【重工系労働安全アーカイブ#20】非定常作業のリスクアセスメント|作業前に何を考えるのか

非定常作業のリスクアセスメント アイキャッチ Industrial safety

非定常作業では、

保全
点検
補修
異常処置
設備停止
設備立上げ
試運転

など、通常とは異なる設備状態で作業します。

そのため、

「いつもの作業で大丈夫だったから、今回も大丈夫」

とは限りません。

設備のカバーが外れている。

安全装置が一時的に解除されている。

配管が開放されている。

別の班が同じ設備で作業している。

停止していても、電気や圧力などのエネルギーが残っている。

こうした状況が重なるのが非定常作業です。

だからこそ、作業を始める前に、

何が危険なのか
↓
どの程度のリスクなのか
↓
どうすればリスクを下げられるのか

を考えておく必要があります。

これが、

非定常作業におけるリスクアセスメント

です。

非定常作業のリスクアセスメント

リスクアセスメントの基本は変わらない

非定常作業であっても、リスクアセスメントの基本的な考え方は同じです。

危険源を抽出する
↓
リスクを評価する
↓
対策を考える
↓
対策後のリスクを確認する

という流れです。

ただし、非定常作業では、

設備状態が通常と異なる

ため、

通常作業のリスクアセスメントだけでは危険を拾いきれない

ことがあります。

リスクアセスメントの基本は同じ

※リスクアセスメントについてはこちらが参考になります。

リスクアセスメント |事故が起きる前に危険源を見つけ、リスクを低減化するツール
リスクアセスメントは、危険源を見つけ、リスクを見積もり、対策し、残ったリスクを管理するツールです。本ページでは、その基本的な考え方を現場目線で順番に解説します。一般編基礎編

まず「何をするか」より「今どんな状態か」を見る

非定常作業のリスクアセスメントで最初に考えたいのは、

作業内容だけではなく、設備状態

です。

たとえば、

「ポンプを点検する」

という作業だけを見ても、危険は十分に見えてきません。

重要なのは、

運転中なのか。

停止しているのか。

電源は切れているのか。

配管は隔離されているのか。

内部に圧力は残っていないか。

高温ではないか。

周辺設備は運転していないか。

という、

現在の設備状態

です。

同じ「ポンプ点検」でも、設備状態によって危険源は変わります。

今どんな状態かを見る

危険源を抽出する

まず行うのが、

危険源の抽出

です。

ここでは、

「何が起きたらケガをするか」

ではなく、

「ケガを起こす可能性のあるエネルギーや状態は何か」

を考えると整理しやすくなります。

たとえば、

電気
回転体
高温部
蒸気
圧縮空気
油圧
重力
バネの力
吊り荷
化学物質

などです。

非定常作業では、普段は人から隔離されている危険源へ近づく場合があります。

そのため、

通常運転では接触しない危険源まで洗い出す

ことが必要です。

危険源の抽出

※危険源については、こちらの記事で詳しく解説しています!

【重工系労働安全アーカイブ#11】危険源とは何か|事故のもとになるエネルギーを見る
リスクアセスメント基礎編 第2回 危険源とは何かリスクアセスメントについて話をしていると、「この設備にはリスクがある」「フォークリフトがリスクだ」「高所作業がリスクだ」という言い方を耳にすることがあります。日常会話としては意味が通じます。し...
【重工系労働安全アーカイブ#12】危険源をどう洗い出すか|まず作業を分解してみよう
リスクアセスメント基礎編 第3回 危険源をどう洗い出すかリスクアセスメントでは、最初に危険源を洗い出します。その後、 リスクを見積もる 優先順位を決める 対策を検討するという流れに進みます。しかし実際には、この最初の「危険源を洗い出す」とい...

「止まっている設備」からも危険源を探す

設備が停止していると、

「もう危険はない」

と思いやすくなります。

しかし実際には、

モーターの電源が生きている。

配管内に圧力が残っている。

油圧アキュムレータにエネルギーが蓄積されている。

吊り上げた部品が重力で落下する可能性がある。

高温部がまだ冷えていない。

ということがあります。

つまり、

停止しているかではなく、危険なエネルギーが残っていないか

を見る必要があります。

とまっている設備の危険源

作業の途中で状態が変わることも考える

非定常作業では、

作業開始時だけ安全を確認すればよい

わけではありません。

たとえば、

停止
↓
隔離
↓
分解
↓
部品交換
↓
復旧
↓
試運転

と設備状態は変化します。

そして、

状態が変われば、危険源も変わります。

分解中には、

落下
挟まれ
残圧

が危険かもしれません。

一方、試運転では、

回転
通電
高温
圧力

が再び戻ってきます。

そのためリスクアセスメントでは、

作業を一つの状態として見るのではなく、工程ごとに設備状態を区切って考える

ことが重要です。

非定常作業で状態が変わる

「誰がするか」もリスクの一部

同じ作業でも、

誰が行うか

によってリスクは変わります。

経験者なのか。

初めて作業する人なのか。

協力会社なのか。

設備をよく知っている人なのか。

単独作業なのか。

複数人作業なのか。

非定常作業では、経験機会が少ないため、

作業者の経験や習熟度そのものが重要な条件

になります。

手順書があっても、

初めて見る設備で安全に判断できるとは限りません。

誰がするかもリスクの一部

「一人で確認に行く」を見落とさない

リスクアセスメントでは、

予定された作業だけを見てしまいがちです。

しかし実際の現場では、

異音がした
↓
一人で見に行く

設備が止まった
↓
近くの人が様子を見る

という行動が起こります。

そして、

確認だけのつもり
↓
少し触る
↓
詰まりを取る
↓
そのまま処置する

と作業内容が変わることがあります。

つまり、

「人が実際にどう動くか」

まで考えなければ、本当のリスクは見えてきません。

一人で確認するリスク

「他の作業」を必ず見る

非定常作業では、

混在作業

も重要です。

たとえば自分たちは配管を点検している。

しかし近くでは、

クレーン作業
溶接作業
足場作業
電気作業

が行われている。

すると、

自分たちが何もしていなくても、

吊り荷が近づく。

火花が飛ぶ。

足場が変更される。

電源状態が変わる。

といったことがあります。

したがって、

自分の作業の危険源だけでなく、他作業から持ち込まれる危険源

も評価する必要があります。

他の作業を見る

次にリスクを評価する

危険源を洗い出したら、

次に、

その危険がどの程度のリスクなのか

を評価します。

一般的には、

災害が起きたときの重篤度

と

災害が起きる可能性

を組み合わせて考えます。

たとえば、

回転体に巻き込まれる
→ 結果は重大

しかも、

点検のたびに回転体へ近づく
→ 発生可能性も無視できない

となれば、

優先的に対策すべきリスク

になります。

リスクの評価

※リスクの見積り方法については、こちらの記事で詳しく解説しています!

【重工系労働安全アーカイブ#13】リスクをどう見積もるか|重大性×発生可能性をどう考える?
リスクアセスメント基礎編 第4回 リスクをどう見積もるか危険源を洗い出したら、次に行うのがリスクの見積りです。リスクアセスメントでは一般に、「災害が起きたとき、どれほど重大になるのか」そして、「その災害が、どの程度起こり得るのか」を組み合わ...

非定常作業では「発生頻度が低い=低リスク」とは限らない

非定常作業は、

年に一度

数年に一度

しか行わないものもあります。

そのため、

「頻度が低いからリスクも低い」

と思ってしまうことがあります。

しかし、

作業頻度が低い
↓
経験が少ない
↓
手順に慣れていない
↓
判断ミスが起きやすい

という側面もあります。

さらに、

設備内部へ入る

高圧系統を開放する

重量物を吊る

高所で作業する

など、

一度事故が起きれば重大な結果になる作業

も少なくありません。

したがって、

作業頻度だけでリスクを低く評価しない

ことが重要です。

低リスクとは限らない

対策は「注意する」から考えない

リスクが高いとわかったら、

次に対策を考えます。

ここでありがちなのが、

「十分注意する」

「KYを徹底する」

「経験者を配置する」

だけで終わってしまうことです。

もちろん、教育や注意喚起も必要です。

しかし、

できるだけ人の注意力に依存しない対策

を先に考えるべきです。

たとえば、

危険な作業そのものをなくせないか。

設備停止中にしか開かない構造にできないか。

物理的に電源を遮断できないか。

配管を確実に隔離できないか。

ロックアウト・タグアウトを使えないか。

立入禁止範囲を設けられないか。

といった対策です。

確実な対策から考える

対策には順番がある

基本的には、

危険源そのものをなくす
↓
危険源から人を隔離する
↓
設備・工学的対策をする
↓
手順・管理で対応する
↓
保護具を使用する

という順番で考えます。

非定常作業では、

「作業者が気をつける」

に寄りすぎると、設備状態の変化や突発事象に対応できません。

だからこそ、

設備側で止める・隔離する・近づけなくする

という考え方が重要です。

対策には順番がある

※リスク低減方法については、こちらの記事で詳しく解説しています!

【重工系労働安全アーカイブ#14】リスク低減措置をどう決めるか|まず危険源をなくせないか考える
リスクアセスメント基礎編 第5回 リスク低減措置をどう決めるかリスクアセスメントでは、危険源を洗い出し、そこから生じるリスクを見積もります。しかし、リスクを「高・中・低」に分類しただけでは、現場は安全になりません。大切なのは、その結果を使っ...

対策後のリスクも確認する

対策を決めたら、

そこで終わりではありません。

対策によって、

別のリスクが生まれていないか

を確認します。

たとえば、

設備を停止した
↓
暗くなった

カバーを外した
↓
足場が狭くなった

配管を切り離した
↓
開口部から漏えいする可能性が生まれた

仮設足場を設置した
↓
通路が狭くなった

ということがあります。

つまり、

対策した結果、作業環境がどう変わったか

まで見る必要があります。

対策後のリスク確認

※残留リスクについては、こちらの記事で詳しく解説しています!

【重工系労働安全アーカイブ#15】残留リスクとは|対策しても残る危険をどう管理するか
リスクアセスメント基礎編 第6回 残留リスクとははじめに 「対策したから安全」と言い切れますか?リスクアセスメントによって危険源を洗い出し、リスクを見積もり、必要なリスク低減措置を実施する。ここまで進むと、「これで安全になった」と考えたくな...

非定常作業のリスクアセスメントで見るポイント

作業前には、最低限、次の観点を確認すると整理しやすくなります。

安全確認チェックリスト

 

「作業前KY」と「リスクアセスメント」は同じではない

KYは、

今日の作業で何が危ないかを、作業者同士で確認する活動

です。

一方、リスクアセスメントは、

危険源を体系的に抽出し、リスクを評価し、対策を決める仕組み

です。

つまり、

リスクアセスメントで安全の骨格をつくり、

作業前KYでその日の条件を確認する

という関係です。

非定常作業では、

作業条件がその都度変わりやすいため、

RA+作業前確認

の組み合わせが特に重要になります。

KYとリスクアセスメントは違う

非定常作業のリスクアセスメント まとめ

非定常作業では、

通常とは異なる設備状態で作業します。

そのため、

単に、

「今日は何をするのか」

だ

けを考えても十分ではありません。

重要なのは、

今、設備はどの状態なのか
↓
どんな危険源があるのか
↓
誰が作業するのか
↓
他の作業と干渉しないか
↓
どう停止・隔離するのか
↓
作業後にどう復旧するのか

まで考えることです。

そしてリスクアセスメントでは、

危険源抽出
↓
リスク評価
↓
対策
↓
対策後の再確認

という基本を外さないことが大切です。

非定常作業では、

経験が少ない。

設備状態が変化する。

人の動きも変わる。

他作業も影響する。

だからこそ、

「作業を見る」のではなく、「設備・人・エネルギー・周囲の状態をまとめて見る」

ことが重要になります。

非定常作業のリスクアセスメントとは、

いつもと違う状態の中で、何が危険になっているのかを作業前に見つけること

なのです。

非定常作業のリスクアセスメントまとめ

安全くんの一言

「非定常作業では、“何をするか”だけじゃなく、“今どんな状態か”まで見よう!設備・人・エネルギー・周囲をまとめて確認するのが大事だよ。」

安全くん

<執筆者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業出身の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
材料から設備を診る! 技術経営コンサルタント

やくも技術士事務所|重工系技術士(金属部門)・労働安全コンサルタント・中小企業診断士 難波 一夫|材料から設備を診る 損傷解析から設備マネジメント・労働安全・経営まで総合支援
中小企業診断士・労働安全コンサルタントの資格を持つ重工系技術士(金属部門)が、発電設備の損傷解析、材料劣化評価、保全最適化、安全対策を総合的に支援。実務経験に基づく技術コンサルティングを提供します。
重工系技術士|材料・設備・安全・経営をつなぐ技術コンサルティング|やくも技術士事務所
中小企業診断士・労働安全コンサルタントの資格を持つ重工系技術士(金属部門)が、発電設備の損傷解析、材料劣化評価、保全最適化、安全対策を総合的に支援。実務経験に基づく技術コンサルティングを提供します。