。
A-USCは、材料技術の進歩が発電プラントの設計限界を押し上げる代表例なのです。

参考文献
1.岩崎 淳ほか「A-USCボイラ材料の開発」『火力原子力発電』Vol.58, No.8, pp.649–655, 2007.
2.福田雅文・斎藤英治「先進超々臨界圧発電技術(A-USC)」『火力原子力発電』Vol.60, No.10, 2009.
3.福田雅文「A-USC開発の概要」『火力原子力発電』Vol.69, No.10, pp.545–550, 2018.
くろがねくんの一言
「600℃級までは高Crフェライト鋼が大活躍! でも700℃を超えると、従来の鉄鋼材料だけでは厳しくなるんだ。そこで登場するのがFe-Ni基・Ni基合金。材料の進歩が、蒸気条件の限界を押し広げるんだよ!」

<執筆者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業 出身 の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
材料から設備を診る! 技術経営コンサルタント





