はじめに|なぜ高温伝熱管には多くの鋼種が使用されるのか
前回は、ボイラの火炉壁管に炭素鋼やフェライト系低合金鋼が使用される理由を解説しました。

火炉壁管は高温の火炎にさらされますが、管内流体への熱伝達によってメタル温度が比較的低く保たれます。
一方、過熱器管や再熱器管の内部には、すでに高温となった蒸気が流れています。
しかも管外面は高温の燃焼ガスによって加熱されています。
このため、過熱器管や再熱器管のメタル温度は蒸気温度より高くなり、長時間の高温使用に耐えられる材料が必要になります。
実際のボイラでは、STBA22やSTBA24などのCr-Mo系低合金鋼、P91やP92などの高Crフェライト系耐熱鋼、SUS347HやSuper304H、HR3Cなどのオーステナイト系ステンレス鋼が使い分けられています。
それでは、これらの材料は何を基準に選ばれているのでしょうか。
今回は、メタル温度、許容引張応力、クリープ強度、腐食環境、加工性、経済性という観点から、高温伝熱管の材料選定の考え方を整理します。
過熱器と再熱器の役割
過熱器は、ボイラで発生した蒸気をさらに加熱し、過熱蒸気をつくる伝熱面です。
蒸気温度を高めることで、蒸気タービンの熱落差を大きくし、発電効率を向上させることができます。
一方、再熱器は、高圧タービンで仕事をした蒸気をボイラへ戻し、再び加熱する伝熱面です。
再熱によって蒸気サイクルの効率を高めるとともにタービン低圧段での蒸気の湿りを低減する効果があります。
過熱器と再熱器は、いずれも高温の蒸気を扱う設備ですが、一般に再熱器の方が蒸気圧力は低く、蒸気の比体積が大きいという違いがあります。
そのため、再熱器では蒸気の流速や圧力損失にも十分な配慮が必要になります。
また、過熱器・再熱器には、燃焼ガスとの熱交換方式や配置によって、放射式、対流式、放射対流式などがあります。
この違いも、管の熱負荷やメタル温度に影響します。
つまり、過熱器管と再熱器管の材料選定は、蒸気温度だけではなく、伝熱面の構造や配置とも密接に関係しているのです。
高温伝熱管の材料選定はメタル温度がベース
高温伝熱管の材料を選定するうえでベースとなるのがメタル温度です。
過熱器管や再熱器管では、管外面を高温の燃焼ガスで加熱し、管内を蒸気が流れています。
燃焼ガスから受けた熱は、鋼管の外面から管壁を通過し、管内の蒸気へ伝わります。
このため、通常の加熱状態では、管のメタル温度は管内蒸気温度より高くなります。
しかし、この温度差は一定ではありません。
管外面の熱負荷、管肉厚、材料の熱伝導率、管内蒸気の流速や熱伝達率などによって変化します。
また、実機ボイラでは、火炉幅方向やガス流れ方向で熱負荷が均一とは限りません。
したがって、材料を選定するときには、単に過熱器出口の蒸気温度を使用するのではなく、各伝熱面で想定される最高メタル温度を求める必要があります。
① 熱負荷と蒸気流速の影響
熱負荷が高いほど、鋼管が燃焼ガスから受ける熱量は大きくなります。
一方、管内の蒸気流速が低下すると、蒸気側の熱伝達率が低下し、管のメタル温度が高くなる場合があります。
そのため、高温伝熱管の設計では、熱負荷が高い場所に十分な蒸気流量を確保することが重要です。
② 並流式と向流式の違い
過熱器では、燃焼ガスと蒸気の流れる方向の組合せもメタル温度に影響します。
並流式では、高温の燃焼ガスと比較的低温の蒸気が接触するため、管の過度な温度上昇を抑えやすいという利点があります。
一方、向流式では高温の蒸気と高温の燃焼ガスが接触するため、熱の利用効率は高くなるものの、管のメタル温度が高くなりやすくなります。
このため、実際のボイラでは、伝熱性能とメタル温度の両方を考慮して、伝熱面の配置や蒸気の流れ方が決められています。

許容引張応力と必要肉厚から材料を選ぶ
メタル温度が決まると、次に重要になるのが材料の許容引張応力です。
鋼管には、内部を流れる高圧蒸気によって応力が発生します。
したがって、材料には蒸気圧力に耐えられる強度が必要です。
ただし、金属材料は温度が高くなると、一般に強度が低下します。
さらに高温で長時間使用する場合には、一定の応力が作用し続けることによってクリープ変形が進行します。
このため、ボイラ用材料の許容引張応力は、常温の引張強さだけではなく、高温での強度やクリープ特性などを考慮して設定されています。


① 許容引張応力が高いほど薄肉化できる
同じ内圧と管外径の条件で比較すると、許容引張応力が高い材料ほど、計算上必要な管肉厚を小さくできます。
管肉厚が小さくなると、鋼管重量を削減できるほか、管壁の熱抵抗を小さくできるという利点もあります。
ただし、実際の肉厚は適用規格、製造公差、腐食への配慮などによって決まるため、許容引張応力だけで決定されるわけではありません。
② 高温強度は長時間使用を前提に評価する
高温伝熱管は、長期間にわたって高温高圧の条件で使用されます。
したがって、短時間の引張試験で高い強度を示しても、それだけでは十分ではありません。
長時間のクリープ破断強度やクリープ変形特性を確認し、設計寿命に対して必要な強度を確保できる材料を選定することが重要です。
ここで注目したいのは材料の高温強度は、温度と時間によって評価しなければならないということです。

高温強度だけでは材料を選ばない
過熱器管や再熱器管では、高温強度と同様に重要なのが耐食性です。
高温伝熱管は、管の内面と外面で異なる環境にさらされています。
① 管内面の水蒸気酸化
管内面は高温水蒸気にさらされています。
このため、鋼管内面には酸化スケールが成長します。
酸化スケールが厚くなると、管壁の熱抵抗が増加し、メタル温度の上昇につながる場合があります。
さらに、酸化スケールが剥離すると、過熱器管や再熱器管のベンド部に堆積することがあります。
剥離スケールによって蒸気の流路が狭くなると、蒸気流量が低下し、局部過熱やクリープ破断を引き起こす危険性があります。
このため、高温伝熱管には高温強度だけでなく、優れた耐水蒸気酸化性が要求されます。
細粒SUS347HやSuper304Hなどでは、金属組織の制御によって耐水蒸気酸化性を改善しています。
また、HR3CではCr含有量を高めることで、保護性の高い酸化皮膜の形成を促進しています。


② 管外面の高温腐食
一方、管外面は燃焼ガスや燃料灰にさらされています。
特に重油焚ボイラでは、燃料中に含まれるVやNaなどに由来する付着物によって、高温腐食が発生する場合があります。
石炭焚ボイラでは、灰中のアルカリ金属や硫黄分などが腐食に影響します。
こうした腐食の進行は、材料の化学成分だけでなく、管のメタル温度や灰の組成、燃焼ガスの雰囲気によっても変化します。
したがって、材料選定では管内面の耐水蒸気酸化性と管外面の耐高温腐食性を別々に評価することが必要です。
高温強度の高い材料が、必ずしもあらゆる腐食環境に適しているわけではありません。

メタル温度に応じて鋼種を使い分ける
過熱器管や再熱器管には、金属温度に応じてさまざまな鋼種が使用されています。
代表的な材料を整理すると、次のようになります。

※実際の使用可能温度は鋼種、適用規格、設計条件によって異なります。
① 比較的低温の部分では炭素鋼や低合金鋼
過熱器の入口側など、メタル温度が比較的低い部分では、炭素鋼やCr-Mo系低合金鋼を使用できます。
CrやMoを添加した低合金鋼では、炭素鋼より高温強度や耐酸化性を改善することができます。


② より高温の部分では高Crフェライト系耐熱鋼
蒸気温度が高くなると、従来の低合金鋼では必要なクリープ強度を確保しにくくなります。
そこで、P91やP92などの高Crフェライト系耐熱鋼が使用されます。
これらの材料では、焼戻しマルテンサイト組織と微細な析出物によって高温強度を高めています。


③ 高温強度と耐食性が要求される部分ではオーステナイト鋼
さらにメタル温度が高い部分や、耐酸化性・耐高温腐食性が重要となる部分では、オーステナイト系ステンレス鋼が使用されます。
SUS347H、Super304H、HR3Cなどは、それぞれの合金設計によって高温強度と耐食性を改善した材料です。
ただし、オーステナイト系ステンレス鋼は、フェライト系鋼より熱膨張係数が大きく、熱伝導率が低いという特徴があります。
したがって、必要な高温強度を満足する場合には、熱物性や経済性も考慮してフェライト系耐熱鋼を選択することができます。



加工性・溶接性・組織安定性も重要
過熱器管や再熱器管は、直管だけで構成されているわけではありません。
Uベンドなどの曲げ加工を行い、管寄せへ溶接して組み立てられます。
また、異なる温度域の材料を使い分けるため、異材溶接部が存在する場合もあります。
① 曲げ加工性
伝熱管には、必要な曲げ加工を行っても割れなどの欠陥が生じない加工性が要求されます。
高強度化のために合金元素を増やすと、加工性に影響する場合があります。
② 溶接性
Cr-Mo系低合金鋼、高Crフェライト系耐熱鋼、オーステナイト系ステンレス鋼では、溶接時の挙動が異なります。
特に異材溶接部では、熱膨張係数の違いによる熱応力や、溶接部の長時間強度に注意する必要があります。
③ 長時間使用中の組織安定性
高温強度を確保するための析出物は、長時間の使用によって粗大化したり、形態が変化したりする場合があります。
その結果、使用中に材料の強度が低下する可能性があります。
したがって、材料選定では、新材の高温強度だけではなく、長時間使用中の金属組織の安定性も評価する必要があります。

材料選定では経済性も考慮
一般に、高温強度や耐食性を向上させるために合金元素を増加させると、材料費が高くなる傾向があります。
しかし、材料費が安い鋼種を選べば、必ずしも設備全体の費用が小さくなるわけではありません。
高強度材料を使用することによって、管肉厚や鋼管重量を削減できる場合があります。
また、耐食性や耐酸化性に優れた材料であれば、酸化スケールの成長や腐食減肉を抑制でき、長期間の設備信頼性向上につながります。
一方、高合金鋼は材料単価が高く、加工や溶接施工にも配慮が必要となります。
そのため、ボイラの材料選定では、鋼管の購入価格だけでなく、製造費、施工費、点検補修費、設備寿命などを総合的に考える必要があります。
つまり、材料選定とは、必要な性能を確保しながら設備全体の経済性を最適化することでもあるのです。
まとめ|高温伝熱管材料の選定基準
過熱器管や再熱器管は、高温の燃焼ガスから熱を受け、管内を流れる蒸気を加熱する伝熱管です。
そのため、材料選定では蒸気温度だけではなく、実際に想定される最高メタル温度を把握する必要があります。
さらに、その温度で必要な許容引張応力やクリープ強度を確保しなければなりません。
また、管内面の水蒸気酸化、管外面の高温腐食、長時間使用による組織変化、加工性や溶接性なども重要です。
こうした条件を考慮して、炭素鋼、Cr-Mo系低合金鋼、高Crフェライト系耐熱鋼、オーステナイト系ステンレス鋼を使い分けています。
ここで重要なのは、
最も高性能な材料を選ぶことが必ずしも最適な材料選定ではない
ということです。
必要なメタル温度と強度を満足し、腐食環境に耐え、加工・溶接施工が可能で、経済性にも優れた材料を選択することが大切です。
前回の火炉壁管と今回の過熱器管・再熱器管を比較すると、同じボイラの伝熱管であっても、使用環境や要求性能によって材料が使い分けられていることが分かります。
材料の特性を理解すると設備の構造や設計の考え方まで見えてくるのです。

参考文献
[1] 「Ⅲ.ボイラの構造」『火力原子力発電』第74巻,第6号,2023年,pp.28–37
[2] 山内秀紀・大倉一・椎橋啓・大島道雄・常松之忠・馬木秀雄(2002)「Ⅲ.ボイラ・環境設備の設計と材料」『火力原子力発電』第53巻,第10号,pp.1177–1220
くろがねくんの一言
「過熱器管や再熱器管の材料は、蒸気温度だけで決めちゃダメなんだ!メタル温度、クリープ強度、腐食環境、施工性、経済性まで考えて、適材適所で選ぶことが大切だよ!」

<執筆者情報>
難波一夫
IHI/石川島播磨重工業 出身 の重工系技術士(金属部門)
中小企業診断士・労働安全コンサルタント・エネルギー管理士資格を保有
材料から設備を診る! 技術経営コンサルタント






