リスクアセスメント基礎編 第6回 残留リスクとは
はじめに 「対策したから安全」と言い切れますか?
リスクアセスメントによって危険源を洗い出し、リスクを見積もり、必要なリスク低減措置を実施する。
ここまで進むと、
「これで安全になった」
と考えたくなります。
しかし、実際の現場では、対策を実施してもリスクを完全にゼロにできるとは限りません。
例えば、回転体への接触を防ぐために安全カバーを設置したとします。
通常運転中は、人が回転体に触れる可能性を大幅に下げることができます。
しかし、
- 点検のためにカバーを開ける
- 清掃のために設備内部へ手を入れる
- 故障時にカバーを取り外す
- 調整運転を行う
といった作業まで考えると、危険源そのものがなくなったわけではありません。
対策したあとにも、リスクは残ることがあります。
これが今回取り上げる「残留リスク」です。

残留リスクとは
残留リスクとは、
リスク低減措置を講じたあとにも残っているリスク
です。
重要なのは、
「対策をしたか」ではなく、「対策した結果、どのようなリスクが残っているか」
を見ることです。
例えば、高所からの墜落リスクを考えてみましょう。
作業床を設置する。
手すりを設ける。
開口部をふさぐ。
こうした設備対策によって、墜落の可能性は大きく低下します。
しかし、設備の構造上どうしても手すりを外さなければならない作業があれば、その作業では墜落のリスクが残ります。
つまり、
リスク低減措置を実施したことと、リスクがなくなったことは同じではありません。

対策したら、もう一度リスクを評価する
リスク低減措置を実施したあとには、
対策後のリスクを再評価する
ことが重要です。
対策前には、
「重大な災害につながる可能性があり、発生する可能性も高い」
と評価されていたリスクが、設備対策によって大きく低下することがあります。
しかし、
本当に許容できるところまで下がったのか。
ここを確認しなければなりません。
例えば、安全カバーを取り付けたことで通常作業時の接触リスクが低下しても、段取り替えや清掃時にはカバーを開ける必要があるかもしれません。
その場合、
通常運転時だけを見て、
「対策済みだからリスクは低い」
と判断するのは危険です。
対策後の実際の作業をもう一度見て、残っている危険を確認する。
ここまで行って、初めてリスク低減措置の効果を評価できます。

対策によって新しい危険源が生まれることもある
もう一つ注意したいことがあります。
それは、
安全対策そのものが、新しい危険源を生み出していないか
という視点です。
例えば、設備への接触を防ぐために大きなカバーを設置したとします。
接触リスクは低減できたとしても、
- カバーが重く、開閉時に腰を痛める
- カバーを開けた状態で固定できず、落下する
- カバーによって内部が見えにくくなる
- 点検作業の姿勢が悪くなる
といった別の問題が発生する可能性があります。
一つのリスクを下げた結果、別のリスクを高めてしまっては十分な対策とはいえません。
したがって、対策後の再評価では、
元のリスクが下がったか
だけでなく、
新しい危険源が生まれていないか
についても確認する必要があります。

残ったリスクは「見える化」する
では、設備対策などを行ってもリスクを十分に取り除けない場合は、どうすればよいのでしょうか。
重要なのは、
残っているリスクを明確にすること
です。
「対策したから大丈夫だろう」
と曖昧にしてはいけません。
例えば、
「通常運転時には接触のおそれはないが、清掃時には回転体への接触リスクが残る」
「手すりを設置しているが、設備搬入時には一時的に取り外す必要があり、墜落リスクが残る」
といったように、
どの作業で、どの危険源による、どのようなリスクが残っているのか
を明確にします。
これが残留リスクを管理する第一歩です。

残留リスクは作業者まで伝わっているか
残留リスクをリスクアセスメント表に書いただけでは十分ではありません。
そのリスクにさらされる作業者が、
「ここには、まだこの危険が残っている」
と理解している必要があります。
そのためには、残留リスクに応じて、
- 作業手順書への反映
- 作業前ミーティングやKYでの確認
- 注意表示や警告表示
- 教育・訓練
- 保護具の使用
- 点検・保守時の特別な手順
などにつなげていきます。
特に非定常作業では、通常運転時には表面化しない危険源に人が接近することがあります。
設備を止める。
カバーを開ける。
内部へ入る。
部品を交換する。
試運転する。
こうした場面で残留リスクが作業者に伝わっていなければ、せっかく行ったリスクアセスメントが現場の安全につながりません。

「注意する」は最後の手段
残留リスクがあるからといって、すぐに
「作業者に注意させよう」
と考えるのも問題です。
前回の記事で説明したように、リスク低減措置には優先順位があります。

まず危険源そのものをなくせないか考える。
それが難しければ、危険源から人を隔離するなどの工学的対策を考える。
そのうえで、作業手順や教育などの管理的対策を行い、必要に応じて個人用保護具を使用する。
つまり、
「注意してください」は、設備で対策できる危険を放置する理由にはなりません。
できるところまでリスクを低減したうえで、それでも残ったリスクを確実に管理する。
この順番が重要です。

リスクアセスメントは「対策したら終わり」ではない
ここまでを見ると、リスクアセスメントは一度評価表を作れば終わるものではないことが分かります。
危険源を特定する。
↓
リスクを見積もる。
↓
優先順位を決める。
↓
リスク低減措置を実施する。
↓
対策後のリスクを再評価する。
↓
残留リスクを明確にする。
↓
作業者へ伝え、管理する。
そして、設備や作業方法が変われば、再び危険源を確認します。
リスクアセスメントは、
一度きりの点数付けではなく、リスクを継続的に管理する仕組み
なのです。

まとめ 「対策した=安全」ではない
今回、一番覚えていただきたいのは、
対策したからといって、危険がすべてなくなるわけではない
ということです。
リスク低減措置を実施したら、
本当にリスクは下がったのか。
どんなリスクがまだ残っているのか。
新しい危険源を生み出していないか。
を、もう一度確認します。
そして残ったリスクは、
誰が、どの作業で、そのリスクにさらされるのか
を明確にして、作業者まで確実に伝えます。
リスクアセスメントは、
「対策しました」
という記録を残すためのものではありません。
事故が起きる前に危険を見つけ、できる限りリスクを下げ、それでも残ったリスクを管理する。
そこまで行って、初めて現場の安全につながります。

安全くんの一言
「対策したあとに、何が残ったかを見るのが大事だよ!」

リスクアセスメント基礎編 第7回(最終回)は『リスクアセスメントを形骸化させないために』について解説します。

前回のおさらいはこちら!

<執筆者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業 出身 の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
材料から設備を診る! 技術経営コンサルタント



