はじめに
発電用ボイラでは、蒸気温度や圧力(蒸気条件)の向上に伴って、より高い高温強度と耐食性を持つ材料が求められてきました。
これまで、2.25Cr-1Mo鋼、改良9Cr-1Mo鋼、そしてP92・P122などの高強度フェライト系耐熱鋼について説明してきました。



これらの材料は、高温でのクリープ強度に優れ、管寄せや主蒸気管などの高温耐圧部材に重要な役割を果たしてきました。
しかし、ボイラの過熱器管や再熱器管では高温強度だけでは材料を選定できません。
伝熱管の外面は高温の燃焼ガスにさらされ、内面には高温の水蒸気が流れています。
そのため、伝熱管には高温強度に加えて、管外面の高温腐食と管内面の水蒸気酸化に対する抵抗性が求められます。
こうした高温部に使用されてきた代表的な材料がオーステナイト系ステンレス鋼です。
代表的な鋼種には、SUS304H、SUS316H、SUS321H、SUS347Hなどがあります。
では、なぜこれらの材料が高温伝熱管に使用されるのでしょうか。
また、同じオーステナイト系ステンレス鋼でも、なぜ鋼種を使い分ける必要があるのでしょうか。
今回は、オーステナイト系ステンレス鋼の合金設計と金属組織を整理し、高温強度、耐水蒸気酸化性、実際のボイラでの使用上の課題を考えてみましょう。
オーステナイト系ステンレス鋼とは
① 基本となる金属組織
オーステナイト系ステンレス鋼は、CrとNiを主な合金元素とし、室温でもオーステナイト組織を安定して保持するステンレス鋼です。
オーステナイトは、面心立方格子(FCC)の結晶構造を持っています。
一方、前回までに紹介した9~12Cr系耐熱鋼は、焼戻しマルテンサイト組織を基本とするフェライト系の耐熱鋼です。
このように、両者は合金元素の添加量だけでなく、母相の結晶構造と金属組織が異なります。
オーステナイト系ステンレス鋼では、Crによる耐酸化性とオーステナイト組織を利用した高温特性を組み合わせることで、高温のボイラ伝熱管に必要な性能を確保しています。
ただし、オーステナイト系ステンレス鋼であればすべての使用温度においてフェライト系耐熱鋼より高温強度が優れるという意味ではありません。
材料の選定には、使用温度、許容引張応力、腐食環境などを考慮する必要があります。
② ボイラで使用される代表鋼種
代表的なボイラ用オーステナイト系ステンレス鋼管を整理しましょう。

※主な特徴を概略で示したものです。実際の化学成分は適用する製品規格に従います。
これらの鋼種は、過熱器管や再熱器管などの高温伝熱管として使用されてきました。
ここで注目したいのが、TiやNbの添加です。
オーステナイト系ステンレス鋼ではCrやNiだけでなく、炭素や炭化物形成元素の制御も高温特性に影響します。

なぜ高温伝熱管にオーステナイト系ステンレス鋼を使用するのか
① 過熱器管・再熱器管のメタル温度は高い
ボイラの過熱器管や再熱器管は、燃焼ガスから熱を受け、その熱を管内の蒸気へ伝える役割を持っています。
このため、伝熱管のメタル温度は、管内を流れる蒸気の温度より高くなります。
例えば、蒸気温度が566℃であっても、熱負荷の高い部分では、管のメタル温度が600℃を超える場合があります。
高温になるほど材料の許容引張応力は低下する傾向があり、クリープ強度の確保が重要になります。
特に、フェライト系耐熱鋼では、使用温度が高くなるとクリープ強度が大きく低下し、必要な許容引張応力を確保することが難しくなる場合があります。
そのため、高温部ではフェライト系耐熱鋼の強度では必要肉厚や長期信頼性の面から対応が難しくなりることから、より高温域で使用できるオーステナイト系ステンレス鋼が選定されます。
さらに、過熱器管や再熱器管では、高温強度だけでなく、管外面の燃焼ガスや燃料灰による高温腐食、管内面の高温水蒸気による酸化も重要な問題となります。
したがって、高温伝熱管の材料選定では、実際のメタル温度におけるクリープ強度と管内外面の使用環境に対する耐食性を両立させることが重要なのです。
② Crによる耐酸化性の確保
ステンレス鋼の耐水蒸気酸化性を支える重要な合金元素がCrです。
Crは高温で形成される酸化皮膜の組成や性質に影響し、条件によってはCrに富む保護性の高い酸化皮膜の形成に寄与します。
しかし、Crを約18%含むオーステナイト系ステンレス鋼であっても、高温水蒸気中で酸化しないわけではありません。
実際のボイラでは、伝熱管の内面に水蒸気酸化スケールが形成され、長時間の使用によって成長します。
また、水蒸気酸化スケールの生成・成長挙動は、Cr含有量だけでなく、結晶粒径などの金属組織や管内面の加工状態、使用温度、使用時間などによっても変化します。
したがって、耐水蒸気酸化性を改善するには、単にCr含有量を増やすだけでなく、金属組織や表面状態を適切に制御することが重要です。
この考え方は、後述するSUS347Hの結晶粒微細化やショットブラスト加工による耐水蒸気酸化性の改善にもつながります。

代表的なオーステナイト系ステンレス鋼 SUS304H・316H・321H・347H
① SUS304H|基本となる18Cr-8Ni系耐熱鋼
SUS304Hは、約18%のCrと約8%のNiを含むオーステナイト系ステンレス鋼です。
一般的なSUS304を基本として、高温でのクリープ強度を確保するために炭素量を調整した材料です。
鋼種名の末尾に付く「H」は、高温用途を想定した鋼種であることを示しており、通常のSUS304とは炭素量の規定が異なります。
具体的には、炭素量に下限を設けることで、高温におけるクリープ強度の確保を図っています。
② SUS316H|Moを添加したオーステナイト系耐熱鋼
SUS316Hは、CrとNiに加えて約2~3%のMoを含むオーステナイト系ステンレス鋼です。
Moは母相に固溶し、高温での変形抵抗を高めることで、クリープ強度の確保に寄与します。
SUS316Hは、このような高温特性を利用して、火力発電用ボイラの高温過熱器管などに使用されてきました。
一方、管外面の高温腐食や管内面の水蒸気酸化スケールの生成・剥離が問題となる場合があります。
③ SUS321H|Ti添加による炭化物の制御
SUS321Hは、18Cr-8Ni系ステンレス鋼を基本として、Tiを添加したオーステナイト系耐熱鋼です。
TiはCと結びついて安定な炭化物を形成し、Cr炭化物の粒界析出を抑制することで、耐粒界腐食性の改善に寄与します。
また、Ti系炭化物の形成は、金属組織の安定性や高温強度にも関係しています。
SUS321Hは、高強度材として火力発電用ボイラの過熱器管や再熱器管などに使用されてきた実績があります。
④ SUS347H|Nb添加と細粒組織の利用
SUS347Hは、18Cr-8Ni系ステンレス鋼を基本として、Nbを添加したオーステナイト系耐熱鋼です。
NbはCと結びついて安定な炭化物を形成し、Cr炭化物の粒界析出を抑制するとともに、高温強度の確保にも寄与します。
さらに、SUS347Hの重要な特徴はNb炭化物による結晶粒の成長抑制を利用して、細粒組織を形成できることです。
Nb炭化物は、溶体化熱処理時に結晶粒界の移動を妨げ、結晶粒の粗大化を抑制する役割を果たします。
結晶粒が細かくなると、結晶粒界の面積が増加し、粒界を通じたCrの拡散が促進されます。その結果、管内面にCrに富む保護性の高い酸化皮膜が形成されやすくなり、水蒸気酸化スケールの成長を抑制する効果が期待できます。
このように、SUS347Hは、Nb添加による炭化物形成と結晶粒径の制御を組み合わせることで、耐水蒸気酸化性の改善を図った材料なのです。

オーステナイト系ステンレス鋼の大きな課題|水蒸気酸化スケール
① 管内面に形成される水蒸気酸化スケール
オーステナイト系ステンレス鋼の伝熱管を高温水蒸気中で使用すると管内面に酸化スケールが形成されます。
酸化スケールは、条件によってFeに富む酸化物とCrに富む酸化物などからなる層状構造を形成します。
問題となるのは、このスケールが時間とともに成長し、剥離する場合があることです。
特にボイラの停止時や再起動時には、温度変化による熱膨張差などによってスケールが剥離する場合があります。
② スケール剥離は設備トラブルにつながる
剥離した酸化スケールは蒸気の流れによって運ばれます。
そして、伝熱管の曲がり部などに堆積すると管内の流路を狭くすることがあります。
流路が閉塞すると、蒸気流量が低下し、伝熱管のメタル温度が上昇し、短時間クリープにより管が噴破するおそれがあります。
また、剥離したスケールが蒸気タービン側に流出すると、タービン部品への損傷につながる場合もあります。
つまり、水蒸気酸化スケールの問題は、単なる管内面の酸化ではありません。
水蒸気酸化スケールの生成、剥離、堆積という現象が、設備全体の信頼性に影響するのです。

耐水蒸気酸化性を改善する方法
① 細粒化による水蒸気酸化の抑制
金属の結晶粒界は、合金元素の拡散に関係する重要な経路です。
結晶粒を細かくすると、単位体積当たりの結晶粒界面積が増加します。
細粒SUS347H鋼管の開発では、この特徴を利用し、Crに富む保護性酸化皮膜の形成によって水蒸気酸化を抑制する考え方が示されました。
ただし、結晶粒を細かくすることは必ずしもクリープ強度の向上につながりません。
一般に、高温クリープでは粒界での変形や損傷も重要になるためです。
このため、耐水蒸気酸化性と高温強度の両立を考えて結晶粒径を制御する必要があります。
② ショットブラスト加工による酸化の抑制
耐水蒸気酸化性を改善するもう一つの重要な方法が、管内面へのショットブラスト加工です。
ショットブラスト加工は、小さな粒子を管内面に衝突させ、表面に塑性変形を与える加工方法です。
この加工によって、管内面の表層には転位などの格子欠陥が多く導入され、冷間加工層が形成されます。
冷間加工によって形成された格子欠陥は、Crの拡散や酸化皮膜の形成挙動に影響し、Crに富む保護性の高い酸化皮膜の形成を促進すると考えられています。
その結果、Feに富む酸化スケールの成長が抑制され、耐水蒸気酸化性の改善につながります。
このように、ショットブラスト加工は、鋼の化学成分を変更することなく、管内面の表面組織を制御することで耐水蒸気酸化性を高める技術なのです。

管外面では高温腐食も重要になる
ここまでは、オーステナイト系ステンレス鋼管の内面で発生する水蒸気酸化について説明しました。
しかし、ボイラの過熱器管や再熱器管では管外面で発生する高温腐食も重要な損傷要因です。
高温腐食は、燃焼ガスや燃料灰に含まれる腐食性成分が管外面に作用することで発生します。
その原因は、使用する燃料によって異なります。
重油焚ボイラでは、燃料に含まれるV(バナジウム)やNa(ナトリウム)などが問題となります。これらの成分から低融点の化合物が形成されると、管外面で溶融塩腐食が進行する場合があります。この代表的な現象がバナジウムアタックです。
一方、石炭焚ボイラでは、燃料に含まれるS(硫黄)やNa・K(アルカリ金属)などが高温腐食に関係します。
これらの成分から低融点のアルカリ硫酸塩系化合物が形成され、管外面に付着すると、保護性酸化皮膜が損なわれ、局部的な腐食や減肉が進行する場合があります。
また、高温腐食は温度の影響を強く受けます。
石炭燃焼灰による高温腐食の試験例では、管のメタル温度が650℃を超える付近から腐食が増加し、700℃付近で腐食量が最大となるベル型の温度依存性が報告されています。
ただし、腐食が最大となる温度や腐食量は、燃焼灰の組成や試験条件によって変化します。
さらに、実際のボイラでは、燃焼灰が堆積しやすい管の曲がり部などで局部的な高温腐食が発生する場合があります。
このような腐食によって管が減肉すると、耐圧強度が低下し、最終的には漏えいや噴破につながるおそれがあります。
このように、ボイラ用オーステナイト系ステンレス鋼管では、
管内面では耐水蒸気酸化性、管外面では耐高温腐食性
をそれぞれ評価する必要があります。

オーステナイト系ステンレス鋼の弱点
① 熱膨張係数が大きい
オーステナイト系ステンレス鋼は、一般にフェライト系耐熱鋼より熱膨張係数が大きいという特徴があります。
そのため、加熱や冷却による熱変形が大きくなりやすく、異材溶接部や拘束の大きい部分では熱応力への配慮が重要になります。
② 熱伝導率が低い
また、一般にフェライト系耐熱鋼より熱伝導率が低く、部材内部に温度差が生じやすい性質があります。
このため、起動停止時の過渡的な温度変化や熱疲労に対して注意する必要があります。
このような性質も、管寄せや主蒸気管などの厚肉耐圧部材で高強度フェライト系耐熱鋼が重視される理由の一つです。
③ 溶接性と長時間使用による組織変化
オーステナイト系ステンレス鋼では、溶接時の高温割れ、熱影響部の組織変化、長時間使用中の析出物の変化なども考慮しなければなりません。
特にTiやNbを添加したSUS321H、SUS347Hでは、合金元素の添加によって溶接時の挙動が変わります。
このように、高温強度と耐水蒸気酸化性に優れた材料であっても、加工性や溶接施工性まで含めた総合評価が必要になります。

まとめ|高温伝熱管の材料選定は強度と耐食性の両立
オーステナイト系ステンレス鋼は、発電用ボイラの過熱器管や再熱器管に広く使用されてきた主要耐熱材料です。
代表的な鋼種には、SUS304H、SUS316H、SUS321H、SUS347Hがあります。
これらの材料は、CrやNiを基本とするオーステナイト組織を利用し、Mo、Ti、Nbなどの合金元素によって材料特性を調整しています。
しかし、高温伝熱管の材料選定では、クリープ強度だけでなく、管内面の水蒸気酸化と管外面の高温腐食を考える必要があります。
特に、高温水蒸気による酸化スケールの生成と剥離は、管閉塞やタービン損傷につながるおそれがあります。
このため、細粒SUS347H鋼管の開発や、ショットブラスト加工による耐水蒸気酸化性の改善が進められてきました。
一方、オーステナイト系ステンレス鋼には、熱膨張係数が大きく、熱伝導率が低いという特徴もあります。
また、溶接性や長時間使用中の金属組織の変化も重要な評価項目です。
したがって、材料の選定では、高温強度、耐水蒸気酸化性、耐高温腐食性、加工性、溶接性、経済性を総合的に考える必要があります。
ここで重要なのは、
材料の優劣は一つの材料特性だけでは決まらない
ということです。
ボイラのどこに使用するのか、その部位がどのような温度や環境にさらされるのかによって、適した材料は異なります。
材料の化学成分と金属組織を理解すると、なぜ高温伝熱管にオーステナイト系ステンレス鋼が使用され、なぜ同じステンレス鋼でも鋼種や表面加工方法を使い分けるのかが見えてきます。

参考文献
[1] 冨士川尚男・牧浦宏文・吉川州彦・三浦実・八木基雄・湯沢浩(1980)「ボイラ用ステンレス鋼管 SUS347HTB」『火力原子力発電』第31巻,第7号,pp.761–774.
[2] 加根魯和宏・南雄介・北尾幸一・市之瀬弘之(1978)「ショット・ブラスト加工ステンレス鋼管の特性」『火力原子力発電』第29巻,第4号,pp.399–416.
[3] 山内秀紀・大倉一・椎橋啓・大島道雄・常松之忠・馬木秀雄(2002)「Ⅲ.ボイラ・環境設備の設計と材料」『火力原子力発電』第53巻,第10号,pp.1177–1220.
[4] 浜田幾久・福田祐治(1999)「ボイラ伝熱管の高温腐食」『火力原子力発電』第50巻,第11号,pp.1422–1431.
[5] 「Ⅳ.材料の特性と設計〔1〕」『火力原子力発電』1992年6月号,pp.739–760.
くろがねくんの一言
「高温に強いだけじゃダメなんだ!材料の組織と使用環境を知れば、なぜその鋼種が選ばれるのかが見えてくるよ!」

<執筆者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業 出身 の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
材料から設備を診る! 技術経営コンサルタント





