【重工系労働安全アーカイブ#22】突発トラブル時に作業を始めてはいけない理由|まず止める・呼ぶ・待つ

突発トラブルアイキャッチ Industrial safety

設備が突然止まった。

異音がした。

詰まりが発生した。

センサーが異常を示した。

配管から漏えいした。

こうした突発トラブルが発生すると、現場では自然に、

「何が起きたのだろう」

と考えます。

そして次に、

「早く原因を見つけたい」

「早く直したい」

という心理が働きます。

生産設備であれば、

「ラインを止めたくない」

プラントであれば、

「早く正常運転へ戻したい」

という状況になるでしょう。

しかし、この

「早く復旧させたい」

という気持ちこそが、突発的な非定常作業を危険にする大きな要因です。

直ぐに復旧作業に取り掛かるな

トラブルが起きると「原因確認」が先になる

設備が突然止まると、

異常発生
↓
設備へ近づく
↓
内部を見る
↓
原因を探す

という行動になりがちです。

これは人として自然な行動でもあります。

しかし、安全上重要なのは、

原因を確認する前に、安全を確認する

ことです。

たとえば搬送設備が停止したとします。

作業者が見ると、ベルトコンベヤに何かが詰まっています。

そこで、

「これを取ればすぐ直る」

と思う。

手を伸ばす。

詰まりを動かす。

その瞬間に設備が動き出す。

こうした災害は、

難しい作業をしていたから起こるのではありません。

「ちょっと確認するだけ」から作業が始まってしまう

ことに問題があります。

ちょっと確認が作業になる

「確認」と「作業」の境界は簡単に消える

最初は、

「見るだけ」

だったかもしれません。

ところが現場では、

見る
↓
触る
↓
動かしてみる
↓
取り除く
↓
調整する

と、行動が少しずつ変化します。

気がつくと、

原因確認が、異常処置作業に変わっている

ことがあります。

ところが、

作業許可は取っていない。

設備は隔離していない。

残留エネルギーも確認していない。

他の作業者にも知らせていない。

この状態で人が危険源へ近づくことになります。

突発作業が危険なのは、

「作業を始めます」と宣言して始まるとは限らない

からです。

確認と作業の境界

「止まっている」と「安全」は違う

設備が停止していれば、

一見すると安全に見えます。

しかし、

モーターが止まっている
= 電源が遮断されている

とは限りません。

配管の流れが止まっている
= 圧力がゼロ

とも限りません。

設備には、

電気、油圧、空気圧、蒸気圧、回転体の惰性、重力、バネ、高温、位置エネルギーなどが残っている可能性があります。

また、

自動復帰するかもしれない。

別の作業者が再起動するかもしれない。

詰まりが取れた瞬間に動くかもしれない。

という危険もあります。

したがって、

設備停止は、安全確認の入口にすぎません。

止まっていると安全は違う

突発トラブル時は「直す」より先に「止める」

異常が発生したとき、

最初に考えるべきなのは、

どう直すか

ではありません。

まず、

これ以上危険な状態を広げない

ことです。

つまり、

異常を認識する
↓
設備を安全側に停止する
↓
人が危険区域へ入らないようにする

という初動です。

特に重要なのは、

原因が分からなくても停止してよい

という考え方です。

原因調査より先に、

設備と人を安全な状態に置く。

これが突発対応の基本になります。

直すより先に止める

次に「呼ぶ」

停止したら、

一人で原因を解決しようとしないことも重要です。

上司

設備担当者

保全担当者

運転責任者

電気担当者

必要な人へ連絡します。

ここで重要なのは、

単なる

「設備が止まりました」

だけではありません。

どの設備か

どんな異常か

今どの状態か

誰が現場にいるのか

設備を操作したか

危険区域に人がいる可能性はないか

こうした情報を共有します。

次に呼ぶ

そして「待つ」

現場を見ると、

「原因はこれだ」

と分かることがあります。

すると、

「自分なら直せる」

「工具もある」

「30秒で終わる」

と思ってしまいます。

しかし、

わかったことと、作業してよいことは別です。

設備状態

隔離範囲

残留エネルギー

周辺設備

他作業

復旧操作

これらが確認されるまで、

作業を始めない。

だから、

止める
↓
呼ぶ
↓
待つ

なのです。

この「待つ」は何もしないことではありません。

安全条件が整うまで、作業を開始しないという重要な安全行動

です。

そして待つ

「すぐ直せる」が一番危ないこともある

大きな故障なら、

さすがに一人で修理しようとはしません。

専門部署を呼びます

設備を止めます

手順を確認します

むしろ危ないのは、

簡単そうに見える異常

です。

少し詰まっている

ボルトが緩んでいる

センサーがずれている

物が引っ掛かっている

こうしたものは、

「ちょっと直せば済む」

と思いやすいからです。

しかし、

作業時間の短さと、災害の重大さは関係ありません。

数秒の作業でも、

回転体への巻き込まれ

挟まれ

感電

高圧流体の噴出

重量物の落下

が起きれば重大災害になります。

直ぐ直せるが一番危ないこともある

なぜ工程を飛ばしてしまうのか

本来であれば、

異常確認
↓
停止
↓
関係者へ連絡
↓
隔離
↓
残留エネルギー確認
↓
作業方法の決定
↓
作業

と進むべきです。

ところが、

「早く復旧したい」

という心理が入ると、

異常発生
↓
現場へ行く
↓
原因を見る
↓
そのまま直す

へ短絡しやすくなります。

つまり、

安全に必要な工程が「復旧を遅らせる工程」に見えてしまう

のです。

しかし実際には逆です。

事故が起きれば、

設備停止はさらに長期化します。

人身災害への対応

現場保存

原因調査

行政対応

設備点検

再発防止

そう考えれば、

安全確認を省略して数分早く復旧することには、大きな意味はありません。

なぜ安全手順を飛ばす?

「止める・呼ぶ・待つ」を標準にする

ここで重要なのは、

「作業者が冷静に判断しましょう」

だけで終わらせないことです。

突発時ほど、

判断する項目を少なくしておく

必要があります。

たとえば、

異常を発見したら
↓
勝手に処置しない
↓
設備を安全側に停止する
↓
責任者へ連絡する
↓
指示があるまで危険部へ近づかない

と決めておきます。

つまり、

突発時の行動そのものを標準化する

のです。

突発トラブルは発生時刻までは予測できなくても、搬送設備の詰まり、回転機の異音・振動、配管の漏えい、センサー異常、制御系のトリップなど、発生パターンはある程度想定できます。 突発作業の安全対策パターン集

だからこそ、

起きてから考えるのではなく、

起きたときに何をするかを先に決めておく

ことができます。

止める待つ呼ぶを標準にする

管理者が「早く直せ」と言わない

もう一つ重要なのが、

管理者の言動です。

設備が止まったとき、

上司が、

「原因は?」

「いつ動く?」

「何分で直せる?」

と復旧時間ばかり聞けば、

現場には、

早く直さなければならない

という圧力がかかります。

それより先に確認すべきなのは、

「人は大丈夫か」

「設備は安全に止まっているか」

「隔離できているか」

です。

管理者自身が、

安全確認より復旧を優先するメッセージを出さない

ことも重要です。

管理者の態度

新人には「直し方」より「止まり方」を教える

新人教育でも同じです。

設備が異常になったときに、

どう直すか

をすべて教えることはできません。

トラブルの種類は多く、

設備状態も毎回違うからです。

それより、

異常を感じたら、

触らない。
止める。
呼ぶ。
待つ。

という基本行動を教えておく方が重要です。

分からないときに作業を止めることは、

知識不足ではありません。

安全側へ判断できた

ということです。

直し方よりとまり方を教える

「復旧開始の条件」を決めておく

設備を止めたあと、

いつ作業を開始してよいのか。

ここも曖昧にしない方がよいでしょう。

たとえば、

設備状態を確認した。

作業責任者を決めた。

停止範囲を決めた。

エネルギーを隔離した。

残留エネルギーを除去した。

他作業との干渉を確認した。

作業方法を共有した。

という条件がそろって、

初めて作業開始です。

つまり、

異常が起きたから作業開始

ではありません。

安全条件が整ったから作業開始

です。

ここを明確にすると、この回の記事のメッセージがかなり締まります。

復旧開始の条件

突発トラブル時に作業を始めてはいけない理由 まとめ

突発トラブルが発生すると、

「早く原因を知りたい」

「早く直したい」

「早く設備を動かしたい」

という心理が働きます。

しかし、

その心理によって、

停止

連絡

隔離

残留エネルギー確認

作業方法の確認

といった、本来必要な工程が省略されることがあります。

だからこそ、

異常発生
↓
止める
↓
呼ぶ
↓
待つ
↓
安全条件を確認する
↓
作業を始める

という順番が重要です。

突発トラブルが起きたとき、

最初の仕事は、

設備を直すことではありません。

まず、

人と設備を安全な状態にすること

です。

「すぐ直せそう」

と思ったときほど、

そこで一度止まる。

非定常作業の安全とは、

復旧を急がないことではなく、安全に復旧できる条件を整えてから動くこと

なのです。

突発トラブルまとめ

安全くんの一言

「“すぐ直せそう”と思ったときほど、まず止める・呼ぶ・待つ!安全に復旧できる条件を整えてから動こう。」

安全くん

<執筆者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業出身の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
材料から設備を診る! 技術経営コンサルタント

やくも技術士事務所|重工系技術士(金属部門)・労働安全コンサルタント・中小企業診断士 難波 一夫|材料から設備を診る 損傷解析から設備マネジメント・労働安全・経営まで総合支援
中小企業診断士・労働安全コンサルタントの資格を持つ重工系技術士(金属部門)が、発電設備の損傷解析、材料劣化評価、保全最適化、安全対策を総合的に支援。実務経験に基づく技術コンサルティングを提供します。
重工系技術士|材料・設備・安全・経営をつなぐ技術コンサルティング|やくも技術士事務所
中小企業診断士・労働安全コンサルタントの資格を持つ重工系技術士(金属部門)が、発電設備の損傷解析、材料劣化評価、保全最適化、安全対策を総合的に支援。実務経験に基づく技術コンサルティングを提供します。